団子を食べていたら鬼退治に誘われた件
小林一咲
第1話 団子職人、鬼退治を迫られる
朝日が昇り始めた頃、村の市場はすでに活気づいていた。どこからか漂ってくる焼きたてパンの香り、魚を売る声、そして――
「団子はいかがですか! 今日の特製、胡麻たっぷりの串団子だよ!」
ハンバル・シンバは威勢よく声を上げながら、屋台の後ろで団子を焼いていた。白い調理服に頭巾姿。片手には串団子を掴み、もう片手には刷毛でタレを塗る。
「うーん、今日も美味そうだなあ、ハンバルの団子は」
常連の老人が立ち寄り、一本を手に取る。
「へへ、ありがとうございます! 今日のは気合い入れて焼きましたよ!」
ハンバルが笑顔で応じると、老人は銀貨を置いて満足そうに立ち去った。
こうして一日が始まる。平凡だが充実した毎日。それがハンバルにとって何よりの幸せだった。
だが、その日、彼の穏やかな日常は突如として崩れ去る。
昼過ぎ、屋台の裏で自分用の団子を食べていたハンバルの前に、一人の旅人が現れた。
「おい、あんた」
声に顔を上げると、そこには黒いマントをまとった美しい女性が立っていた。鋭い目つきと整った顔立ち、しかしどこか険しい雰囲気が漂っている。
「お、客さんですか? 団子なら今焼きたてのが――」
「いいや、団子なんてどうでもいい」
女性は冷たく言い放つ。
「……いやいや、団子をどうでもいいなんて言われたら、俺の商売が成り立たないんですけど」
ハンバルは眉をひそめた。
「聞け。お前の団子が世界を救うんだ」
「……は?」
耳を疑った。世界を救う? 団子が?
「詳しく話す時間はない。だが間違いない。お前には鬼を倒す力がある」
女性は真剣な表情で言葉を続ける。
「いやいや、俺はただの団子職人ですよ? 鬼なんて怖いし、力なんてありません」
ハンバルは困惑しながら首を振った。
「なら聞くが――その団子、何で焼いてる?」
女性が指さしたのは、彼の屋台に置かれた炭だった。
「炭? それがどうかしました?」
「その炭は、鬼の気配を消す特別な木から作られている。そしてお前の団子は、それを食べるだけで鬼に対抗できる力を与える」
ハンバルはぽかんと口を開けた。
「……冗談ですよね?」
「冗談なものか」
女性の目は本気そのものだった。
「私の名はエレナ。鬼を討つ者だ。そしてお前は、鬼を討つための重要な鍵――」
「ちょっと待ってください!」
ハンバルは慌てて手を挙げた。
「鍵とか鬼とか、そんな大げさな話、俺には向いてないんですよ! 俺はただの団子職人なんです!」
「黙れ」
エレナはハンバルの胸ぐらを掴むと、じっと彼を見つめた。
「そんなことはどうでもいい。お前は運命に選ばれた。いいから団子を持って来い」
「いや、だから勝手に運命とか決めないでくださいって!」
しかし、エレナの目からは逃れることができず、結局ハンバルは屋台を畳む羽目になった。
こうして、団子職人ハンバル・シンバの、鬼退治の旅が始まったのだった。
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『凡夫転生〜異世界行ったらあまりにも普通すぎた件〜』
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