第11話 魔道具屋
乗合馬車でゆっくりしたことで少しだけ回復したルナリーナは、冒険者ギルドで薬草を納品して22枚の銅貨を受け取り孤児院に帰る。
疲れていた彼女は、アルフォンス達が納品をしていないことに気づいていない。
「アル!大丈夫!?」
「ルナがほとんど治してくれたら大丈夫だよ」
孤児院にたどり着いたところで皆から心配の声が上がるが、夕食の時間になるので食堂に移動するため解放される。
「ルナ、これを受け取って」
3人から手渡されたのは魔鼠の魔石と思われるものが20個ほどの入った小さな布袋であった。
「どういうこと?」
「俺達が無茶をした結果でルナにしんどい思いをさせてしまったから」
「でもパーティーってできることを支援し合うものでしょう?いらないわよ」
「いや、そうは言ってもこのままだと自分達はまた甘えてしまうかもしれない。俺達の戒めのためにも受け取ってくれ」
さらに断ろうと思ったが、食堂の方から急ぐように声をかけられるので仕方なく受け取る。
「いつもいつもは要らないからね」
アルフォンスの残っていた傷はシスタービアンが完治させたようで、それ以上は問題にならなかった。
彼らが何とか仕留めた角兎の肉は翌日の食卓に並ぶという。角と魔石は反省材料にするために手元に残すらしい。
夜になり部屋で貰った魔石を数えるとちょうど20個であった。アルフォンス達3人はこの切り良い数まで魔鼠を狩ったら、さらに強い角兎に挑戦したくなったのかと想像される。
ルナリーナは使い道に困ったので、これも奉納に使ってしまうことにした。昼間に治療に使った分の魔力が奉納に使えなくなったので、まぁ妥当だと考えたのである。
疲れていたので、何となく布袋でまとまったまま女神デメテルに奉納するように魔力操作していた。
「あ、失敗したかな」
しかし、袋を開いてみると小さな魔石はいずれも無色透明になっていた。
「あれ。あ、っていうことは」
今度は逆に布袋にまとめたまま自身の魔力を注いでみると、今度はそれぞれが赤紫色に変化していた。
「うーん、だから何だという感じだけれど、今後に何かの役に立つのかも」
最後にその小さな魔石が20個入った布袋の魔力も奉納して眠りにつく。
「ルナ、昨日に何かしたの?」
翌日、いつものように読み書き計算や礼儀について孤児達に教えていた休憩時間に、シスタービアンに呼び出される。
「え?採集活動をして、あとはアルの治療をしたくらいかと」
「その治療って人前でやった?あの回復魔法を」
「野次馬が集まっていたような気がします」
「それで、ね」
シスターフローラとシスタービアンの前で座っているルナリーナは理解が追いつかない。
「あのね、今朝から何人もルナを引き取りたいと言う申し出があったのよ」
「え?(ロリコン!?)」
また変なことを考えてしまったルナリーナを置いておいてフローラが話を続ける。
「確かに見た目も整っていて、読み書き計算や礼儀などもできるルナリーナさんには身請けを申し出る人がいました。ですが、回復魔法を習得したということから見習い修行も含めてそれらを見送っていました。神殿にお勤めされる可能性もあるかも、と」
「シスターフローラ?」
ビアンも話の流れに驚いているようである。
「いえ、神殿勤めは可能性だけです。ただ、今のままでは面倒なことになりそうなので、見習いに行って頂くことにします」
「え!商家でしょうか……」
「もちろんその選択肢が良いと思う気持ちもあるのですが、ルナリーナさんは魔法のことへの興味が非常にあるとか。本人が望まない場所で働くのは不幸なことですので」
「ということは、魔法使いの方のところへ?」
「この街で魔法使いとして独立していて、見習いを受け入れるような方は残念ながら存じ上げておりません。そんなあからさまに残念そうな顔はしてはダメですよ、淑女ならば。まだ希望に近いと思われるところを選びました。魔道具屋“星屑の道具屋”のランセットさんのところです」
「確か、女性店主のお店ですよね」
「そうです。回復魔法を習得する前に調整しておりました」
魔法使いではないが、魔道具の店。微妙とは思いながら、魔法とは何の関係ない商家や、幼女趣味の人に性的な目で見られる可能性のあるところに行くよりは、と考えるルナリーナ。
「早速ですが、本日のうちに挨拶に行ってしまいましょう」
シスターフローラの勢いには圧倒されながら、孤児院を出て二人でその魔道具屋“星屑の道具屋”に向かう。
「ランセットさん、よろしいでしょうか?」
「あら、シスター。ようこそ。どうぞこちらへ」
応接室に案内され、お茶も出される。
「ランセットさん、こちらが以前にご相談させて頂いていた、見習い修行の子、ルナリーナです」
「ルナリーナ、10歳です。よろしくお願いします」
椅子から立ち上がり挨拶をする。
「あら丁寧にありがとうね。私はランセット。ご覧の通り、魔道具屋を営んでいるわ」
「読み書き計算、ある程度の礼儀というのはお話ししていましたが、最近、神霊魔法の初級回復魔法も習得しております」
「あら、すごいじゃない。頑張ったのね。うちは先ほども見て貰ったように客もほぼ来ないし、家族も居ないからのんびりして貰っていいわよ。住み込みを希望でなければ、孤児院から通うのでも良いわ」
『年齢は不明だけど、美人なのに家族は居ないのか。それにこの人を目当てで客、特に男性客はたくさん来そうなのに』
「ルナリーナちゃん、何を考えているか分かるわよ。そうね、冒険者だった夫が死んでからはずっと独り身よ。だからもし子供がいればあなたくらいだったかもしれない32歳よ。それと独り身だからと言い寄ってくる男達はしっかり追い払っていたら、この店も静かになったわ」
「!」
随分とさっぱりとした性格ではっきり言うランセットに驚くが、好感が持てる。それに、大学生で死亡して今が10歳なので合計すると自分自身もほぼ同世代と思ってしまう。
「ルナリーナさん、ランセットさんのお言葉に甘えてしばらくは通いで仕事をしてみますか。住み込みにさせて貰うかはそれから決めさせて貰うということで」
「はい、私はそれで良いですよ。服装も特にこだわりませんから、今のような格好でも大丈夫です。お客様もほとんど来ませんので」
「ありがとうございます。ではしばらくは孤児院から通わせていただきます」
改めて立って挨拶をするルナリーナ。
「では私はこれで戻りますね。ルナリーナさんは色々と教えて貰ってください」
フローラを見送り、店に残るルナリーナ。
「改めて。どうぞよろしくお願いします」
「もし違うと思ったら遠慮なく辞めて貰っても大丈夫だからね。読み書き計算はできるということだったから、まずは店の中の商品について教えていくわね」
店舗スペースそのものはそれほど大きくなく、5m四方程度に思える。そこに棚で色々な商品が並んでいるのだが、一つ一つが高級品のはずであり、ぎっしり詰まるというよりは間隔も十分にとって見せる感じである。
「この辺りは定番の灯りの魔道具ね。魔石の魔力で、暗がりを照らすのよ。持ち運ぶものや、家の天井に付けるもの。で、こっちは傷回復のポーション、こちらは解毒のポーションよ」
「魔力回復のポーションはおいていないのですか?」
「そうね、やっぱり買ってくれる人が少ないから。で、ここは魔剣と呼ばれる、魔法の武器よ」
順番に説明をされていくが、消耗品の触媒やポーション類を除くとどれも金貨が何枚も必要な物であり、とても自分が客になって買えるとは思えない。
「一つ一つが高いから、たまに売れるだけで生活はしていけるのよ。それに私自身が銅級の冒険者だから最低限のことは出来るしね」
銅製の身分証を胸元から取り出すのだが、これが男性だったら目が釘付けになるのだろうと思わされる美女の振る舞いであった。
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