第12話 魔道具屋での見習い

「こういう魔道具ってどこから入手するのですか?やはりダンジョンなどから?」

「そうね。魔の森のダンジョンで見つけたと持ち込んで来る人も居るし、行商人が他の街から持ってくることもあるわね。旦那が生きているときには2人で冒険も良くしていたのよ」

 見習い先になった魔道具屋“星屑の道具屋”の店主ランセットに教わっているルナリーナ。


「でも、持ち込まれただけだとそれぞれの効果は分からないですよね?どうやって調べるのですか?」

 異世界創作物の種類によっては鑑定スキルで確認する方法があったが、この世界はスキルが無い認識であり、通常の物品と違い見た目だけで判断できない魔道具の識別方法が分からない。

「あら、簡単よ。私が鑑定魔法の使い手だから、よ」

「え?」

「え?知らなかったの?まぁあのシスターの慌て具合だと伝えそびれたのかしらね」

 何とも簡単な答えであった。確かにそれならば理解できる。


「ぜひ、見せてください!」

 ルナリーナの食いつき度合いに引いた感じのあるランセットだが、仕方ないという感じで了承してくれる。

「そうね、まず私の魔法は魔術だって言って分かるかな?」

「神霊、悪魔、精霊の力に頼らず、自分の魔力をそのまま魔法の発動に使うもの、でよろしいでしょうか。神霊魔法などは自分の魔力を捧げて神霊などの霊的な存在である他者の力を借りますので、その違いかと」

「そうよ、良く勉強しているわね。だから、霊的な存在との契約などは要らないけれど、それだけ複雑な工程を自分で行う必要があるの」

「はい」

「それと、魔法には属性があるのも知っているわね?」

「はい。基本の火風水土と光闇の6属性とそれらに結びつかない無属性ですね」

「そう。それで鑑定魔法は無属性なの」

 前世記憶の異世界創作物でも、魔法や魔術などについて色々な解釈や設定があったが、この世界ではこんな感じと理解する。


「事前説明が長かったわね。じゃあ早速、何かを鑑定してみるわね」

「それでは、この指輪を鑑定してください」

 シスタービアンに貰った魔法発動体の指輪を取り出すルナリーナ。

「あら、なるほどね」

 ランセットは何かを分かった上で鑑定魔法を発動してくれるようである。

 肘から先ほどの長さの杖(ワンド)を取り出したランセットは魔法を発動する。


「dedicare(デディカーレ)-quinque(クウィンクエ)、Accessus(アクセッスス)-ad(アド)-Liber(リベール)-Akashicum(アカシクム)。facilis(ファキリス)-aestimatio(アエスティマティオ)」

 テーブルに置かれた指輪に向けた杖(ワンド)から先で、指輪を取り囲むような円形の白色の魔法陣が浮かぶ。ランセットが唱えるのが終わったところで魔法陣も消えていく。

 神霊魔法の回復や契約は現代語で唱えていたのに、今ランセットが唱えた言語は明らかに現代語とは違う。魔術語なのでは、とルナリーナが興奮する。


「中級中位の品質で、特殊効果があることがわかるわ。今やったのは初級魔術の≪簡易鑑定≫だから、初級・中級・高級などのそれぞれ下位・中位・上位かと、魔法付与など特殊効果の有無がわかる程度よ」

「すごいです!今のって、魔術語ですか!?」

「そうよ、魔術語による呪文よ。まぁルナリーナちゃんが見ているから杖、呪文、そして魔法陣も使ったけれど、≪簡易鑑定≫ならば私はそれらを無で使えるわ」

「それで、持ち込まれた物を鑑定するんですね。でも、先ほどの品質等だけでは効果は分からないですよね」

「そう、中級魔術の≪鑑定≫ならば、素材と大雑把な製法もわかる上に、魔法の付与など特殊効果の内容もわかるのよ」


「dedicare(デディカーレ)-decem(ディチャム)、Accessus(アクセッスス)-ad(アド)-Liber(リベール)-Akashicum(アカシクム)。aestimatio(アエスティマティオ)」

 再び杖(ワンド)を向けた先で、指輪を取り囲むような円形の白色魔法陣が浮かぶ。先ほどの魔法陣よりも複雑な感じがする。そして唱えるのが終わったところで魔法陣が消える。

「銀製で、魔法発動補助の特殊効果があるわ。これが≪鑑定≫よ」

「今度はもっと複雑な魔法陣なのですね。でもこれでも値段までは分からないのですね」

「そうなの。でも、ここまで分かると、後は経験ね。値段なんて都市によっても変わるし、季節でも変わるわ。たくさん仕入れたときには安く売ることもするしね」

「なるほど」


「うちで働くならば、そのうちにこの魔術を教えてあげられるわよ」

「本当ですか!嬉しいです!」

「本当に魔法が好きなのね」

「はい!」


 その後は、魔石への魔力補充ができることも確認される。魔道具屋の大事な仕事の一つであるとのこと。確かに魔力操作ができない一般人には、魔石は電池のように消耗品である。

「魔石の取り外しが簡単なものもあるけれど、素人では交換できないものもあるのよ。持ち込まれたときに同じ大きさの魔石が在庫になければ魔力補充をすることもあるわ。でも疲れるからルナリーナちゃんの働きに期待ね」

「任せてください!」

 色々な魔道具を直に触れる機会であるし、ルナリーナ自身にもメリットはある。


「そうだ、ルナリーナちゃんって長いからルナちゃんでも良い?」

「ルナと呼び捨てでも結構ですよ」

「うーん。まぁしばらくはルナちゃんで」

「はい」


 その他にも細々としたことを教わり、夕方になったので孤児院に戻る。

 この世界、時計は普及していないので感覚である。日の出、正午、日の入りの3回だけ、役所で鐘が鳴らされる。場所によっては神殿でも鳴らすが、この港町ワイヤックでは役所だけである。

 王都や大きな街などでは高価な魔道具の時計があるそうだが、このワイヤックはその大きな街に含まれない。

 雨や曇りの日には太陽の動きは分からないが、だいたいの感覚で許されるおおらかさである。

 森で採集や狩りをする際にも、鐘で教えてくれる人はいないため、太陽の位置でだいたいを把握することになっている。

 前世では誰もが時間に追われていたので、個人で細かい時間を知る術がないことはある意味幸せなのかとも思ってしまうルナリーナ。



 ランセットからは、それほど忙しい店ではないので、毎日出勤する必要はなく週に半分で良いと言われた。

『ここの1週間って6日なのよね。まだ何となく慣れないわね。でも火風水土光闇って6属性に依存している曜日になっているから、週7日にするならば増えるのは無曜日か。属性が無いのが無だから無属性の精霊なんていないし、6日ね。この世界の感覚になれるしか無いわね』



「ルナ、あの魔道具屋で働くんだって?」

 孤児院での夕食の際に、アルフォンス、ボリス、ミミの3人がやって来て質問してくる。

「あら、耳が早いわね。そうよ」

「なぁ、癖のある店主の魔道具屋って噂なんだけど。だから流行っていないって」

「うーん、そんな変な人じゃ無かったわよ。未亡人の美女だから、振られた男性客が逆恨みしての噂じゃないの?」

「そうなのか……」




 それからのルナリーナは、週の半分はランセットの魔道具屋“星屑の道具屋”で働き、残りの半分はアルフォンス、ボリス、ミミの3人と魔の森に行って冒険することになる。


 店舗では値札が付いていないのが普通だったが、前世記憶を活かし、各商品には値札をつけるようにランセットに進言し採用される。

「まぁ確かにルナちゃんも迷わなくて良いわよね」

 意図とは違ったが許可は貰えたので、各商品に値札をつけていく。この世界、識字率はそれほど高くは無いが、数字だけは読める者もそれなりに居たので、ポーションのような消耗品などを購入に来る冒険者達からも人気が出てくる。


「店主は無愛想だけれど、ルナちゃんは優しいね」

「ありがとうございます。でも、店主もそんなことないのですよ。私には優しいですよ」

「もしかして同じ銀髪だし店主の子供?」

「そんなわけ無いじゃないですか!ランセットさんは私と違って琥珀色の瞳ですよ。それに、そうだったら孤児院から通ったりしませんよ」

 ルナリーナの否定も効果がなく、そのうち隠し子という噂があちこちに広まる。

「もう良いわよ、否定しなくても。それで悪い虫がルナちゃんにもつかないならば、私も安心だわ」

 ランセットはそのうち諦めたようである。ルナリーナもこの世界での両親が死んだことは理解しているので、怒る人もいないからと放置することにした。




 こうして魔道具屋での見習いと冒険者の見習いという二足の草鞋を履いたルナリーナはいよいよ15歳の成人で孤児院を卒業する日が近づいてくる。

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