第41話 穂炊木(ほだき))元先生の葬式
12月も終わりに近づき「もういくつ寝るとお正月」という慌ただしい時期だったがその日、
彼には血縁者はいたが10年以上連絡を取っておらず「ほぼ他人」と言ってもいい位疎遠になっていたこともあり、
生前親交の深かった
全員集合というわけではないが、主にかつての同僚だった中学校の教師たちや、クラスの担任をしていた1年A組の生徒が参列した葬式。
そこで心の底から泣いていたのはせいぜいが
参列者の9割以上が泣いてない、喪失感の無いお葬式だ。
「では参列者の皆様、ご焼香をお願いします」
それでも式場のスタッフによる手慣れた司会進行が行われる。
さすが何回も葬儀の場に立ち会っている、いや葬式を行うのが仕事なだけあってこんな異様な式でも戸惑う事もなくテキパキと進めていく。そこに……。
「俺カラヤラセテモラロウカ?」
中学生時代の制服を着たフクシュウ狂ヒこと
「く、
「中学生時代ノ恩師ノ葬式ニ顔ヲ出スノガ、ソンナニモオカシイ事ナノカ?」
「い、いや『恩師』って……お前あれだけのことをされたのに本気で思ってるのか!?」
「誰だあいつ?」
「
1年A組の生徒達がざわつく中、フクシュウ狂ヒは
「……顔ヲ見タイノデスガ、良イデスカ?」
「え、ええ。構いませんよ」
式場のスタッフが、開けると
その直後!
フクシュウ狂ヒは自分の指を口の中に突っ込み、かき回す。そして……。
「オエッ! オエッ! ウッ! ウボエエエエ……」
彼の口から吐き出された「胃で消化しかけの液状の物体」が
ビチャビチャビチャビチャビチャ……
「不愉快な液体」が故人の顔にかかる……「聞きたくも無い不快な音」を立てながら。
その場にいた誰もが、目の前で起こっている事が一体どういうことなのか? それがどういう意味を成すのか? 理解できなかった。
参列者は全員、それこそ葬式が仕事であり日常となっているはずの式場のスタッフですら、パソコンやスマホがフリーズするかのように全く動けなかった。
いや、それどころか自らの目が見た光景がどういう意味を成しているか、全くわからなかった。
脳の処理が追い付かない。それほど「意味の分からない」あるいは「あり得ない」光景だった。
「ククククク……」
彼は、笑った。
「ハハハハハハハ……」
彼は、
「ヒヒヒヒィッヤハハハハハァアアアア!!!!!」
彼は、喜劇王が見せるコメディ映画を見たかのように、大爆笑した。どす黒い本音があふれ出した。
「お、お前! 仏様の顔になんてことをするんだ!」
群衆の中でフクシュウ狂ヒがしでかしたことに対して最も先に動けた坊主が彼に怒鳴りつける。
それを合図に式場のスタッフもフリーズを解除されて動き出し、フクシュウ狂ヒを拘束する。
「警察を呼べ! あとこいつを引きずり出せ! 急いで!」
総勢4名のスタッフが飛び出しある者は遺体を汚した不届き者を押さえ、またある者は警察へと通報する。
「さぁ来い! 来るんだ!」
結局フクシュウ狂ヒはスタッフ達の手で式場を追い出され、その後死体損壊罪で警察に身柄を引き渡される事となった。
「お前、初犯じゃないな? 2回目の再犯だよな?」
「エエ。以前警察ノオ世話ニナッタ事ハアリマスネ」
「お前、犯罪をしている自覚があるのか? ったく……未成年だから罪を犯しても大丈夫だなんて思って無いだろうな? まぁいい。ごく軽い罪だから審判にはならないだろうよ」
フクシュウ狂ヒが犯した罪は大人がやったら「3年以下の懲役」となる「死体損壊罪」という物だ。
しかし「死体損壊」という罪だが実際には死体をちょっと汚したというごく軽度の物、加えて再犯ではあるが未成年である事から、
いわゆる一般的な裁判で言う「不起訴処分」に近い「審判不開始」処分が妥当とされ、口頭による注意だけですぐ釈放となった。
「……」
フクシュウ狂ヒの乱入後は式は順調に進み、終わった。だが
「例え死んだとしても許さない」ドラマじゃよく聞くセリフだが、それを実行するとは思って無かった……狂ってる。そう「圧 倒 的 に」狂ってる。
相手は自分たちを決して許すつもりはなく、徹底的にやるつもりらしい。
どうすれば良いのだろうか……。
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