第2話『目覚める鬼②』

「止めろ・・・」


口裂け女は手で顔を覆うとその場を後ずさる。


(効いてる?それなら・・・)

「ポマード!ポマード!」

「止めろぉっ!!」


一瞬だった。

激昂した口裂け女が叫んだ次の瞬間、遥の胴体は上下別れていた。


「・・・嘘・・・」


ベチャっと血溜まりの中倒れ込む。

薄れゆく意識、遥を見下ろす口裂け女の口はマスクが剥ぎ取られ裂けた口が大きく口角を上げており、手には巨大なハサミがギラリと光っていた。


「・・・きろ」


完全に消えていた意識を誰かが起こす。


「起きろよ」


はっきりと聞こえた、中性的な声。

遥がゆっくりと目を開けると、そこは一面の闇が広がっていた。

周りを見渡しても何もなく・・・あった。

遥の真後ろに石をいくつも重ねて出来た山、その上に鎮座する角の生えた人。


「・・・お・・・に?」

「おぅ、ようやくウチを受け入れる覚悟が出来たみてぇだな」


鬼と呼ばれた者はニカッと笑うと、石を崩しながら遥の元まで降りてきた。

降りてきてはっきりと顔を見ると、遥と瓜二つだった。

豊満な胸と、遥より小柄な背丈は違うものの、中性的で男性とも女性ともとれる顔は一卵性の双子さながらである。


「僕?」

「ちげぇよ、ウチはお前じゃねぇ・・・ってか、お前分かってねぇのか?」

「分かるって、何?いや、そもそもここ何処!?」

「落ち着け、落ち着け、ったくよぉ」


鬼は頭をかくと再び石の山へと戻り座り込んだ。

しばらく遥を見定める様に見つめると、ため息を吐く。


「そうか・・・そう言う事かよ。お前、自分の中にウチがいた事知らなかったな」

「僕の・・・中?」

「あぁ、まずここはお前の中・・・あぁ、何て言ゃいいか、精神世界みたいなもんだ。つまりお前は今、死にかけ」


軽い、実に軽い。

まるで世間話をする様な口調で話しをする鬼。

遥は未だ状況を整理出来ずにいた。

だが、異常なまでに冷静である自分に驚く。


「そっか、やっぱり僕は死んだのか」

「死んだじゃなくて、だよ。だからここに来たんじゃねぇか。面倒だなぁ」


鬼は面倒そうに再びため息を吐く。


「ここはお前の精神世界、お前が死にかけになって初めて来れる場所だ。

「なってるって・・・」

「遮るな、外と違って時間は止まってるがウチに時間がねぇ。まずは、お前が生き返るにはウチを受け入れるしかねぇ。この『滅鬼めっき』様をな」

「滅鬼・・・」

「全ての都市伝説を、そしてお前がウチを受け入れる事で、人でありながら都市伝説となる」


滅鬼滅ぼす鬼であり、メッキ都市伝説を被る、そうある様に


「どうする?」

「どうすると言われても・・・何がなんだか・・・」

「んじゃ、言い方変えるか・・・生きたいか?」

「生きたい」

「即答か、いいねぇ。じゃぁ、手を出せ」


言われて遥は手を突き出す。

滅鬼は手を取り遥の中に溶ける様に重なった。


「最初はウチが身体を動かしてやる。ウチが消える前に覚える事は多いぜ?」


遥の意識が再び遠のく中、微かに滅鬼の声が聞こえた。

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