第11話 彼の元へ

 真凛はマリアとして、両親にエドワーズのことを話した。

 夕食を取った後、談話室で会話をしていた。


「お父様、お母様……」


「……どうしたの? マリア?」


 母親が優しく微笑みながら尋ねる。


「あの……私、実は……お慕いしている殿方がいます」


「あら!」


 母親は興味深そうだ。瞳から光が溢れ出しそうなほどに輝いている。

 父親は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

「どこの……どいつ……。いや、どこのご令息なのかな?」


「……エドワーズ様です」


「まさか、エドワーズ様って、ホワイト家の?」


 母親は目を見開いて、信じられない……と言いたげな雰囲気だ。


「駄目だ。マリア……ホワイト家の人間だけは駄目なんだ」


 マリアは唇を噛み締める。 


――こんなの辛すぎる。


「どうして? どうして駄目なんですの?」


「ホワイト家とは絶交しているからな」


「そんなの! 仲直りすれば良いではありませんか?」


「簡単なことではないんだ……」


 父親は譲ろうとしない。


「お父様……」


「マリア、ごめんなさいね。私達のせいで貴女達は何も悪くないのに……」


 母親はマリアの背に優しく手を触れると慰めるようにさすった。


「……諦めたくありません!」


 それだけ言うとマリアは部屋を飛び出した。



 落ち込んでいるマリアの話をミミが聞いていた。


「お嬢様、元気を出してください」


「……無理よ。彼じゃなきゃ駄目なの」


「お嬢様……」


 そこへ兄がやって来てドア越しに声をかけてくる。



「マリア?」


「はい」


「少し良いかな?」


「ええ、どうぞお兄様」


 マリアの返事を聞くと兄は中へ入って来ると、ソファに座っているマリアの横に腰を掛けた。


「大丈夫? 母上から聞いたよ。想い人が出来たんだって? 反対されてるって?」


「はい……でも、私は……諦めたくありません」


「そうだね。俺は協力するよ」


「え?」


「好きなんでしょ? ……エドワーズ様だったかな?」


「はい……でもお兄様、協力って」


「密かに会うのを手伝うとかね」

 

 兄のパトリックはどことなく真凛の兄と似ている。優しい雰囲気だろうか?


「お兄様……」


「何かな?」


「私、彼に会ってきます!」


「え……今からかい?」


「はい!」


「抜け出すのですか? 奥様や旦那様が心配されますよ」


 ミミはマリアを止めようとする。


「ミミ、このまま……このまま、諦めるなんて嫌よ! お願い、ミミ! 彼と出逢えたのは生涯で一度の奇跡なの……だから、私を行かせて!」


「仕方ありませんね……。ですが、決してバレないで下さいね。お一人では行かせられませんので、弟を付き添わせます。弟は立派な騎士です。離れた所から見守らせますので、ご安心ください」


「大丈夫、マリア?弟くんは確かに腕のたつ騎士だから信用してるけど、気を付けて」


「ありがとう!ミミ。ありがとう、お兄様!」


「お嬢様! 夜が明ける前にはお戻りください!」


「ええ! 分かったわ!」

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