【短編】アカシックレコードの扉
tanahiro2010
第1話
適当に書いた
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アカシックレコード──その名は、誰もが一度は耳にしたことがあるだろう。無限の歴史と未来を記録した存在、すべての出来事、すべての思考、すべての感情がその中に刻まれていると言われている。人々はそれを、宇宙の図書館、または神の書と呼ぶこともあった。しかし、その真実に触れた者はほとんどいない。
遥か遠い未来、世界はもう一度、人間の感覚を超える知識を手に入れる時代を迎えようとしていた。
1. 扉の前で
エリス・フィルデは、古びた図書館の奥深くにある一室の扉の前に立っていた。その扉には、何も書かれていない。だが、その扉を開ければ、彼女の全ての質問に答えが得られると確信していた。彼女の目の前に広がっているのは、物理的な扉ではなく、次元を超えた存在への入口だと、直感で感じていたからだ。
「ここが、アカシックレコードの扉……」
エリスは静かに呟くと、深呼吸をして扉に手を伸ばした。触れた瞬間、まるで世界が反響するような感覚が全身を駆け抜けた。冷たい金属の扉が、まるで温かい布のように柔らかく感じられた。それは、時を超え、空間を超えた存在が彼女に応えているようだった。
扉はゆっくりと開き、そこに広がっていたのは、無限の光の道だった。道の先には、無数の書物や映像が浮かび、時折人々の姿がその中を通り過ぎていった。過去、現在、未来が同時に存在し、あらゆる時間が交錯している場所だった。
2. 質問
エリスは、一歩足を踏み入れると、すぐに浮かび上がった一冊の本を手に取った。その表紙には、彼女の名前が刻まれていた。開くと、そこには彼女の生涯の記録が詳細に書かれていた。これまで歩んできた道、選択してきた決断、そしてまだ見ぬ未来の兆し。すべてがここにあった。
彼女はページをめくりながら、思わず呟いた。
「どうして私だけが、ここに来られたの?」
その瞬間、周囲の空気が揺らぎ、目の前に一人の人物が現れた。長い黒髪、深い青い目を持つその人物は、まるで夢の中から出てきたかのように不確かだった。しかし、その目は確かにエリスを見つめていた。
「お前がこの場所に来る理由を知りたいのか?」
その声は、深く響くような音でありながら、どこか遠くから聞こえてくるようでもあった。
エリスは答えた。「私は……私がどこから来て、どこへ行くのかを知りたい。未来を変える力があるのなら、それを使いたいと思っている。」
「未来を変える力?」その人物は微笑んだ。「お前は、過去を変えたいと思っているのか?」
エリスは瞬きもせずに頷いた。「過去が変われば、未来も変わるはずだから。」
人物は、しばらく沈黙していたが、やがて言葉を続けた。
「未来を変えるために過去を変えようとする者は、しばしばその重さに押し潰される。なぜなら、過去を変えるということは、無限の可能性を閉じ込めることだからだ。」
エリスはその言葉の意味を理解できなかった。ただ、どうしても知りたかった。もし過去に戻れるのなら、彼女が失ったもの、間違った選択をしてしまったその時を変えられるかもしれない。
「私は、後悔しているんです。あの時、あの決断をしなければ、今とは違う人生があったかもしれないって。」
「そうだ。だが、過去を変えれば、他のすべてが変わる。」人物はエリスの目を見つめる。「それがアカシックレコードの本当の力だ。だが、お前が持つその力を使うことは、何かを犠牲にすることを意味する。」
3. その先に
エリスは本を閉じた。そして、扉の向こうに広がる無限の記録を見つめた。そこには無数の選択肢、無数の道が並んでいるように見えた。
「私の未来は、私の手の中にある。私は、それを選ぶことができる。」エリスは静かに言った。
人物はゆっくりと頷いた。「その通りだ。だが覚えておけ。どんなに選択をしても、それはお前の一部として残る。そして、その選択はお前だけではなく、他のすべての存在にも影響を与える。」
エリスは深呼吸をし、そして歩き出した。彼女が選ぶ道がどこに続いていくのか、どんな結末を迎えるのか、それはまだわからない。ただひとつ確かなことは、彼女がその選択を自由にできるということだった。
アカシックレコードの中には、無限の記録がある。しかし、それを知ることができるのは、選び取った者だけだ。そして、エリスはその選び取る力を手に入れたのだった。
扉は静かに閉まり、再び元の図書館の一室に戻った。
だが、エリスの心には、もう過去を悔いることはなかった。未来を変える力を持つ者として、彼女はただ前に進むだけだった。
【短編】アカシックレコードの扉 tanahiro2010 @tanahiro2010
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