第3話『目覚める鬼③』

見下ろしていた。

自身の足元にまで流れてくる血を気にもせず、2つに分かれたその肉を見下ろしている。

何故まだ見下ろしているのか?

何がその者を惹きつけているのか?

ただの人間、いつもと変わらず自身が自身である為の行動。

動く事のない肉を見つめ、考える。

だが、答えなど出るはずもない。


(私は・・・)


ハサミに滴る血を振り払い、口裂け女はマスクを付け直す。

手にしたハサミが消えると、コートへ手を入れ振り返る。


「っ!?」


悪寒。

殺気によるそれを受け間合いを取る。

そこには切断したはずの遥が立っていた。

身体の傷は見られない。

しかし、その身に良い様のない力がみなぎっているのか分かる。


「貴方は・・・何?」

「自分でも分からないよ、ただ・・・今なら負ける事はない!」


遥の瞳が、髪が、赤く染まる。

額からは2本の角が生え、全身を半透明な赤い着物が包む。


「「鬼の衣・赤」」


遥と滅鬼の声が重なる。


「鬼?貴女、人ではないの?」

「「僕(ウチ)は人であり、(都市伝説だ!)」」


遥が一気に間合いを詰める。

突き出した拳は巨大なハサミで塞がれるが、そのまま振りかぶる。


「くっ!!」


直撃は免れたが、防いだ腕には力が入らず震え、ハサミを持つのもやっとの状態だった。

ハサミを持ち替え遥へ襲いかかる。

およそ常人では目で追う事が出来ない程の速さ、例えるなら漫画のコマの様にまさに一瞬で遥の目の前に現れた口裂け女。

遥の腕を狙いその刃で挟み込む。


バキンッ!


覆われた衣に防がれたハサミの刃が砕かれる。

衣に破れは無く、



「その力・・・私にとっては相性が悪い様ね」


その言葉を最後に口裂け女は闇へと消えていった。


「・・・はぁ」


姿が戻った遥は安堵の表情でその場に倒れ込み、そのまま眠りについた。

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