第41話 安堵

「先輩!」


 声が聞こえると同時に何かがストーカー男子にぶつかった。


「うわ!」


 真凛が見ると、彼は肩からびしょ濡れになっていた。足元には飲み物の容器が転がっている。その隙に真凛は彼から逃れた。


「大丈夫ですか?」


「うん、うん、大丈夫。ありがとう、柏木くん」


「良かった……って、あ!」


「え?」


 ストーカー男子は気付くと逃げてしまった。


「逃げられた……」


「まさか、こんなとこ所にいるなんて」


「どうしますか? 今日はもう帰りますか?」


 心配そうに真凜を見つめながら真は問いかけてくる。


「……うん。でも……花火見たい」


「……1人にならなければ大丈夫ですかね?」


「うん」


「分かりました。皆の所へ戻りますか?」


「そうだね」


 2人で歩き始めると花火が打ち上がった。


「ドン!」


 花火は空の上で華麗に広がり色とりどりの色彩で、夜空を彩って行く。


「綺麗……」


「本当ですね」


 偶然にとはいえ、2人で夜空に打ち上げられる花火を見ることが出来た。真凜はとても満ち足りた気持ちになっていた。その時真凜のスマホの着信がなった。


「あ」


 真凜は名前を確認すると駿だった。


「もしもし」


「もしもし、真凜。今どこにいるんだよ?」


「ごめんね、はぐれちゃって」


「1人?」


「え?」


「今、1人?」


「あ……えっと、柏木くんもいる」


「……そっか。どの辺にいるの?」


「たい焼き屋さんの近く」


「分かった、そっちへ行く」


「え? 良いよ。私が行くよ」


「いや、行きたいんだ」


 少しだけ駿の声が真凜の耳に切なげに響く。


「駿くん、分かった。待ってるね」


「大田先輩ですか?」


 電話を切った真凛に真は話しかけてくる。


「うん、こっちへ来てくれるって」


「そうですか」


 真凜は2人の時間が終わってしまうことを、少しだけ残念に思っていた。数分して駿がやってくると駿はチラリと真に視線を向けた。


「柏木くん、真凜の傍にいてくれてありがとう」


「あ、いいえ」

 

 思いがけずお礼を言われ真は驚いてる様子だ。


「あのさ、柏木くんは真凜のこと好きなの?」


「え?」


 真はその質問に固まってしまい、照れた様に視線を伏せる。真凜はそんな真を見つめながらドキドキしていた。


「……はい、真凜先輩が好きです」


「ドン!」


 再び大輪の花が夜空に打ち上がる。


「そっか。真凜の好きな人も柏木くんなんだろ?」


「え……」


 真凜は答えようか迷ったが、噓を言っても仕方ないとドキドキしながら真実を伝えた。


「うん、私は柏木くんが好き」

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