第29話 好きな人

「……え? そうだったの?」


 ドクンドクンと心臓が脈打ち、体が熱くなってくる。


「知らなかったの?」


「うん」


「まあ、彼おとなしいほうだしね。でも、真凛のことよく見てたよ」


「……そうなんだ」


 嬉しいような恥ずかしいような気持ちに真凛は包まれる。


「で? どうするの?」


「え?」


「彼氏」


「うん……嫌いじゃないからどう別れ話を言すれば良いのか分からない」


「……嫌いじゃない? 友達みたいにしか思えないんでしょ?」


「……うん」


「真凛達は付き合っているんだよ? 自分の気持ちに気づいたんなら、正直になった方が良いよ」


「うん、でも……駿くん傷つくよね?」


「真凛」


 寝転んでいた体勢から突然菜帆は起き上がる。つられて真凛も起き上がり2人でベッドの上に座り、向き合った。


「そんなこと言って付き合っていても、大田くんのこと傷つけることになるよ?」


「え?」


「逆に真凛が柏木くんと付き合えたのに、本当は好きじゃないけど我慢してたって知ったらどう思う?」


「……嫌かも」


「でしょ? だから、ちゃんと別れなよ?」


「うん。頑張る」




* * *




 真はその頃インターネットで偶然本を見つけた。

『運命の人』という題名の本だ。


――運命の人?


 そう思いながらも真はクリックをする。そこには前世からの繋がりがある2人のことが記されていた。思わず真は購入をクリックしていた。

 運命の人……そう言われて浮かぶのは……真にとっては真凛だった。


――先輩には彼氏がいるのに、不毛かな? それでも僕は……。



 翌日学校帰りに真凛は、他校の生徒に校門前で告白されていた。


――先輩?


「俺と付き合ってください!」


 人目もあるのにその男子生徒は真凛に大きな声で、告白をしていた。危なければ助けようと真は様子を見ていた。


「ごめんなさい、私、彼氏がいるから」


「そう……ですか」


「はい」


「……分かりました」


 真凛は目を伏せて気付かなかったが、真は彼の表情をしっかり見ていた。一瞬、彼は嫉妬のような怒りの炎を瞳に宿した。


――大丈夫かな? 先輩。


 その彼はあっさり踵を返して帰って行く。


「先輩!」


「柏木くん!」


 真が真凛の元へ近寄ると真凛は少し嬉しそうな顔をした。


「大丈夫ですか?」


「見てた?」


「はい、目立ってましたから」


「……だよね」


 真凛は困ったような恥ずかしいような不思議な表情を浮かべる。


「あの人。気を付けた方が良さそうですね」


「え?」


「さっきの男子」


「大丈夫だと思うよ?」


「そうですか?」


「うん、あっさり引き下がってくれたし」


「だと良いですけど……」


「何? 何か気になる?」


「いえ、僕の気にしすぎです。気にしないでください、先輩。余計なこと言ってごめんなさい」


 真は嫌な感じがしたのだが、真凜を心配させないように、これ以上余計なことは言わないことにした。



 それから数日して、真凛の家に差出人のない封書が届いた。

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