第42話 夜逃げ
「
「? どうしたんだ、父さん」
1月になって間もない頃。世間は年始で「はっぴぃにゅういやぁ」でめでたいめでたい、と浮かれている頃の話だ。
相当重要な話なのだろうと腹をくくった。
彼も父親が座っている場所に向かい合わせになるように正座して座った。
「詳しい話を聞かせて下さい」
「
「!! 逃げるだって!?」
出てきた言葉は「逃げよう」という提案。
「正直旗色はかなり悪い。
いじめを隠しきることは難しくなっているし、
父さんのスマホには今でも毎日100件以上の着信があって、全部抗議の電話だろうな。
実を言うと、最近心療内科に通いだして薬を投薬しながら仕事をしているんだが、それも限界が近い。医者からは可能なら仕事を休んで治療に専念しろって言われてるからな」
「!! そ、そんなにひどいのか!?」
医者から働くのを辞めろと言われる位なら、相当な重傷なのだろう。
「ああ。この家も売り手がついてまとまったカネが入る予定だ。それで逃げて、当面の生活資金を使って新生活の
縁もゆかりも無い地での生活になるけど、大丈夫だ。家の代金や貯金を合わせて4500万はある。それだけのカネがあれば上手く暮らせるはずさ」
「!! い、家を売るだって!? この家、売っちまって良いのか?」
「構わない。元々痛みの少ない中古の家だったからな」
「……新築じゃないんだ」
「何か不満でもあるか?」
「い、いや。別に無いけどさ……ちょっとすぐには決断できないから考えさせて」
息子は自分の部屋へと戻る。イスに深く腰掛けて、状況を整理する。
クラスメートはもちろん、教師陣も色メガネがかかっている状態で彼の言う事をまるで聞きやしない。
さすがに刃傷
とはいえ、ケンカでは中々優位性を確保できない。他でもない自分の事だ、いつか刺すだろうとは思っていた。
それを避けるには「縁もゆかりも無い地での新生活」は魅力的だ。あの
「よし」
彼は意を決して父親の下へと向かった。
「父さん、分かったよ。一緒に逃げよう」
「すまん、ありがとう。恩に着る」
翌日の金曜日……2人は年末年始の休み期間中だったのもあり、朝から荷造りを始めた。
マイナンバーカードといった身分証、通帳やキャッシュカード、現金の入ったキャッシュボックス、数日分の着替え、
スマホに充電機器、保険証書や契約書などの重要な書類、などを車へと詰め込み夜逃げの準備を進める。
軽自動車だったのもあってトランクの中はもちろん後部座席にも荷物が詰め込まれており、運転席と助手席ぐらいしか乗る場所が無く、特に数日分の着替えがバカに出来ない位スペースを取っていた。
「父さん、九州のどこへ行く予定だい?」
「北九州の博多だ。父さんやお前の関係者にとって血縁もゆかりも全くない場所だ。高速道路でも12時間以上はかかるから途中で仮眠をとるつもりだ」
「随分遠いなぁ。日本を縦断するんじゃないのか?」
「それに近いな。さすがにここまでは追ってこれまい」
幸い、一見すると「親戚の家に出かけに行く」ように見えたため、周りには違和感などは与えなかった。
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