第39話 あまりにも危険すぎる相手

♪~♪♪


 フクシュウ狂ヒのスマホが鳴る。久多良木くたらぎ探偵事務所からの電話だ。

 彼は自力でも調べていたが、それ以外にも久多良木くたらぎというこの辺りでは珍しい名字の探偵と契約をして、手伝いをさせていたのだ。

 特に最近は学校に来なくなり、家にもいる様子が無い大愛だいあについて調査を依頼していたところだ。




「モシモシ?」

「そちらは、高見たかみさんの携帯で間違いありませんね? 今お話ししても構わないでしょうか?」

「ハイ。構イマセンガ?」

「仕事の件で重要な話があります。お手数ですが事務所にお越しいただけないでしょうか? 今日ご都合がつくのでしたら、いつお越しくださっても構いません」

「分カリマシタ。今カラ向カイマス」


 仕事もせずに中学時代のクラスメートに復讐ばかりする毎日。時間は作ろうと思えばいくらでも作れた。午前中にフクシュウ狂ヒは探偵事務所へとやって来た。




 1階はインド系の食料品を売る外国人がいる、怪しさバツグンな雑居ビルの2階にその事務所はあった。

 フクシュウ狂ヒは「久多良木くたらぎ探偵事務所」という、どこにでもありそうなシンプルな表札みたいな事務所名が書かれたドアをくぐる。

 フロアスペースはそれほど広くはなかったが、探偵事務所として使うには十分すぎるスペースの場所に依頼人がやってくると、事務所の主は重苦しい顔をしていた。

 その机にはお金の入った封筒が2通置かれており、それぞれ「前金」と「違約金」とマジックペンで書かれていた。


「コレハ一体?」

「申し訳ありません。確か大愛だいあちゃんとか言いましたよね? 彼女の行方を追うことは出来なくなりました。お金は返すし違約金もつけますから、諦めてくれませんか?」


 大愛だいあの足取りを追うよう依頼した探偵に「詳細を追うのは諦めてくれ」と依頼された前金に加えて「違約金」なるカネで増量した依頼料を返してもらった。

 ……どういう事だ? 




「何カ、有ルノカ?」

「ええ、大有りです。国際指名手配されている人身売買組織が大愛だいあちゃんを買ったそうなんです。

 アメリカの警察ですら怖くてまともに手が出せなくて、ましてや日本の警察なんて逆立ちしようが手も足も出ない程どす黒い組織なんです。俺みたいな吹けば飛ぶ探偵ごときがどうこう出来る相手じゃないんです!

 死にたくなければ絶対に関わってはいけない位の危険な組織なんですよ! 俺はまだ死にたくないからこの仕事から手を引きたいんです。お願いします!

 依頼金は全額返すし、何だったら違約金もつけます! その代わりこの仕事から手を引かせてくれませんか!? すまないが俺はまだ死にたくないんだ!」


 その探偵は、明らかに慌てていた。早口でまくし立てるように、反論をするスキさえ与えないように、言いくるめるよな言い方でフクシュウ狂ヒに詫びわびを入れてきた。

 目やしぐさの1つ1つからは恐怖の感情が素人目にも分かる位浮き出ていて、その口調から必死ぶりがひしひしと伝わり、それに両腕も少し震えているように見えた。




「命ニ直接関ワル相手カ……マルデ漫画ダナ」

高見たかみさんにとっては人身売買組織なんて、マンガやアニメに出て来る悪役の組織かもしれませんけど、彼らは実在するんですよ。

 何度でも言いますけどそいつらは絶対に相手にしてはいけない程の黒い組織で、アメリカの警察ですらまるで歯が立たないんです」


 探偵は依頼主にそう説明する。

 あの銃社会であり戦勝国でもあるアメリカでさえ歯が立たないとなると「よっぽど」のことだ。

 それこそマンガやアニメに出て来るような組織だったが、彼に説得され続けてようやく踏ん切りがついた。


「分カリマシタ。前金ト違約金ヲ受ケ取リマショウ」

「ありがとうございます。助かりました。いや本当の意味で」


 依頼人であるフクシュウ狂ヒは前金と違約金をもらって事務所を後にした。




◇◇◇




 ……ここはどこなのだろう?

 窓が無いため昼夜の区別すらつかない、照明とベッドだけしかない部屋に、大愛だいあは軟禁されていた。

 どうやら日本で言うアパートの1室らしいそこで、彼女は全裸にされ部屋からは出られないようカギがかけられていた。



ガチャリ



 鍵が開く音が聞こえた。また仕事か……。


「35番、仕事だ」


 部屋の管理をしているらしい男が大愛だいあの事を番号で呼びつつ、客らしき男を連れてくる。黒人の血でも入っているのか黒めの肌をした、筋肉ががっしりと付いた大男。

 彼が大愛だいあと出会うや否や、彼女を殴り蹴とばした。


「Wooooo!!」


 男は思わず歓声を上げる。カネはかかるが女を自らの手で殴り放題蹴り放題となると納得の値段だ。




 大愛だいあの客はいわゆる「リョナ」とでも言おうか、女が殴られ、蹴られて痛がる様が最高に興奮できる特殊極まる性癖を持った連中だ。

 既に彼女の身体にはいたるところにアザが浮かんでいたのだが、それすらも性的興奮を誘う物であった。

 殴られ蹴られる痛みに耐える大愛だいあだったが、その表情を見て相手の男性器はギンギンに怒張していた。

 その後客が性欲を満たして出て行くまで成すがままされるがままのプレイ……「オス」が「メス」相手に性欲をぶちまけるだけの、

 相手を「生きた大人のおもちゃ」程度としか見ていないゴム無しの本番行為。をされ続けた。




 もちろん黙っているわけがなかった。いつか復讐の時が来るのを待ち続けていた。


「35番、仕事だ」


 その日、管理人らしき男が客を連れて部屋に入って来た。すると大愛だいあは客を連れてきた男の股間を思いっきり蹴飛ばした。

 その1撃で睾丸が潰れてもいい。それ位の勢いで込められるだけの力を、ありったけの力を全部振り絞って蹴り上げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る