第34話 全裸画像

 昼休み、船城市立船城高校においてカースト2軍や3軍と言った負け組……いわゆる不良や陰キャ、チー牛が集まって作戦の内容を確認していた。


「……本当に、ヤるんだな」

「ああ。ゴムありで5千、ゴム無しで1万だそうだ」

大愛だいあたんとヤれるなんて夢見てえだなぁ」

「どうせ瀬史琉せしるの穴兄弟だからなぁ。まぁヤれるから良いけど」




「……」


 その日、学校で大愛だいあは気味の悪い視線を感じていた。昼休みが終わってからは特にそう。

 まるでラノベに出て来る「奴隷オークション」に出品されている「商品」を品定めするかのようなゲスな視線だ。

 クラスの中でも特にガラの悪い、あるいは格下の男子生徒数名が、彼女を見ていた。彼らのスマホには大愛だいあの新たな全裸画像と書き込みが映っていた。




「船城市在住の16歳 パパ募集中

 ゴムあり梅一 ゴム無し栄一」




 どうやら何者かが中学校の卒業アルバムから大愛だいあの写真を撮り、AIで「脱衣」させたらしい。

 今やAIの進歩で数タップで「脱衣GO!!」はもちろん下着姿や妊婦姿にすることもできる時代、画像の加工はいくらでも出来た。




 放課後になり、大愛だいあが帰ろうとすると彼女のスマホ宛てにメッセージが入っていた

 そこにはAIで脱がせた彼女の全裸画像が映っていた。

「今日の放課後、3階空き教室に来ないとこれを1年生の間に流すよ」という脅し付きで。




「ふざけやがって」


 大愛だいあは文字通りの「殺意」を秘めながら指定の場所へと向かった。


 時期は11月。朝晩の登下校ではそろそろ冬用コートが欲しくなる頃。

 日が沈もうとしている中、彼女は3階には1部屋しかない空き教室へ行くとクラスの男子生徒が1人、ぽつんと立っていた。

 いわゆる「ヒョロガリ」系の陰キャだ。大愛だいあからしたら一瞬見ただけで人権を持っていない、人間としてカウントされてないタイプだ。




「だ、だだ、大愛だいあちゃん。ボ、ボクの言うこ、言う事……」

「死ね!!」


 緊張で嚙みまくりなヒョロガリのセリフをさえぎって、持ってたカバンを投げ捨てると中から取り出したスタンガンの電流を流した。

 相手は見た目通りヤワな身体だったのか、すぐ白目をいての気絶だ。落としたスマホを奪うと画面を操作して写真を消去しようとする。だが……




「ハイ捕まえたぞ。大愛だいあちゃん」

「!?」


 隣の教室に隠れていたクラス内のカースト2軍3軍の男子5名が彼女に群がる。スマホを見ていたせいで接近に気づけず、両腕をつかまれてしまう。


「放せ……! 放して……!」


 大愛だいあは逃れようとするが、力の差では男子には敵わない。

 スマホを操作するためにスタンガンを手放していたのもあって、ムリヤリ押さえつけられ動けないようにガムテープで両手両足をグルグル巻きにされてしまう。




 彼らはサイフから5千円札や1万円札を取り出し「受け取れ」と言わんばかりに見せびらかす。彼女が持っていた通学カバンから財布を見つけると、その中に突っ込んだ。


大愛だいあ、お前カネ欲しいんだろ? カネならいくらでもやるから代わりにヤらせてくれよな?」

「殺されてえのかテメェら! 2軍や3軍のカス共の分際でオレに気安く触るんじゃねぇよ!」

「うるっせえな!! カネさえあれば股開く便所女の分際で!! どうせ瀬史琉せしるの奴と散々ヤってるから慣れたもんだろうが!」


 男子生徒たちはズボンのチャックを開けると、中から男のシンボルをむき出しにする。どれもこれも天高くつき上げるほど大きくなっていた。




「!!」


 気丈にふるまう大愛だいあだが、それでも今から襲いかかって来るであろうそれを見ると青ざめてしまう。


「嫌……辞めてよ! 辞めてってば!」

「ここまで来たらもう降りるって選択肢はねえんだよ。お前はもちろん、俺たちにとってもな」

「ひ……」




 大愛だいあは寒さ以外の要因で歯がガチガチと鳴り、全身が引きつり、目からは涙が1粒流れる。

 パンティを脱がされ陰部を瀬史琉せしる以外の男に見せてしまう事に脳の回路は完全に焼き切れるか、あるいはショートしてもはや怖さすらスーッと消えてしまう。

 ちょうどホラー映画を観ていて「あまりにも怖すぎて声すら出ない」のと同じ状態だ。


 来る! そう思って彼女が目をつぶると……。




「オイ! お前たち何やってんだ!?」


 大人の怒鳴り声が聞こえてくる。目を開けるとそこには校内を見回りしていた男教師がこちら側に駆け寄ってくるのが見えた。


「ヤバい! 逃げろ!」


 男子生徒達は慌てて散り散りに逃げていった。




「大丈夫か!?」


 先生は巻かれていたガムテープを切って大愛だいあを救い出した。


「怖かっただろう、もう大丈夫だ。詳しい話は職員室でしようか」


 彼女はコクリ、とうなづいて先生の後をついていく。


「オイ起きろ」


 大愛だいあのスタンガンで気絶したヒョロガリを起こして立たせる。事件の犯人一味だろう彼は重要参考人として職員室まで連行される事になった。




「!! そんな事があったとは!」


 職員室で先生たちは大愛だいあから話を聞いていた。未遂で済んだとはいえ、学校内で凌辱りょうじょく事件が起きるとは……。

 彼女は日ごろは教師の手を焼く問題児だったが、だからと言って事件の被害に遭ってもいい。とは言えなかった。

 幸い、と言って良いのだろうか。犯行グループのメンバーである「ヒョロガリの陰キャ生徒」は確保しているので彼を基点にすれば「芋づる式」にメンバーが分かるだろう。




(……黒鵜くろうが悪いのに、何で?)


 こんな事をする奴は黒鵜くろう以外にはあり得ない。絶対奴がやったに決まってる!

 なのに大愛だいあは中学時代、3年にわたっていじめ続けていた黒鵜くろうに対しなぜか憎しみを持つことが出来なかった。

 中学生の頃は「逆らうなんて信じられない!」と自分が被害者になったようなしぐさを見せる事もあったが、それが湧いてこない。


「自業自得」その4文字が彼女の頭の中にあった。

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