第10話 あの日のこと
真がまだエドワーズの中に入る前のこと。
エドワーズが街で偶然マリアを見つけたのだが、声をかけられずにいた。その日の夜。
「エドワーズ?執事のジャクソンから聞いたわ。街で恋に落ちたんですって?」
可笑しそうに微笑みながら姉が問いかける。
「ジャクソン!何でも話すなとあれ程言っているのに!」
「そんなに怒らないでよ。ね?どんな子なの?お姉様に教えて?」
「……レーム家の娘らしい」
「レーム家って……家と敵対している家門じゃない?」
「そうだよ。でも、僕は……彼女とお近づきになりたいんだ」
「ふぅん……そうね。良いんじゃないかしら?」
「お父様やお母様には秘密にして、協力してあげる」
「何故?」
口の端を上げ、ニヤリと笑う姉は
「面白そうだから」といたずらっぽく答えた。
姉はハンカチを拾ったと口実を作り、話しかけてみてと、自分のハンカチをエドワーズに渡した。
執事と姉は協力してくれるらしい。まだ子どもだと思っていた弟に好きな女性が出来たのだ。嬉しくないはずがない。
お忍びで街へ出向き、彼女を探し市場で彼女を見つけ、エドワーズは声をかけた。そうして、マリアとエドワーズの中身が真凛と真の2人が出逢った。
* * *
真はエドワーズとして、国王に直談判することを決め、応接室に両親を呼び出した。
「父上に母上、お話があります!」
「なんだ? 改まって」
国王は父親としてエドワーズに向き合っていた。
「実は、想い人が出来ました」
「……何? どこの令嬢だ?」
「……レーム家の令嬢です」
レーム家と聞いた国王は目つきが鋭くなった。
「駄目だ! レーム家の娘など……!」
「……認めてくれないのであれば、私は王家を捨てます!」
「まあ! 何ということを!」
母親は悲痛な顔でエドワーズに叫んだ。
「……好きにさせてみろ」
「あなた?!」
「2人で暮らしてみたら良い」
「父上! ありがとうございます!」
エドワーズは、突然手のひらを返したように賛成してくれた父に何の疑問も持たなかった。ところが姉は不審に思い、父親に訴えた。
「お父様、あれではエドワーズが可哀想です」
「エミリー……駄目なんだ。レーム家だけは」
娘には優しい父親も、こればかりは譲れないと言うような態度を見せた。
「でも! そんな昔のこともう、水に流したら良いではないですか?」
「エミリー!」
母親はエミリーを止める。
「……駄目だ」
父親は決して怒鳴っている訳では無いのに、威圧感を感じさせる低い声を出した。エミリーは背筋がゾクリと凍りついた。
「……あ」
「エミリー?」
目線を伏せたエミリーに母親は気遣うように声をかける。
「……はい、お母様」
「もう、下がりなさい」
「分かりました」
こうなってしまった以上、父親は絶対に譲らない。諦めるしかないのか、エミリーは姉としてとても心苦しかった。
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