第27話 絶望の2学期

 8月の末……もうすぐ2学期が始まる9月になる、というタイミングで隣町の高校に転校することが正式に決まった瀬史琉せしるは、新しく届いた制服に袖を通していた。


「どうだ? 似合うか?」

「うん、大丈夫だ。どこかきつかったり緩かったりはしないか?」

「それは平気。特に問題ないよ」




 いじめが原因で事件を起こし、市立船城高校での生活が1学期も持たずに終わった瀬史琉せしるにとっては、高校生活の再スタート。

 前みたいに自転車通学ではなく電車通学となるためお金は多少かかるが大したことではない。

 何より高校生活の再スタートを切れるという意味では、希望に満ちた船出であった……その希望が瞬時に絶望に変わることなど、知らぬまま。




 迎えた9月2日。2学期初日の事だ……


「諸君、お早う」

「「「おはようございます、先生」」」


 初老を迎えたのか頭髪の薄い教師と1年2組の生徒達があいさつする。


「今日から君たちと一緒に高校生活を送る仲間が増えるんだ。瀬史琉せしる君、来なさい」


 言われて彼は颯爽さっそうと登場する。




「隣町にある船城市立船城高校から来ました、真田加まだか 瀬史琉せしると言います。よろしくお願いします」


 彼は出来るだけ波風を立たないような立ち回りを心掛けるが、クラスメートからの視線は厳しい。

 疑惑、不快、嫌悪、恐怖、という色で彩られた視線は、おおよそ初対面の人間に向ける感情では無かった。


(……? 何だ? 何かがおかしいぞ?)


 瀬史琉せしる自身が転校するのは初めてだが、小学校の頃クラスメートが転入してくることは2回程あった。

 その時とは明らかに違う「何か」があった。




「コホン。あー、瀬史琉せしる君は色々あったそうだが、まぁ仲良くしてやってくれ」


 担任の先生もどこか、よそよそしい。転校生がやって来た過去の体験からは明らかに違う何かがある……瀬史琉せしるの経験則がそれを告げていた。


 何が起こっているのか瀬史琉せしるがようやく分かったのは、ホームルームが終わってから1時限目の授業が始まるわずかな休憩時間。

 休憩というよりは授業の準備に充てるものだが、そこで彼はある物を発見した。机の中に入っていたのは1枚のA4用紙。そこには……。




真田加まだか 瀬史琉せしるノ自己紹介。

 私、真田加まだか 瀬史琉せしるハ前ノ高校デ同級生ヲ刃物で刺シマシタ。中学生の頃イジメヲヤッテイタノガ「バレテ」シマッテ、

 ソレヲアマリニモ生意気ナ態度デ揚ゲ足ヲ取ルノダカラ許セナクテ、ツイ根性ヲ叩キナオスタメノ愛ノムチヲ振ルッタンデスヨ。


 ソレト、中学生の頃ハオ父サンガ校長デ、クラスメートニ対スル3年間ノイジメヲ、モミ消シテクレタノデ充実シタ中学校生活ヲ送ッテイマシタ。

 今デモ「船城市立船城中学校」ノ校長ヲヤッテル、パパの真田加まだか校長ニ聞ケバ教エテクレルンジャナインデショウカ?』


 フクシュウ狂ヒの置き土産が残されていた。さすがにどの机が瀬史琉せしるの物かは分からなかったのか、1年2組の生徒の机には全部入っていた。




「!? な、何だこれ!?」


 それを見た瀬史琉せしるの背筋に、氷柱つららでも突っ込まれたかのような「ゾワッ!」とする寒気が襲う。

 転校前の頃からどのクラスに入るかが分からないと、こんな事をするなんて普通に考えたら不可能だ。なぜ分かるんだ?

 意味不明の連続で頭の中は瞬時に巨大かつ大量のハテナマークで埋め尽くされていた。




 そんな瀬史琉せしるに、とある男子生徒が声をかける。このクラスのカースト1軍に属する生徒だ。

 いかにもケンカが強そうな面構えと体格だったがその表情は険しく、明らかに敵意が宿っていた。


「オイ。テメェは事件を起こして前の高校を追い出されたそうだが、ここではそうはいかないからな。言っておくが、オレの仲間に手を出すんじゃねえぞ。覚悟しとけよ」

「君たちとはやりあいたくないさ。平和的に行こうと思ってる」

「フン。前科持ちがそう言っても信じようがねえな。まぁいい、化けの皮が剥がれたら容赦しねえからな。忘れるなよ」


 キーンコーンカーンコーン。


 そこまで会話して、1時限目の授業開始を告げるチャイムが鳴った。

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