今昔のサルバドール

気ままな野良猫

英雄の誕生...?


いつからだろうか


自分に自信を持てなくなったのは


ああ、思い出せない...

いや、思い出せないというより


忘れることができないから―

記憶から消したいから、意識的に思い出さなかったんだ。


――――――――――――――――――――――


「お前はこの村の恥だ!」

「ウェンデル様のお顔に泥を塗る気か!」


ウェンデル様はこの世界の英雄―至高の英雄サルバドールの一員だ。

そして僕、クレア・シオンはウェンデル様が誕生したこのクレア村の唯一の子供。

決して血族関係ではない。


(それなのに...それなのにどうして!!)


単に同じ村で生まれたという理由で、後継者として期待され、理想を押し付けられ、それに応えられないと出来損ないと見なされる。


(そんなの理不尽極まりないじゃないか!)


もちろん人より努力はした。

毎日魔法の練習をして、村のみんなの期待と理想に応えようと努力してきた。


それでも自分の最高魔法は氷矢アイスランス―Lv2の魔法だった。

当時10歳だったと考慮しても、褒められたものではなかっただろう。

それに加え、誰しもが持っているはずであるがない。


周囲は結果を重視する。

所詮過程なんてものは結果を残してから輝き始める。


(いくら努力したって才能を持つ者に勝てやしないんだよ...!)


そう、努力は才能に勝てないのだ。

稀に「本気で努力をすれば才能に匹敵する」なんて言う人がいるが、それは単なる理想論でしかない。


ましてや、ウェンデル様のように圧倒的な魔法の才能を持つ者が努力をすれば、肩を並べられる可能性すらなくなる。


そんな才能がない自分が、嘲弄してくる村人の誰よりも嫌いだった。

(もし自分に才能があったら...!)などと、ありもしないことを想像したこともあった。


「起きなさい...!」


でももう余計なことは考えないようにしよう。

僕はまさしく皆の期待や理想英雄の後継者ではなく、ただの落ちこぼれだ。


「シオン、起きなさいっ!」


闇に光が差す―

(ああ、解放される。この悪夢から...)


――――――――――――――――――――――


「シオン授業中よ!起きなさいっ!」


「ごめんっ!、ソフィア」


この子はソフィア・クリスティーネ。シオンと孤児院にいたときに知り合った、いわば幼馴染だ。シオンとは正反対の性格で、いつどんな時でも味方でいてくれる、家族みたいな存在。


「嫌な夢でも見てた?顔色が悪いよ。」

「うんちょっとね...でももう大丈夫だよ。」


「通常魔法と固有魔法の使用は戦闘の盤面によって使い分け...」


「それなら良かったけれど、授業中だからね?わかってる?」

「はい...」


ソフィアが微笑みながら呆れたように言う


「そんなしょぼくれないでよ!こっちが悪いみたいじゃない...!」

「ソフィアは悪くないよ。ただいつも迷惑かけてごめんっていうか...」


そう、自慢できる話ではないが、ソフィアには孤児院の時から迷惑をかけてしまって

いた。時にはいじめられているところを助けてもらったり、時には森で迷子になっているときに探しに来てくれたり。


「そんなの今更じゃない!私はっ...!」


「そこ、授業中に何を喋っているんだ!」


ソフィアが何かを喋ろうとした瞬間、教室に威圧感のある声が響く――


アルベルト・ファウスティーノ先生

ここアルカディア魔法学院の教師兼ウェンデル様と同じ元至高の英雄サルバドールの一員だ。氷魔法のメイジで固有魔法は絶対切断フィーナス

詳細は明らかになってはいないが、防御不可能で、どんな魔物、武器でも切断できるという、まさに元至高の英雄サルバドールの名にふさわしい魔法だ。


「クレア・シオン―先ほどから見ていたが、寝ているほど余裕があるならば、皆に説明しやすいよう、一度を見せてみろ。」


(この人、僕が固有魔法を使えないのを知っていて...)


皆がクスクスと笑う中、ソフィアだけは心配そうにシオンを見ている


「そんな心配しないで、こういうの慣れてるから」


シオンは心配させないためにそう言ったが、表情を変えようとすらしない


(これは噓なんかじゃない、本当に慣れているんだよソフィア...)


「どうした、嫌とは言わせんぞ?」


アルベルトが不敵な笑みもらしながら言う


「わかりました」


(ああ...これが才能のないものの在り方か)


シオンはそう思いながら渋々教壇へと進む

ありもしない固有魔法を披露するために―








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