第3話:転校生現る。夕魅ちゃんはミステリアス!

「行って来まーす」

私はそう言って家のドアを開ける。

家の前には右に斜めった地面が見える。

そう、坂道の上に並ぶ住宅街の一つ。

それが私の家だからだ。

いつもの通り、右に歩いて学校に行こうと足を動かす。

すると、私の紺色の鞄がガサゴソと振動している……!?

鞄のチャックが開き、長い兎の耳と赤い大きなボタンで縫われた両目、桃色の毛糸で作られた上半身が見える。

お察しの通り、夢喰いのご登場だ。

「鞄の中に身を隠す事にしたんだ」

「あ、夢喰い!家で見当たらなかったと思ったら……こんなとこにいたのね!」

夢喰いは私に頷くと付け加えるように話す。

「この世界の人に見つかっちゃうと都合が悪いからね。実験体とかにされそうだし?」

「そうだね。見つかったら間違いなく世界の大スクープだよ」

夢喰いを見ながらそう言った後だった。

私の三メートル後ろ位から女子高生の高い声が聞こえる。

「いのりー、おっはよう!」

青白く透き通る薄紫色の長髪を靡かせながら手を振って坂道を下りながら近づいてくるその子の名前は光会こうかい湯芽ゆめ

西夢せいむ高校の赤いリボンが印象的な制服を着ていて、冬なので青いマフラーを首に巻いているようだ。こちらに向かってくる。冬だというのに太ももを露出させたミニスカートだ。

私もマフラーの色が赤いという点だけ除けば完全に同じ服装なんだけどね……女の子は冬でもミニスカート履きたい。

ちなみに湯芽はBカップの私と違って胸が結構大きい。

それは置いといて私のそばまできた湯芽がテストの話をし始める。

「一昨日は深夜までゲームしちゃったよね……次の日テストだってのに……まぁ私その日の前にめっちゃ勉強したから大丈夫だと思うけど」

「え!?」

それは衝撃の発言だった。その日の前に"めっちゃ"勉強した……?そんなの聞いてないよ……

「めっちゃって……どのくらいなの?」

「んーそうだな……6時間くらい」

顎に人差し指を置き首を傾げながらそう湯芽は言った。

「まさか……祈ノー勉!?」

察するかのように湯芽は目を見開き私にそう言う。

私は必死にそれを弁解する。

「そんなノー勉な訳ないでしょ……!でもそんなにやってないのは事実……」

「ダメじゃんよ……!期末テストだよ?舐めてかかったらまずいでしょ」

「そうなの……?」

「そうだよ!中間テストよりレベル上がるんだから……」

私は今、高校1年生で期末テストの事をよく知らない。

お察しの通り世間知らずなのが私の欠点だ。

それを今痛感した……


そして、そんな感じで私達は世間話をしながら学校へと向かった。

校門辺りに着いた時だった。

妖艶なオーラを放つ透き通る白髪の女の子がそこには居た。ロングヘアーで髪に青色の花の髪飾りを付けていた。

明らかに他の生徒とは異質なオーラがあり、思わず私と湯芽はガン見してしまう。

「あの子…‥凄いオーラがする……あんな子いたっけ?」

湯芽が驚きながらそう呟く。

湯芽は学校の生徒事情には精通している方でクラスメイトの名前は勿論のこと、他クラスの事情も詳しい。その湯芽ですら分からないなんて……

その子はどうやらガン見していた私達に気付いたみたいで話しかけて来た。

「あの……どうかなされましたか?」

身体を私達に向け、薄紫色の瞳でこちらを見てくる。

湯芽がその言葉に慌てて返答する。

「い、いや……なんでもないよ!ほら、ちょっと見覚えのない顔だなって思ったからついガン見しちゃった。ごめんね!」

その湯芽に続いて私も言う。

「私からもごめん!」

「そう言う事ですか……無理もないと思います。私転校生なので……今日からよろしくお願いします」

「えー!!そんな話聞いてないよ!」

驚いて思わず私はそう大きな声を出す。

湯芽も私に頷いていた。この学校の事情通の湯芽ですら知らない事を私が知るわけないよね……

「驚かせてごめんなさい」

その子はそう言って斜め45°にお辞儀をしてすぐに続ける。

「昨日急にこの学校に連絡したので……即手配していただいたんです」

「そうだったんだ……」

私はそう言うとその後に湯芽と自己紹介を始める。そういう流れに自然となっていた。

「私、桜井祈!よろしくね」

「光会湯芽だ。よろしく!」

その私達二人の発言にその子はお辞儀をして、元に姿勢に戻る。

そして自己紹介をした。 

「私は……夕魅ゆうみ。……終夜よすがら夕魅ゆうみです……!桜井さん、光会さん!よろしくお願いします」

「うん!夕魅ちゃんね!よろしく」

と私が言う。

「何か分からないことがあったら遠慮なく聞いてよ?」

湯芽がニシシと笑顔ではにかむ。

そして私はふと疑問に思った。

「あれ?そう言えば夕魅ちゃんのクラスはどこ?というかそもそも何年生?」

何年生かも分からずタメ口を聞いている私達は中々ヤバいと思われるだろうが、実際この子のオーラの前だと不思議とそんな理性は働かなくなってしまうのだ。

「私のクラスは1-Aって聞きました。平田先生が担任だとか……なので1年生になりますね!」

「そっか!なんか運命を感じるね」

私は笑顔でそう言う。

そして湯芽はその私に反応する。

「運命って……祈ったらすぐ運命論に結びつけて少しバカっぽく見られるよ?」

手をヤレヤレとしながらそう私に言う湯芽。

「バカっぽくないもん!もう……ね?夕魅ちゃん」

「そうですね……バカとかは思いません。素敵な方だと思います」

「ほらね!湯芽のバーカ!!」

湯芽は少し悔しそうに「ぐぬぬ……」と呻き声をあげた。


その後、私達は1-Aクラスに向かう。

扉を開けようと私は扉に手をかける。

すると夕魅が口を開く。

「平田先生に先に教室に入るなと忠告されたので後から来ますね。桜井さんと光会さん…‥また後で!」

「あ、そうなんだ!うん待ってるよ」

夕魅ちゃんはまた来た道を引きかえしていく……

恐らく保健室に向かったと予想できる。

その後私は扉を開け、湯芽と教室の一番後ろにある席に向かう。

この教室は前にも言ったが階段式なっていて奥になるにつれて高くなる。

一番後ろともなると神にでもなった気分になれる。それは言い過ぎだが……

席についた私達は早速会話を始める。

湯芽とは隣の席なのだ。

「1限目からテスト返却だからね…‥このテストの結果次第で今日の1日の気分がかなり変わっちゃうよね」

「そうだった……はぁテスト頑張ればよかった……」


そんな感じで会話をしていたら朝のHRホームルームの時間が来る。

残業で疲れてるのか少しやつらえた平田先生が教卓で口を開く。

「さぁみんな。今日は転校生がこのクラスに入ってくる。終夜、入っていいぞ」

プラスチック素材で作られたであろう扉の開閉音がなり、顔を見せたのはもちろん夕魅ちゃん。

教卓の前まで淡々と歩く彼女にクラスメイトは騒めく。


「終夜夕魅です。今日からこのクラスに所属する事になりました。この西夢せいむ高校では、分からないことが多いので……色々と教えてくれると助かります」

そうして45°のお辞儀をする。

クラスメイトからは「可愛い〜」「何でも聞いて〜」などの声が上がる。

平田先生はその声に「はい静かに」と一言、言って黙らせる。

「ちょっとした自己紹介お願いできるか?」

「は、はい!」

あまり自己紹介は考えてなかってのか少し動揺しながら夕魅ちゃんは答えた。

「私は……実は“空から来た"んです。それは琥珀色の空の日でした……信じられないと思いますが」

私はその発言に思わず絶句する。

なに言ってるの……?

その私の反応と同じ様にクラスメイトもちょっと引いているのが雰囲気から察せられた。

私は流石にこの雰囲気に耐えられなかった。

フォローする事に決める。

「みんな!夕魅ちゃんはそういう冗談言える子なんだよ!空から来るとか天空の城ラピュロかな?なんちゃって……」

その私の発言にクラスメイトは笑いが起きる。

「そうなんだ!」

「桜井と夕魅ちゃんのコラボ一発ネタかな?」

などとそのちょっと変な雰囲気は薄れる。

私は内心ビクビクしていた。

側から見れば震える子犬のようだったろう。

平田先生はこの教室の空気を一旦クリアにするように発言をする。

「そうなんだな……!自己紹介ありがとう。さ、席に着こうか?祈の前の席だな」


そうして夕魅ちゃんの自己紹介は肝が冷えるような展開となった……だけど無事に終わった。

空から来たって…‥冗談だよね。私のツッコミ不在ならかなり滑ってたと思う。

そう思って苦笑する私の前の席に夕魅ちゃんが座る。

夕魅ちゃんはクラスメイトに笑われた事に少し首を傾げていたがどうやら自分が変な事を言っている自覚はないらしい。

湯芽が私に小さく耳元で呟く。

「(ナイスだよ祈……!)」


HRホームルームも終わり休憩時間が来ると夕魅ちゃんの周りにはクラスの生徒が群がる。

「出身は?趣味は?」

と興味津々のようだ。夕魅ちゃんは困った顔をして「アハハ…………」と呟いていた。

まともな返答はしていなそうだ。

それを教室の扉から私達は眺めている。

湯芽は私に言う。

「凄まじい人気だな……祈とは違って……」

「ちょっとどう言う意味!?」

「嘘嘘、冗談だって」

湯芽はたまに私に意地悪してくるからムカつく時がある。

私だってクラスメイトの人気が無い事くらい知ってるよ!

でも夕魅ちゃんの人気にあやかればクラスの人気者になれる可能性はありそう……

心の中で若干小賢しい事を考えてしまい思わず首を振り忘れる。


すると1限目のチャイムが鳴る。

平田先生が「数学のテスト返却だぞみんな座れー」と教室に入ってくる。

するとクラスメイトはまるで決められたように全員席に着く。

一人一人着々とテストを教卓に取りに行く。

そういえばあの夢の中だと私は机に突っ伏して寝ていたっけ?

あと今みたいに番号順に呼ばれる感じでもなかったような。

そんな事を考えていたら私の番が来る。

前の席の夕魅ちゃんを通り抜ける。

夕魅ちゃんはこの学校でテストを受けていないから恐らくずっと席に座ったままだろう……


教卓前に着くと平田先生が私に声をかけてきた。

「桜井……もうちょっと頑張ったらどうだ?39点って……この調子で行くと留年だぞ?次のテストは80点は出さない正直キツい」

やはりというか……結果は赤点。

しかも80点を取らなきゃいけない未来の約束まで付いてきた。

私は肩をガックリと落としながら席まで戻る。

湯芽はその私をみて「あ……」と察したような声を出す。

私は「お察しの通りです……」と言って席に倒れ込むように座る。

夕魅ちゃんは赤点の私に対して空気読んでいるのか読書に勤しんでいた。


そして2限目、体育の授業だ。

バスケをやるようで、着替えを終わらせた生徒が体育館に続々と着替え室から出ては向かっていく。

この学校のルールとして授業の着替えの際、男子と女子は別れて着替え室に行くのだ。

私は着替え室の残り人数が5人くらいになってからようやく着替え始める。どうやらさっきのテスト結果に対して心が追い付いていないらしい。

湯芽はその私に気を遣ってくれたのか会話を続けてくれた。いよいよ私も気を張り、体操服へと着替える。

青いズボンに白いシャツ。まさにシンプルな体操着だ。

ふと気づくと夕魅ちゃんも着替えが終わったのか着替え室から出ようとしていた。

「一緒に行こうよ」

そう言って夕魅ちゃんも誘う。湯芽と夕魅ちゃんの三人で体育館に向かう。

そして体育館に着いて時間通りにバスケの授業は始まった。


まず初めは三人組のペアになってバスケをする事に。

湯芽と夕魅ちゃんと私でパスの練習をして、その次にバスケの試合をするという展開になった。

夕魅ちゃんはBチームで私と湯芽はAチームという配属になり、試合のコングが鳴る。(実際にはコングなんて無いけどそういう表現!)


「夕魅ちゃんパス!」

すると私はとんでもない事態を見る事になる。

今、夕魅ちゃんはBチームの仲間からもらったボールを持っている。

そこから何とAチームのゴール目掛けてシュートの構えを取り始めた。

7mはあるゴールにそのままシュートをして何と入れてしまったのだ。

「わぁぁぁぁぁぁあ!!」「すごい!」

BチームとAチーム、どちらも歓声が起こる。

(夕魅ちゃんすごい……!)

心の中でそう呟く。


そして、ここから嫌なトラブルが起きる。

試合はまた続行し、当然だが両チームのボール取り合いが起きる。

そこで木野花子という私のチーム、Aチームの仲間がボールを取ろうとしたらが、相手の力が強くそのまま倒れ込んでしまった。

それも強烈に床に叩きつけられた。

膝を見ると紫のアザができている。

両チームから夕魅ちゃんの時とは違い、「ひええ」みたいな悲鳴が聞こえる。

私はすぐに花子に駆け寄る。

そして私は花子の横辺りに座り、アザを凝視していた……

湯芽もその私に気づいたのか近寄ってくる。

「保健室に運ぼう」

湯芽は焦ったように言った。

「うん……!」

そして花子の手を肩に掛けようとして手を握ると私の身体に静電気のようなピリッとした感覚が走る。これは……昨日の夜感じたあの感覚と同じ……!

そう思った次の瞬間。

なんと私の手が桃色の光を放ち始めたのだ。

そしてその光は花子を包み込んだ。

これってまさか……

剣と魔法のクロスのヒールアップ!?



〜第四話に続く〜

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Dream of Another 中村サンタロー @nakamuraeeeee

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