第30話 鳴りやまない抗議の電話

♪♪♪~♪♪


 市立船城中学校の校長室で仕事をしている真田加まだか校長のスマホにひっきりなしに着信がかかって来る。

 出るとテンプレのごとく「いじめを闇に葬り去るつもりなのかお前!?」という抗議の怒号が飛びかかって来る。


 8月末からかかるようになった抗議の電話は9月下旬の今となっては勢いを増し、常に誰かからの着信がかかっている状態で業務に支障が出ている位だ。

 おかげでスマホをフル充電しても1日持たず、モバイルバッテリーを使わないといけない位だ。




(……何で、こんな目に遭うんだ。俺は、何か悪い事をしたのか? 神よ、なぜこのような試練を?)


 電源をオフにしない限り常になり続けるスマホに精神を病み、今や着信音を聞くだけでゆううつな気分になり、ふさぎ込んでしまった。

 それでも彼は甘い汁をチューチューすする未来を見捨ててはいなかった。




(……着信履歴、258件か)


 放課後になって明らかに異常な数と言える着信履歴を前にして、穂炊木ほだき先生は固まっていた。

 授業中はスマホを職員室の机の中に入れていたし、ベル音を切っていたため着信しても振動するだけだったが、それでもバッテリーは食い尽くされる。

 彼もモバイルバッテリーを使わないとフル充電しても1日持たなかった。


 毎日200件を超える着信が入り、校長同様にすっかり「メンタルがヘラって」いた。

 休日にケータイショップへ行って「迷惑電話がかかって来るのを何とかしたい」という理由で電話番号の変更をこれまで3回行ったのだが、

 いずれも3日も経てば番号を突き止められ、また抗議の電話の洪水に呑まれる日々を過ごしていた。




(どうせネットでの炎上だ……その内鎮静化する。それまで耐えねば)


 真田加まだか校長と一緒に天下りして甘い汁をチューチューすする老後を迎えるためなら、今起きている事はささいな事。

「輝かしい未来」のためなら今の苦労は試練と受け取ろう。そう思って職務に就いていた。




「校長先生、どうします?」


 教師が帰宅する時間帯。真田加まだか校長と穂炊木ほだき先生は例の件で話をしていた。


「着信履歴200件以上、か。1日でこれだけの量か?」

「ええ、そうなんです。いかがいたしましょうか?」

「声明文を出そうと思う」

「!! ええ!? いいんですか校長先生!?」

「そうでもしないと騒動は収まらんだろ。大丈夫だ、任せてくれ」

「お願いいたします。校長が頼りなのですから」


 あくどい大人たちは責任逃れのために声明文を発表することにした。




 3日後の朝、中学校の事件を報道したネットニュースサイトやテレビ局へ学校からの声明文が届いた。


 ネットニュースサイトは即座に記事にし、テレビ局は昼のニュースで伝えた。 


「こんにちは、お昼のニュースです。船城市立船城中学校の校長や教師がイジメを隠ぺいしたという疑惑に、学校側が声明文を発表しました。それによりますと

『疑惑が浮上して以降、校内で調査した上ではいじめとみられる件は一切ありませんでした。

 また、現在校長や学校の業務に支障をきたすほどの迷惑電話が常にかかっている状態で、最悪業務妨害の容疑で刑事起訴も考えているので即刻止めていただきたい。

 此度は世間をお騒がせして大変申しわけありませんでした』との事です」




 事情を深く知らない人からしたら比較的真っ当に聞こえるが、実際にはたまったものではない内容だ。


 いじめは無かったというが実際にはあって、しかも校長と担任教師がもみ消していた。

 また、ネットに出回っている生徒からの告発に断固として「No」を突き付けるどころか、

「君の心がけ次第では『何故か』高校に進学できなくなる可能性もあるけどそれで良いのか?」と脅した事には一切触れていない。

 おまけに「抗議の電話をするのなら警察に通報するぞ」と脅しをかける始末。




 当事者が見れば完全に「言い訳」をしているだけの「責任逃れ」な内容だ。

 結局、学校からの声明文は「自ら爆弾を大型化し、それの導火線に火を放つ」という逆効果。

 校長らの思惑とは反対に今回の件でますます抗議の数が増える一方となってしまった。

 穂炊木ほだき先生が精神に異常をきたして自滅するまで、もう少し。

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