第23話 少年審判
8月が始まったばかりの頃……
ヴヴー……
何十年も昔に出来た集合団地でも今時珍しいブザータイプの呼び鈴が鳴る。
高齢化で出て行く人ばかりだった団地に最近越してきた彼は朝早くから起こされ、あくびをしながら玄関を開ける。外には刑事が2名いた。
「お早う、警察だ。キミに逮捕状が出ている。これに基づいて今からキミを逮捕するけど、良いかね? 心当たりがない、なんて言うのは辞めてくれよな」
「ベツニ構イマセンヨ」
フクシュウ狂ヒは素直に従い、警察署まで連行された。
「……というわけだ。7月21日の
警察がかき集めてきた証拠、その全てがフクシュウ狂ヒの犯行を裏付けるものであった。やはり日本警察の捜査力は群を抜いている……刑事ドラマが廃れない理由だろう。
「……ココマデ調ベラレタラ『グウノ音』モ出マセンネ。ソウデス、ワタシガヤリマシタ」
「よし、認めたな。じゃあ次は裁判所だな」
加害者はあっさりと自分の罪を認めたため、数日後には家庭裁判所による裁判が開始される予定が立った。
警察側も「今回の事件は加害者側が随分とあっさり認めたなぁ」というスピード案件だった。
「
「正直に言いましょう。今回の裁判は『不処分決定』か、量刑が重くても保護観察程度で済むと思います。多分『不処分決定』で済む可能性が今の所は高いですね」
不処分決定は少年犯罪で下される処分の一つで、普通の裁判で言ったら「執行猶予処分」が一番近い処分だ。
未成年が犯罪行為を行った場合の裁判は、いわゆる裁判と聞いて一般人がイメージするような「法廷を舞台に原告側と被告側の舌戦」にはならない。
「少年審判」とも呼べるそれは基本的に罪を犯した本人とその家族、弁護士が出廷して裁判官から判決を下される事になる。
少年審判の被害者は裁判官に意見陳述が出来るし法廷にも出られるが、大抵は事前に裁判官に話をしておく程度。
今回の裁判において最重要な件は、いじめを受けていた
とても高度かつ複雑な内容なので弁護士の値段が高いのも納得がいく。現に
数日が経ち、裁判の日を迎えた。
本来なら両親や保護者が出席する所だが、フクシュウ狂ヒしかいない。裁判所側には事情が伝わっているのか、それを特に気にせず裁判は進む。
裁判官から罪状について聞かれ、弁護士による弁護が始まった
「……以上の事から今回の件では彼に責任能力はあるものの、
私としては、不処分決定が妥当かと思われます」
弁護士は裁判長に「
被害者側にも一定の責任はあるので減刑をお願いしたい」としっかり説明した。
そして……判決が下される。
「今回は本人に反省の意図がある事、加えて被害者側にも今回の事件で落ち度がないとは言い切れない事。以上を踏まえて今回は不処分が妥当である」
審判が下された。今回の裁判官は弁護士の主張を全面的に受け入れてくれて、不処分決定を下してくれた。
「……で、
「裁判は不処分決定となりました」
実の娘が被害に遭っているのだから話を聞きたい気持ちはよく分かる。しかし彼女にとってそこは重要では無かった。
重要なのはその後……弁護士が彼女に渡したモノだった。
「それと……これを」
そう言って彼は「
「……!! いじめ、ですって!?」
「ええそうです。
話によるとあなたの娘さんである
しかも担任教師が3年間
「……あの子ってば! それにあの人も!! 私に秘密でこんな事をやってただなんて!!」
彼女がその凄惨を極める内容に大きく目を見開いていた……裏切られた!! 愛する娘と夫が自分に見えない所でこんな酷い事をしているだなんて!!
それまで経験したことが無い程の酷い
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