第28話 狩られる側からは抜け出せない
9月が始まって数日……
クラスを半分に分けて行われたサッカーの授業を終え、教室に戻って来る。
着替えを終え、お昼の時間になったので、
「!? 何だこれ!?」
そう言えば体育の授業にカースト1軍の腰ぎんちゃくが「制服からジャージへの着替えに手間取った」等と言って遅刻して、体育担当の教師から注意を受けることがあった。
アイツがやったのなら全てに納得がいく。
「いきなり何するんだ!?」
「テメェだろ! オレの弁当にこんな事しやがったのは!?」
「証拠はあるのか!?」
「テメェ授業に遅刻しただろ!! あの時テメェがやったら全ての
「オイ
騒ぎを聞いたクラスのカースト1軍の生徒が駆け寄って来る。
「テメェ! 下僕の
「ハァ!? 俺にはお前が勝手にキレたようにしか見えないんだが?」
「とぼけるな! お前がコイツに指示して、オレの弁当を台無しにしたんだろうが!!」
「証拠も無いくせにそんな事言われるのは心外だなぁ」
「!! てめぇ!」
悪びれる様子の無い相手に
「
彼は生徒指導室で初老の担任教師と面談をしていた。
転入初日からクラスメートはもちろん先生までも、前の学校で起こった出来事が元の噂やフクシュウ狂ヒの工作により、全員の目に色メガネがかかっていた。
カースト1軍の生徒が彼にちょっかいを出して暴れるため、ここの学校でも
「言っておくがお前が前の学校で何をやったかはよく知ってるからな。また似たような事件をココでも起こすのは辞めてくれよな。
お前をこの学校に受け入れるかどうかの会議で、散々揉めに揉めた末にようやく受け入れることにしたんだから裏切る真似は辞めてくれよな?」
「い、いやだってオレは被害者で……」
自分は悪いことは一切やってない。中学生時代で育まれていた罪悪感の欠如。そこを教師は激しく指摘する。
「ホラまたそんな事を言う!! お前は加害者の意識があまりにも無さ過ぎる!! 親からどんな躾をされて育ったんだ!?」
「い、いやだって本当の事で……」
「本当だとかウソだとかいう問題じゃない! 例えウソの話であったとしても、罪悪感とか罪の意識が無さ過ぎるのが問題なんだよ!!
お前は罪を犯して申し訳ない気持ちが出てこないのか!?」
「いや、別にウソの話なら罪悪感は持たなくても良いんじゃないんですか?」
そこまで相手の主張を聞くと教師は重く、重苦しいため息を1つついて天を仰いだ。
担任教師と問題児の会話は一切かみ合わない。
教師が言う「罪悪感」とか「罪の意識」が問題児には「スコーン」と抜け落ちていた。そこを言っても通じない。
同じ日本人で、同じ日本語を使っているにもかかわらず相手が何をどういう意味でしゃべっているのか、まるで理解できなかった。
産まれつき目が見えない人間に「モナ・リザ」の美しさを教えるようなもので、途方もなく果てしない虚無の荒野が広がっていた。
放課後になって、
「もしもし?
「
「!! もうそんな話が行ってるのか!? なぁに、大したことないって」
「
「そういうお前こそいじめに遭って無いだろうな? もしお前をひどい目に合わせる奴がいたらそっちにすっ飛んでぶちのめしてやるから遠慮なく言えよ」
「私は大丈夫。何の心配もいらないから。うん、じゃあね」
通話が切れた。
2人ともお互いに余計な気苦労を負わせないために「学校では上手くやっているから」とお互いに言い合うが、実情は最悪だった。
しかも教師は2人に対して「色メガネをかけて」接しており、本当に向こうから仕掛けてきたのだがそれが通じない。
かつて中学生だった頃とよく似ている。あの頃は「もみ消す」側だったが今度は「もみ消される」側だ。
いくらもがいても、むしろ「もがけばもがくほど」沈むアリジゴクさながらであった。
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