第42話 ありがとう

花火が上がり続ける中、3人は会話を続ける。

「やっぱりそうか。2人の気持ちが分かって良かった。俺じゃダメだったけど、真凜には幸せになってほしいから。柏木くん」


 そこで言葉を区切り駿は真を真っ直ぐに見つめる。


「はい」


「真凜のことよろしくお願いします!」


 駿は真に頭を軽く下げお願いをした。


「……分かりました。真凜先輩のことは僕に任せて下さい」


 こんな状況でドキドキするなんてと思いながらも真凜は真の言葉にときめいてしまう。


 駿はその言葉を聞くと安心したように笑みを浮かべた。


「真凜、今までありがとう。今日で俺達別れよう」


「駿くん……本当にごめんなさい」


「謝らなくて良いよ。俺はさ、楽しかったよ。真凜と付き合えて」


 どこか切ない駿の顔が、花火の光に照らされる。


「俺は皆の所へ戻るから、2人で花火楽しんで」


 駿はそう言うと真凜と真に背を向け、歩いて行った。



 残された2人はお互いの本心を思いがけず知ってしまい、何となくきまずくなってしまう。


「先輩」


「え? な、何?」


「花火、見ましょうか」


「……そうだね」


 照れくさくて顔を見られない真凜は、今が夜で良かったと感じていた。


 しばらく2人で花火を見あげていると、後ろから声が聞こえてきた。


「柏木くん!」


 2人は振り返るとさやかが近付いて来ていた。


「真凜先輩も一緒なんですね」


 さやかは2人に笑いかけて来る。


「さやかちゃん……」


「真凜先輩、私が来てがっかりしました?」


「そんなこと……」


「皆で一緒に見ましょう」


 そう言いながらさやかは真の隣へ移動する。


「そうだね」


 3人で花火を見上げ終わる頃、さやかはお腹が痛いと言い始めた。


「大丈夫? さやかちゃん」


「はい、真凜先輩」


「何?」


「薬飲めば良くなります」


「薬あるの?」


「いいえ。この近くのドラッグストアで買ってきてもらえますか?」


「え? うん、分かった」


 座れる所を探しベンチが見つかるとさやかを座らせ、真凜は歩いて数分の距離にあるドラッグストアへ向かうことになった。


「先輩……1人で大丈夫ですか?」


 真はストーカーを心配して聞いてくる。


「うん、近いしすぐに戻るから、さやかちゃんに付いててあげて」


「……分かりました。気をつけて下さいね」


 真凜の姿が遠退いて行くとさやかは真に声をかけてきた。


「柏木くん」


「何? 痛む?」


「……少し良くなった」


「そう」


 真はさやかといても真凜のことで頭がいっぱいだった。


「柏木くん」


「え? 何?」


「真凜先輩のこと好きなの?」


「……うん」


「そうなんだ……でも、真凜先輩には彼氏いるし。私じゃ駄目?」


 

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