第9話 同一人物

何もない白く光り輝く空間。真凛は名前を呼ばれる。


「真凛」


 囁くような美しく切なく儚げな女性の声。  


 真凛は瞼を開けると宙に浮いていた。


「え? 浮いてる?」


「落ち着いて、真凛」


「貴女は?」


 声のする方を見ると光り輝く人物が見える。眩しすぎてよく見えないものの、何となく高貴な雰囲気の外国人女性だと判った。


わたくしは、マリア」


「あ……貴女が……」


「ええ……そして、私は貴女に転生したの」


「え……転生?」


「ええ、そうよ。私達の話は知っているわね?」


「はい。とても哀しい話でした」


「ええ……」


 マリアは遠い過去を思い出したのか、切なげ瞳を伏せた。


「ここは、どこですか?」


「ここは、精神世界よ」


「精神世界?」


「ええ、貴女と私、エドワーズ様や色々な人のあらゆる意識が繋がり合う場所」


「……難しいです」


 マリアは微笑むと真凛に優しく話した。


「今生きている存在と亡くなって天界へ帰った者が会える場所」


「……天国ですか?」


「……少し近いわね。でも、貴女は生きているし、意識……つまり、夢を見ているのと同じようなものね。夢を見ている時の意識だけがここに来ているの。貴女の肉体は病室に眠っているわ」


「分かりました。どうして、私に会いに来たんですか?」


「私は貴女に転生したと言ったでしょう?」


「はい」


「貴女に頼みたいことがあるの」


「頼みたいことですか?」


「ええ」


「なんですか?」


「それはね、エドワーズ様と私の結末を変えてほしいの。貴女と一緒に過去へ行った真くんと一緒に。あの子はエドワーズ様の転生なの」


「あ。だから、一緒に行くことになったんですか?」


「そうよ」


「柏木くんも今、エドワーズ様と話してるんですか?」


「ええ」




* * *




「真、大丈夫かい?」


「……はい、頭が追いつきません」


 エドワーズから一通り説明を受けた真だったが、頭が混乱しているようだ。真は現実的なため、こういう類いの話は苦手だ。


「転生とか転移とか物語だけの話だと思っていました」


「まぁ、信じられないよね」


「でも、実際体験したので……信じるしかないですね」


「君にこうして会いに来たのには理由があるんだよ」


「何ですか?」


「僕とマリアの結末を変えてほしい」


 エドワーズの碧い瞳が真の瞳を真っ直ぐにとらえた。


「結末を? そんなことが出来るんですか?」


「本来は起きた出来事を変えることは出来ない。しかし、君と真凛さんは僕とマリアの生まれ変わり。行動を変えることであの結末を変えられると思う」


――あの結末。本当に悲惨な結末だった。もし、本当に変えられるなら……。


「分かりました。やってみます」


 エドワーズは真の返答に安心したように笑った。


「ありがとう……頼むよ、真」


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