第39話 宣戦布告
「花火大会で?」
「はい。この前も言いましたけど、私柏木くんが好きなんです」
「うん……」
「止めても無駄ですよ」
「……止めないよ」
真凜はモヤモヤする気持ちに蓋をした。
「良かった。もし、上手く行っても恨まないでくださいね? それじゃあ、先輩、お先でーす!」
「お疲れ様」
さやかと入れ替わるように真が迎えに来た。真凜の様子を見た真は、異変に気づく。
「先輩? どうかしました?」
「あ、ううん、何も。ちょっとボーっとしちゃった」
真に心配をかけまいと真凜は真に微笑んで見せる。
「大丈夫ですか?」
真は真凜に近付き顔を覗き込んで来る。
――え?
「だっ、大丈夫。大丈夫だからっ」
思わず真凜はのけぞりそうになると、真も至近距離に気付いて離れた。
「あ、すみません! 先輩」
「ううん、大丈夫」
2人して赤くなる様子を他の部員も見ていた為、冷やかされてしまう。
「えー? 何? 2人とも良い感じじゃない?」
「ねー」
「さやかちゃんになんて負けないで」
「ちょっと、何言ってるの? 皆?!」
真凜は皆に向って声を張り上げる。
「でも、本当に2人お似合いだよ」
「え? そう?」
「うん」
他の部員達に言われまんざらではない真凜と真は顔を見合わせた。
* * *
形だけとはいえ、真凜はまだ駿の彼女だった。駿達野球部は強豪校なだけあり、順調に勝ち進んで行った。
夏休みに入り、真凜はブラスバンドの菜帆と、決勝戦の応援に来ていた。駿がヒットを打ち、ブラスバンドのヒットの曲が流れる。声援が会場に響き渡り、真凜も皆と一緒に応援していた。
「頑張れー!」
「駿くーん!」
駿はモテる部類に入るらしい。真凜のタイプでなかった為気にしたこともなかったが、意外と駿を好きな女子は多い。
「あ、柏木さん」
よそのクラスの女子が話しかけてくる。
「彼氏の応援に来たんだ? さすが彼女だね」
何だか余計なことを言ってくる。駿は目立つタイプの男子な為、真凛が彼女だということは知らない人の方が少ない。
「うん」
――駿くんのというより野球部の応援に来たつもりなんだけど……。
内心そんなことを思いながら真凜は応援を続けた。
野球部は決勝戦も勝ち抜き、甲子園出場が決まった。甲子園に出場し、あと少しで決勝進出という所で負けてしまった。そして、花火大会の日がやって来た。
* * *
真凜は菜帆と一緒に浴衣を着てきていた。
真凜の浴衣は紺色に花びらが散りばめられた、少し落ち着いた大人っぽい浴衣だ。
菜帆は淡いピンクの浴衣に大きな花が描かれている。
2人が待ち合わせ場所に着くと、すでに皆そろっていた。
「お待たせ」
2人が声をかけると男子達は笑顔を向けてくれた。
「真凜、可愛い」
駿はサラリと言ってしまう。真は何も言わず、真凜のことを優しげな瞳で見つめた。駿に気づかれないように、2人は数秒見つめ合った。
「ねぇ、柏木くん。私は?」
そんな2人に割り込んでさやかは真に問いかける。
「ああ……可愛いですね」
特に感情を感じ取れない声で、真は答えた。
「本当ですか? 嬉し〜」
語尾にハートマークでも付いてるんじゃないかと思うような、甘い声をさやかは出した。
――なんか……嫌。
真凜は誰にも気づかれないようにこっそり嫉妬していた。
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