第21話 仲直り料ちょうだい

「事件の続報です。市立船城高校は昨日、クラスメートをナイフで刺した生徒に対し退学処分を出したと発表しました」


 朝のTV、それも地元のケーブルテレビによるローカルなニュースを放送する番組に市立船城高校の事件の続報が報道されていた。


(ソウカソウカ瀬史琉せしるハ退学シタノカ。コレハ一声カケナイトナ)


 それを見た彼はかつて瀬史琉せしるのスマホを持ち帰った際に調べた彼のスマホの電話番号を入力して、通話をかけた。




♪♪~♪




 瀬史琉せしるのスマホに着信が入る。電話帳に登録された番号ではない。誰だ? 怪しく思うが彼は電話に出た。


「誰だ!?」

「ヤァヤァ瀬史琉せしる君。会イタカッタヨ。ニュース見タゾ? 退学処分ニナッタソウジャナイカ?

 人ノ事刺シテオイテ『これは正当防衛だ』ナンテ言ウノハオ前シカイナイダロ?」


 まるで他人事のような発言をかます元クラスメートに、キレた。




黒鵜くろうー! テメェ命いらんのか!! ブチ殺すぞ!!」

「オイオイ『ブチ殺す』ダナンテイウ言葉ヲ安易ニ使ウナヨ。相変ワラズ暴力的ダナァ瀬史琉せしる君ト来タラ」

「何が目当てだ? 何が目当てだと聞いてるんだよ!! 答えろ!!」

「何ガ目当テ、ダッテ? ソンナノ『空気ヲ読メバ』スグニ分カル事ジャナイカ。瀬史琉せしる君モ今年デ16歳ニナルンダロ? ソレ位分カラナキャ恥カクゾ?」


 瀬史琉せしるは人間の限界に達する位の怒りに支配されていた。何より通話相手がこちらの事を見透かして余裕の態度を見せるのが許せなかった。


「そうやって余裕かまして会話するんじゃねぇ!! 死にてえのか!! ええっ!?」

「言ッテオクガ昔ミタイニ『仲直り料』ハイラナイシ、マシテヤ渡スツモリモ無イカラナ」

「……大愛だいあから聞いたアレか。まだ覚えてるんだな」




◇◇◇




 話は中学2年の10月にさかのぼる……。

 放課後の教室、そこには黒鵜くろう大愛だいあ穂炊木ほだき先生の3人の姿があった。夕日が3人を照らし、長い影を作っていた。


黒鵜くろう大愛だいあ、2人とも2度といじめをしないと誓ったんだ。仲直りの握手だ」


 2人は先生に言われるがまま、仲直りの握手をした……その直後だ。


「じゃあ黒鵜くろう、仲直り料として1万円ちょうだい」


 ……仲直り料? 笑顔でそんな事を言う大愛だいあに全くついていけなかった。




「何だよその仲直り料って」

「だから仲直り料よ。仲直りするためのお金だよ。知らないの?」

「結局俺がカネ払うんだろ!? 普段のカツアゲと何が違うっていうんだ!?」

「オイ黒鵜くろう!! 貴様ッ!!」


「カツアゲ」という言葉を聞いて担任教師の穂炊木ほだき黒鵜くろうを殴った。




大愛だいあが日常的にカツアゲしてるとでも言いたいのか!? そんなありもしない罪のなすり付けなど許さんぞ!!」


 とんでもない大ウソである。先生は自分の娘が日常的にカツアゲしているのを知っていた。そして彼女のためにそれを日夜隠蔽いんぺいし続けていたのだ。




「そうよ、それに私は黒鵜くろう君をカツアゲしたことなんて産まれて1回も無いんだからね!

 ただ黒鵜くろう君が『お金が余っているからあげる』って言うからもらっただけで、奪ったことなんて無いんだからね!」

「それこそありもしないことだろうが! スタンガンで痛めつけてるくせに何を言ってるんだ!」


 それを聞いた穂炊木ほだき先生が再び黒鵜くろうを殴った。




「いつの話だ!? 何年何月何日何時間何分何秒地球が何回回った時に言ったんだ!? 答えられないのならお前が大愛だいあをハメようとしているとしか思えんぞ!

 もちろん証拠は残ってるよな!? 証拠も無いのに大愛だいあを犯罪者扱いするだなんて名誉棄損だぞ! 訴えてやるからな!」


 穂炊木ほだき先生の妻、つまりは大愛だいあの母親は弁護士をやっていた。それを脅し文句にして本気で訴えるつもりだった。




「俺が悪いってのか!? 俺がお前らの言う事に従わないから間違っている、って言いたいのか!?」

「あら、ようやく分かったのね黒鵜くろう。そうよ、アンタがわがまま言うから私だけじゃなくてクラスメート全員が迷惑しているのよ」

「その通りだ! お前が大愛だいあや俺の言う事を聞かないから問題が起きるんだ! 全ての原因はお前にあるんだぞ黒鵜くろう!」

「テメェら!」


 黒鵜くろう大愛だいあを殴ろうとしたら「正当防衛で」穂炊木ほだき先生が殴り、大愛だいあがスタンガンを使った。




 いじめは楽しい。圧倒的に、のめり込めるほどに、夢中になれる。それこそ遠足前日の夜の「早く明日が来ないかな」というワクワクが永遠に続く位に、楽しい事だ。

 その「楽しい」いじめを妨害されるのは、3時のおやつを奪われること位に悪い事なのである。

 だから「自分がされたら嫌な事はしないように」と言っても「そんなのどうでもよくなる位に楽しいいじめをやめるだなんて馬鹿げてる」と思ってる。

 なのでいじめは止めようがない。


◇◇◇




黒鵜くろう、俺達の高校生活をムチャクチャにした代償は払ってもらうぞ」

「オイオイ、俺ハ大切ナ友達ノ高校生活ヲ壊スタメニ動イテイルンジャナイゾ? タダ、アリノママノ真実ヲ伝エテルダケデ害ヲ与エルコトハシテナイサ」

「テメェ、レイプ魔の子供のくせに舐めた事言ってんじゃねえぞ。レイプ魔の子供だなんて生きてるだけで周りに迷惑かけるだけのカスなんだからな」

「ウンウン、オ前ノ友達ヲヤルノハ命ガケダヨナ」

「もういい。次あったらガチで殺す」


ブツリ。ツー、ツー、ツー……


 通話が切れた。

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