好きなコがいるって

dede

世界情勢はどう変わりますか?


「好きな人がいるってどんな感じかな……」

「うーん、そうだねぇ……」


 と、お昼休みに教室で、みんなでランチを食べてた時。何気なく口にした私の言葉をあーちゃんが拾った。

 私は首だけ捻って振り返ると、あーちゃんの顔を見上げる。ちなみに私はあーちゃんの膝の上に座っている。

「あーちゃん好きな人いるの?」

「え? あ。……うーん、と。まあ」

 と、あーちゃんは目を泳がす。

「そんな事、教えてくれなかったじゃん!」

 あーちゃんの眉間に皺がよる。

「いや、ほら、聞かれたことないし。それより、何で急に? 気になる人でも……っていたら聞かないか」

「うん。ほら、好きな人ができて世界がバラ色に見えたとか言うじゃない? どんなかなーって」

「ああ。昨日私が貸したマンガ?」

 と言ったのは新庄さん。私達の斜め右の席。真正面にはナツキ。以上、4人のランチタイム。

「そうそう。あれ読んでたらそんな事考えちゃって」

「どうなんだろね? 私は分からないけど。あーちゃんさん、ご意見は?」

「え? うーん、私はバラ色って感じはしなかったな」

「えー? 私はバラ色になったけどなぁー」

 とは、ナツキ。って、聞き捨てならない。

「ナツキも好きな人いるの!?」

「いるよー? バラ色、ぶい」

 と、ピースサイン。と、ナツキの視線は私から私の後方に移る。

「でもあーちゃん、バラ色じゃないんだ? 気になるなぁー、何か変わったの?」

 私の頭が重くなる。きっとあーちゃんが顎を乗せたのだろう。そして私の腰に緩く腕が回される。

「……苦しい、かな」

 私は頭を動かさず、目線だけ上に向ける。もちろんそれじゃあーちゃんの表情は見えないし、ただナツキから見て白目を剥いたように見えただけかもしれない。

「あーちゃん、苦しいの?」

 頭部の感触が固いものから柔らかいものになる。どうやら乗せてるものが顎から頬っぺに変わったらしい。

「……うん、苦しい。嫌われないかなっていつも考えるし。他のコと仲良くしてるとこ見ちゃうと妬けて自己嫌悪しちゃうし。私が想ってるほど相手は私のこと想ってないんだろうって考えたら、勝手だよね、不公平だって怒りが込み上げてくるし」

「あーちゃん……」

 だんだんと、あーちゃんの声から元気がなくなっていく。心配になって私が声を掛けようとしたところで、その前にナツキが口を開いた。

「だったらやめちゃえばー?」

「ちょっ、ナツキ!?あーちゃんにそんな言い方しなくても」

 ナツキは顎に指を沿えるとコテンと首を傾げる。

「だってそうでしょー? 苦しいぐらいなら諦めちゃって楽になりなよー? ネガティブ発言ばかりだと未経験の2人もビビっちゃうでしょー?」

「え、私は別に何とも思ってないわよ」

「私もそこまでじゃないけど」

 と、新庄さんと私。

「そう? でも、苦しいだけならそう思っちゃうけどなー? 私は違うよ? 私は、好きな人がいて毎日楽しいよ? 好きな人を一日何回見掛けてもそれだけでその度に嬉しいし、話せて嬉しいし、笑ってると嬉しいし、笑いかけて貰うともっと嬉しいし。毎日一緒にアレがしたいコレがしたいが止まらないし、してあげたい事が溢れてきちゃうんだよー」

 そう、柔らかく微笑むナツミはとても魅力的で、同性の私も思わず見惚れるほどだった。

 ほへー、そんなものなのか。それは確かに世界がバラ色そうだった。

 と、おもむろにナツキは自分の弁当の卵焼きに箸を突き立てると、私の口元に運んだ。

「はい、あーん?」

「ほぇ? あ、あーん」

 私は深く考えないまま、言われるがままに口を開いた。間もなく放り込まれる卵焼き。私はモグモグ咀嚼する。

「おいし?」

「うん。ナツキの作る卵焼き、いっつも美味しいよね。私、好き」

「そ」

 私の返答に、これまた柔らかく微笑むナツキ。この卵焼きをいつでも食べれる彼氏さんは羨ましいなぁ。とか、考えてると微笑んだままナツキは私からあーちゃんに視線を移し、より一層目を細めた。私の腰に回したあーちゃんの腕に力がこもったのを感じた。

「好きな人で苦しくなるぐらいなら、諦めちゃえばー? しんどいばっかりだし、相手にも失礼でしょー?」

「……私も、イヤな気持ちになるばかりじゃないよ? でも、どうしていいのか分からなくて。自分に正直になったら相手の事傷つけちゃいそうだし。それに、こんな自分じゃ嫌われちゃうかもって思うと、竦んじゃうんだ……」

「え、あーちゃんでダメだったら私はもっとダメダメだよ! 大丈夫!!あーちゃん性格素敵だしキレイだし、絶対相手から嫌われるハズないって。きっと上手く行くって、私が保証する!!」

「だってさ?」

 ナツキが私の言葉を拾って、あーちゃんに問いかけた。でもあーちゃんからの返答はない。

「あーちゃん?」

 私はあーちゃんの表情を見たくて振り返ろうとしたが、なぜだか頭に乗せたあーちゃんの頬っぺたに力が込もり振り返らせて貰えなかった。

「あーちゃん!?」

「ごめん、今こっち見ないで」

 よく見れば、ナツキも新庄さんも口元を手で抑えて笑い出すのを堪えてる。え、私も見たいんだけど!

「ちなみにー、私やあーちゃんが振られちゃったら?」

「え? ナツキとあーちゃんが振られるとかまずないと思うけど……そしたら元気になるまで慰めてあげる! 忘れられるまで一緒にいてあげるよ! ……ってそれじゃこれまでと一緒か。うーん」

「だってさ?」

「聞こえてるよ。……ありがとう」

「うん? まだ振られてないし。あーちゃんだから振られるなんてありえないと思うけどさ。うん、でもどういたしまして」

 私はそう言って笑う。私の表情はあーちゃんから見えてないだろうけど、笑った振動は頬っぺた越しに伝わってると思う。

「それはそれとして。ナツキ?」

「なーにー?」

「随分余裕だね? 敵に塩を送る様なマネをするなんて」

「平気だよー、その上で私は成し遂げちゃうから。でもー、それよりも、心配で表情が曇っちゃう方が嫌だったし」

「あ……そっか。ありがとね、ナツキ」

「どういたしまして」

「……どうしよう、すごい疎外感を感じる」

と、新庄さんがぼやいたのが聞こえた。

「ホントだよね。私達二人、部外者というか」

「え゛!?なんであなたが……あ、あー。そ、そうね。二人だけで通じる話、してるものね」

「ねー。ところで、二人が好きな人って知ってる?」

「私は聞いた事ないわ。二人に聞いたら?」

「教えてくれるかな?」

「すぐにはムリだと思うわよ?」

「そっかー」

「そうよ」

「残念」

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