絶生 ショートショート
@karihuwa
絶生
目が覚める。重い頭を枕からようやく持ち上げて、身体の下敷きになっていたであろう少し痺れた右手でさっとカーテンを開いた。空は心をすっかりと映し出したようにどんよりと暗く、昨夜の小雨が降り続いていた。
テレビをつけると、聞き馴染みのあるようなないような、妙に抑揚がついたアナウンサーの声が部屋に広がった。こんなにも早い朝だというのに、テレビの内側は、強い照明の影響でとうてい見るに堪えない明るさで、切ったテレビの画面に映るのは、昨日炊いておいたご飯を作り置きのおかずと食べるなんの抑揚もない毎日を過ごす社会人3年目の自分。ふと、今となっては、掛け値なしに幸せだと思えるあの頃のことを思い出していた。なに不自由ない生活のようで、心の隙間にはずっとぬぐえない不安が確かにあって、昨日となんら変わりのない一日に、なにかを見出だそうとして。教師がいう「自分にしかないもの」が、きっと自分にとっては勉強なんだって思い込んで、ただひたすらに進んだ。その結末が、こんな日々だなんて、信じたくもなかった。いつまで経っても、あの記憶の中に囚われたままだった。
食事を終え、食器をシンクに置いたまま、洗うこともなく家を出た。傘は持たなかった。先を照らす陽の光が、おれには見えなかった。
絶生 ショートショート @karihuwa
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