第25話 特定しました

 とあるSNSでその話がされていた。




[久多良木くたらぎさん、その後どうなりました? 確か健二けんじ君が言ってた「先生がイジメを隠してた」って話だけど……]

≪特定できた。健二けんじ君は7月21日に行われた地元の祭りで事件が起きた。って言ってたし、あとは彼やその同級生だと思うアカウントが言ってた中間テストや期末テストの時期に関する書き込みからどこかは分かった。

「茨城県の船城市立船城中学校」で決まりだな≫

[特定お疲れ様ー。いやー、分かるものなんですねぇ]




 校長と担任の穂炊木ほだき先生に、調べたことを完膚かんぷなきまでに否定された健二けんじの相互フォロワーである久多良木くたらぎ

 名推理……なのかどうかは分からないが、仕事上鍛え上げられた推理力を披露ひろうしていた。




≪まぁな。調べるにはいろいろコツがあるけど飯の種だから詳しい話をさせるのは勘弁してくれ。探偵やってりゃこれくらいのことは自然と出来るようにはなるさ≫

[見事な推理力ですね。さすが名探偵久多良木くたらぎ]

≪おいおいよせよ。俺みたいな奴は持ち上げたって何も出ないぜ?≫


「和気あいあい」とでも言うべき雰囲気で話が盛り上がるが、そこへログインするや「大炎上」したと思って話のきっかけをしゃべった健二けんじが突っ込んで来る。




『ちょっと! 久多良木くたらぎさん! 何で俺の学校知ってるんですか!? 内緒にしてくれってあれほど言ったじゃないですか!!』

≪やぁ健二けんじ君か、悪い悪い。どうしても気になったんで自力で調べてみたんだ。その反応からして「当たり」だろうな≫

[久多良木くたらぎさんは探偵だそうで名探偵らしく見事な推理を披露してくれましたよ。いやぁ鮮やかだったなぁ、見せてやりたかったよ]

『ええ!? 久多良木くたらぎさんって探偵やってるんですか!?』


 WEB上では「面白い事を言う人」程度にしか思って無かったので気軽にフォローした久多良木くたらぎさんが本物の探偵だったとは思わなかった。




≪まぁな。名探偵かどうかは分からないけど一応は本物の探偵をやってる。悪かったよ勝手に調べて。昔から興味が出たらトコトン追求しちまうタイプなんだ。

 あそこまで話を振られて内緒にしてくださいって言われても気分が悪くなるだけでさぁ……≫

『そりゃ「調べたければお好きにどうぞ」とは言ったけど本当に特定できるとは思わなかったよ……』


「そんなに調べたければ勝手にどうぞ」と確かに言ったのもあってか本当に調べてしまうとは思わず、強い口調で責める事は出来なかった。

 話は健二けんじに関するものへと変わっていく。




[ところで健二けんじ君。校長と担任相手にやりあった事を証言する気にはなれないかい?]

『ごめん、それは無理。ネットでこんな事言うのも本当はいけない事だから』

[えー? ここまでバレてるんだろ? 今更隠したって意味無いだろ?]


 健二けんじは一応は兄から「男と男の約束」をした以上、建前ではあったが安易にばらすことは出来なかった。




『悪い。絶対にばらしちゃいけないものだから、約束を破るつもりはないよ』

≪悪かったよ健二けんじ君。さすがに無理強いさせるのは辞めた方が良いぜ。

「親しき仲にも礼儀あり」って奴だろ? さすがに本人が嫌がってる事を無理やりやらすのは良くない。そりゃあ俺だって証言して欲しいって気持ちは分かるよ?

 でも仲のためには最低限のラインは守らなきゃ。良いだろ?≫

[うーん……久多良木くたらぎさんがそう言うのならそうしますけど。悪かったよ晒せとゴリ押しして]


 出来れば晒して欲しい。と思った校長と担任教師とのやりとりだが、その場ではすぐには晒すことは無かった。が……。




『ところで久多良木くたらぎさん、俺の学校を特定した話はどこまで広まってますか?』

≪んー……もう8万いいねがついてるね。それも現在進行形で増え続けてる。こりゃ10万は行くぞ≫

『!? 8万!? バズってるとかいう次元じゃないですよそれは!!』


 既に事態は火消しできないレベルにまで膨れ上がっていた……うかつに消そうとしても「消すと増えます」という奴で、大炎上も良い所だ。




≪既に学校名もバレてるから電凸でんとつも増えそうだなぁ。後は健二けんじ君、キミみたいに独自に調べて、いじめをもみ消したことを知る人もいそうだなぁ。俺にも責任あるかもしれないけど、大抵はいじめを黙認して闇に葬った校長や教師が悪い、って事になりそうだな≫


 船城市立船城中学校の教師によるいじめ黙認の件は既に「ルビコン川を渡った」案件になっていた。もう引き返せない所まで行っている。




『そ、その……久多良木くたらぎさん』

≪何だい?≫

『証言、しても良いですよ。もうここまで来ちゃったんですから隠しようが無いですし……』

≪本当にいいのか? 君の兄さんとの約束を破る事にもなるし、君にも何かしらの被害が来るかもしれないんだぞ? 安易に場の雰囲気で流すのは絶対に辞めた方が良い。

 それで人生を棒に振るうレベルの大失敗をした人を俺は何十人も見てきたからな≫

『いえ、場の雰囲気とかそんなんじゃなくて、俺自身が公開してもいい! って思ってるんです』

≪……わかった。勇気ある決断だな、俺はお前を誇りに思うぞ≫

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