第35話 いじめは確かにあった
『報道関係者各位へ。
まずはそこに務める1人の教師として、深く謝罪させていただきたく存じます』
11月中旬。
新聞やテレビ局やネットニュースサイトの編集部に、それを冒頭に始まる印刷されたコピー用紙が入った封筒が届いていた。
切手の
ただ、
『船城市立船城中学校にいじめがあったという疑惑に関してですが、中学校に務める教員としての目ではっきりと「いじめはあった」と断言します。
当時の校長の息子さんがクラスメートを裸にして首輪を付けてつなぎ、冬の寒い廊下を四つん這いで歩かせていました。
決して許されざる事なのですが、当時の校長の権限で「いじめは徹底的に隠せ。従わなかったものにはそれなりのペナルティーを課す」という命令が発せられていました。
実際それに逆らったがために
いじめは確かにあった。ハッキリと断言したその告発文は世間に広がる疑惑を確信に変えるものであった。
『学校ぐるみでいじめを黙殺していた疑惑に関しては、それは本当にあったと断言します。
本来であればもっと早い段階でこの告発文を書かねば使命を果たせないと思っていましたが、実際に校長に逆らった
ようやくこの告発文を公開できる覚悟が出来たので「遅きに失した」と思われるのは当然かもしれませんが、今回こうして投稿する事に致しました。
どうかこの投稿が公正な社会のために少しでも役立つことを願っています』
告発文はそう締められていた。
『いじめはあった。船城中学校教員による告発文より』
ネットニュースサイトのトップでその報道が伝えられる。
「校長の命令の下、学校ぐるみでいじめの隠ぺいをしていた」という噂を裏付ける手紙が今朝届いたのを見て早速記事として公開する。
「お昼のニュースです。船城中学校の教員から『学校ぐるみによるいじめのもみ消しは本当にあった』という告発文が届きました。
それによると、当時の校長の指示により彼の息子が起こしたいじめを黙認するよう命じられ、従わない者は
次いでローカルテレビのニュースでもそれを報道する。消えかけていた炎に油が大量に注がれて、不死鳥のごとく復活して再び世間では大炎上となった。
中学校や校長への抗議の電話は一時期、日に30件程度まで減少し、このまま順調に無くなると思ったら報道でまたもや注目を浴びて大炎上の再開。
職員室の外線受話器のなる音が1日中止まない日々が再びやってくることになった。
「オイ聞いたか? うちの学校の教師が告発文をマスコミに送ったそうだぜ」
「誰だよソイツ? でもそれが本当って事は結局いじめってあったんだな」
クラス内で噂が広がる。
「……」
昼の休憩時間中、スマホでニュースを見ていた事件の張本人である告発をした教師は、その様子を真剣な表情で見ていた。
目をつぶれば校長の息子である
校長の命令に従わなかったために
普段「いじめをしないでみんな仲良く」と生徒に指導しているくせに、自分だけはいじめに対して見て見ぬふりをしなくてはいけない。というのは苦痛だった。
「どのツラを下げて生徒と接しなくてはいけないんだ!?」という罪悪感や使命感、それと「罰を受けたくない」という打算の板挟みにあい、苦しみ続けていた。
それがいじめの疑惑がこれ以上に無いほど深まった事でようやく彼のやった事を世間に公表できると思い、思い切って筆を握ったのだ。
「誰かがやらねばならぬこと」「自分がやらねば、誰がやる?」普通の人より正義感が強かったその教師は、自分のやったことに対して後悔はしていなかった。
これでいい。正しいか間違ってるかはどうでもいい。ただ、自分が成すべきことを成したまでだ。そう力強く思っていた。
後は世間が校長をどう裁くかだが、それは天命を「神」とでも言うべき、人知を超えた何かに対して任せることにした。
「……」
フクシュウ狂ヒもまた、TVやニュースサイトの騒ぎを見ていた。
(イヤァ、世ノ中マダマダ見捨テタモノジャアナイナ。コウイウ正義感ノ有ル立派ナ大人ガ、マダイタトハナ)
素晴らしい……ただひたすらに素晴らしい。匿名で告発した中学校の教員には直接にせよ間接にせよ届かなかったが、多大な敬意を持っていた。
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