第2話 彼氏

「え?」


 名前を呼ばれた方を見ると、野球のユニホームに身を包んだ男の子が立っていた。


「……駿しゅんくん。おはよう」


「おはよう! 帰りさ、部活終わったら寄り道しない?」

 短髪がよく似合う、屈託のない笑顔を真凛に向け、日に焼けた肌が野球部少年らしい。


 駿は真凛の彼氏で告白されて付き合っている。でも、正直好きなのか分からない。


――好きってどんな感じなのかな?


「うん、良いよ」


 何となく流されてしまう。告白されたあの時も――。



* * *



 1ヶ月前のこと。昼休み、真凛は別のクラスの男子に呼び出されていた。人気のない屋上。立ち入り禁止のはずじゃ?なんて頭をよぎりながらもその場にいた。


桜木さくらぎ 真凛まりんさん。俺は、大田 駿おおた しゅんって言います!これ、読んで下さい!」


 日に焼けた肌と短髪が特徴的な駿が、両手で掴み差し出して来たのは、手紙だった。


「手紙?」


「お願いします!」


 それだけ言うと彼は一目散に走り去って行った。

 家へ帰り封を開けて見るとラブレターで、シンプルに“好きです、付き合って下さい”とだけ、書いてあった。困った真凛は数日して駿を呼び出し、断ろうとしていた。


 真凛はお昼休みに駿くんを呼び出した。


「ごめんね、突然」


「いや……良いよ」


 少しの間沈黙が流れてしまう。


――話辛い……。でも、言わなきゃ!


「あの!」


「はい!」


 緊張して大きな声を出してしまうと、駿もまた身構えたように固くなった。


「……手紙の返事……」


「う、うん」


「考えたけど……ごめんなさい!」

 

 真凛は駿に精一杯頭を下げる。


「……やっぱり……」


「え?」

 真凛が駿を見ると、困ったように微笑んでいた。


「そうじゃないかと思ってた。……でもさ、俺達何も知らないじゃん?」


「え? うん」


「だから……友達からで良いからさ。前向きに考えてほしいんだ」


 真凛は断る理由が見当たらなくて、駿の提案を受け入れることにした。


「うん、分かった」


 真凛がそう言うと、駿は弾けるような笑顔を真凛に見せる。


「マジで?! ありがとう、桜木さん!」


「あ、うん」


「これからよろしく!」


「うん……よろしくね」


 そんな感じで真凛達は付き合うことになった。それが高校1年の秋、今から1ヶ月前のこと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る