第43話 離サナイカラネ、瀬史琉(せしる)君?
「!? 何だって!? 校長が夜逃げ!?」
「校長の自宅は『もぬけの殻』だってさ。警察に捜索願を届け出たそうだよ」
「いや、でも自宅に『探さないでくれ』っていう書き置きがあったらしいよ?」
「校長がいなくなったら学校どうするつもりなんだ? 今の所教頭先生が代役をやってるけど……」
噂話ばかりが膨らみ正確な情報が何なのか分からないまま、騒ぎは大きくなる一方だった。
「フーム、ナルホド。博多カ……引ッ越スカ」
中学校で騒ぎが起こっていた頃、フクシュウ狂ヒは作業を続けていた。既に博多に逃げていることは把握しており、あとは詳細の話だ。
それに加え、旅立ちに向けて荷物をまとめていると……。
ヴヴー……
ブザータイプの呼び鈴が鳴った。せっかくノッて来たのに水を差しやがって。そんな悪態をつきながら出ると……。
「
今や懐かしの保護施設の先生が訪ねてやってきた。
「先生、ヨクココガ分カリマシタナ」
「
「言ッテオキマスケド、止メヨウトシテモ無駄デスヨ?」
「
「無理ダネ。ドウアガイテモ忘レラレナイシ、今デモ週ニ1回ハソノ夢ヲ見ル。
復讐シナイト人間ニ戻レナインダ。俺ガ人間トシテコノ世デ生キルニハ、ドウシテモ復讐ガ必要ナンダ。分カッタラ俺ニハモウ関ワラナイデ欲シイナ」
「復讐をしないと人間に戻れない」
「人間としてこの世で生きるにはどうしても復讐は必要」
保護施設の先生はその意味が分からなかった。
「もう辞めてよ。
私も
「コレバッカリハ譲レマセンネ。犯罪ニナロウガ逮捕歴ガ付コウガ辞メマセンヨ? ソノ程度デ辞メル理由ニハナリマセンノデ。
トイウカ、実際2回程警察ノ厄介ニナリマシタカラネ。ソレデモ止メルツモリハアリマセンヨ」
「……!!」
先生は絶句した。例え逮捕されようが犯罪歴が残ろうがやる。彼のセリフがにわかには信じがたいものだった。
「復讐よりも犯罪歴が付いたり学歴が無い事の方がよっぽど問題じゃない! 将来就職とかどうするつもりなのよ!?」
「ソンナノドウデモイイ。サッキモ言ッタガ『復讐シナイト人間ニ戻レナイ』シ『俺ガ人間トシテコノ世デ生キル』ニハ復讐ガドウシテモ必要ナンダ」
そう言って彼は玄関を閉め施錠した。
結局先生が
部屋も解約し、足跡も残さずに彼は『友達』を追いかけて行ったのだ。
1月後半。正月気分も抜けて世間は日常に戻った頃。
博多まで高跳びしておよそ10日後の事だった。アパートのポストを見ると1通のチラシが入っていた。
「オ早ウ。
転校先ハ確カ「県立博多学園高等学校」ダッタヨナ? トリアエズソコノ1年生ト教師全員、ソレニゴ近所サンニ挨拶ヲ済マセテオイタヨ。友達トシテコレ位ハヤラナイトネ」
それを見た瞬間、
あいつ、たった10日かそこらで自分たちの潜伏先、さらには転入する予定の高校までも調べていた。その機動力はどこから来るんだ?
そもそもの話、どうやって調べたのか? 何もかもが謎だった。
「狂っていて恐ろしい」
「ルビコン川」はとっくの昔に渡りきっており、もちろん引き返すことは出来なかった。また学校で除け者扱いされて生きることになるのか……ストレスで彼の胃がキリキリと言いだしていた。
自分は中学生の3年間、取り返しがつかない程大きな間違いを犯したというのに、今更気づいてもあまりにも遅すぎていた。
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