第28話 運命の人
季節は移り紫陽花が美しく咲く、雨の多い梅雨。雨上がりの水滴が紫陽花に輝きを与えている。
真凛は変わらず彼氏と付き合っている。部活帰りに1人本屋に来ていた。新しい小説でも読もうと探していると、『運命の人』という題名の本が目に飛び込んで来た。
――運命?
真凛はその本を見た瞬間、吸い寄せられるように本を手に取っていた。表紙には、“運命の2人は前世からの繋がりがあり、2人はもともと1つの魂だった。この世界にただ1人の運命の人”と書かれていた。
真凛の心臓はうるさく鳴り響き、気づくと買っていた。
家へ帰ると真凛は本を開いた。本を開き読み進めて行くと、『前世で恋人だった2人は生まれ変わり再会を果たし、再び恋人や夫婦になる』と書かれていた。
真凛はこれは柏木くんのことなのかも?と頭をよぎり、今付き合ってる駿くんは違うのかもしれない……と思い始めていた。
* * *
お互いに部活のないある日の休日。真凛と駿はカラオケに来ていた。駿は流行りの曲を上手に歌い上げると、真凛の隣に座った。
今日はそんな彼の誕生日。真凛は、彼にクッキーを焼いてきた。
「あのさ、これもらってくれる?」
駿はバッグから手のひらに収まるほどの、ラッピングされた袋を取り出した。
「え? どうしたの? これ」
「お小遣い貯めて買ったんだ。開けてみて?」
「うん」
真凛が袋を開けると小ぶりのパワーストーンが付いた可愛いブレスレットが入っていた。
「可愛い……ありがとう」
「うん」
真凛の嬉しそうな笑顔に、駿は照れくさそうな顔をする。
「あ、そうだ。私もねこれ作ったの。誕生日おめでとう、駿くん」
真凛が作ってきたクッキーを渡すと駿は真凛を抱きしめる。
「え?」
「ありがとう! すっげー嬉しい!」
「うん、どういたしまして」
――何だろう? 私、嬉しくない? それに今私、柏木くんが浮かんだ? 私このまま付き合ってて良いのかな?
脳裏に柏木くんがちらつく真凛は何故か柏木くんに罪悪感を感じていた。
* * *
駿とのデートが終わり、真凛は菜帆の家に泊まりに来ていた。夕飯をご馳走になり、菜帆の部屋でベッドに横になりながら話をする。
「ねえ、真凛」
「なあに?」
「大田くんとは別れたの?」
「……まだ。やっぱり別れた方が良いのかな?」
「好きなの?」
ドクンと心臓が跳ねて浮かぶのはやっぱり柏木くんだ。
「……分からない。良い人だと思うし友達として好きだけど……」
「あのね、真凛。それは大田くんに失礼だよ?」
「え?」
「好きでもないのにずるずる先延ばしにして」
「……そうだよね。それに私、もしかしたら好きな人出来たかも……」
「そうなの? だったら、尚更!」
「うん」
「それで?」
「え?」
「相手は誰?」
「あ……柏木くん」
名前を言うのは何だか恥ずかしい。
「良かったね」
何故か菜帆は嬉しそうにしている。
「何が?」
「だって、やっと好きな人が出来て。それに、柏木くん前から真凛のこと好きでしょ?」
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