第20話 瀬史琉(せしる)、退学
ひと段落が付いた時には既に季節は7月となっていた。これからやってくる夏休みが楽しみな生徒達だが、
まずは被害者に向けて謝罪だ。傷が完治した被害者とその両親が待っている生徒指導室に向かい、刺した相手への謝罪を行う。
「この度は、本当に申し訳ない事をしました。ごめんなさい」
刃物を持ち出すという「謝れば済む事」ではなかったが、それでも被害者側にもある程度の落ち度があった事、
それに加害者側が深々と頭を下げて謝罪してくるのなら受け取らなくてはいけない。
謝罪の場では、加害者側にもある程度の
「よお」
被害者側がトイレに行くと、
「いやぁ済まないねぇキッチリとトドメをさせなくて。苦しまなくていいように殺すつもりだったのに慣れてなかったから急所を外しちまったよ。悪かったな」
『キッチリとトドメをさせなくてごめんなさい』というセリフが飛び出した。
「ま、
「だから「殺しきれなくてごめんなさい」って言ったんだよ。
お前『少年法』って知ってるか? 未成年は人を殺しても『若者の健やかな成長を阻害しないように』って許されるんだぜ? テメェが死のうがオレは痛くもかゆくも無いんだぞ?」
続くセリフは先ほどの『キッチリとトドメをさせなくてごめんなさい』という発言が
「ま、
「もちろん!! オレとしては苦しまないように心臓を刺して死なせたかったけど慣れてなくてついうっかり腹を刺しちまった。って言いたいわけで……」
「!!!!!」
……狂ってる。
翌日の午前10時。
部屋の主がとある書類を持っており、彼は問題児にそれを見せてくれた。
「!? これ、退学届じゃないですか!?」
「書け。今すぐこの場で書いて俺に渡せ!」
「オレはやられた分を返しただけですよ!? 正当防衛ですよこれは」
「刃傷ザタを起こしておいて正当防衛もクソもあってたまるか!! 普段から学校では暴力事件を起こすし、何よりそれで反省している様子も全くない!
その上で今回の刃傷事件を起こす! もう我々としてはこれ以上お前の面倒を見ることは出来ないんだよ!!」
「先生! 先に仕掛けてきたのはあいつらであって、オレは被害者なんですよ!? やられたからやり返しただけなんですよ!?」
「じゃあこれは何だ?」
校長はボイスレコーダーを取り出し、再生させる。
『だから「殺しきれなくてごめんなさい」って言ったんだよ。
お前『少年法』って知ってるか? 未成年は人を殺しても『若者の健やかな成長を阻害しないように』って許されるんだぜ? テメェが死のうがオレは痛くもかゆくも無いんだぞ?』
『ま、
『もちろん!! オレとしては苦しまないように心臓を刺して死なせたかったけど慣れてなくてついうっかり腹を刺しちまった。って言いたいわけで……』
そこには、中学生時代の
「あの野郎! 録音してやがったのか!」
「人を刺しておいてこんなセリフを吐く奴がいるか!! お前は親からどういうしつけをされて育ったんだ!? ええ!?
お前の意見だなんて聞く価値も無いし、聞きたくもない!! さっさと書け! 書いてこの学校から出て行け! お前の顔なんて2度と見たくない!!」
「い、いや! でも……」
「警察の厄介になるやつに「でも」も「クソ」もあってたまるか!! さっさと書け! 書けと言ったら書け! いいから書くんだ!」
校長はカンカンに沸騰していた。
あの事件以降、校長もまた警察からあれこれ言われて各方面に頭を下げて謝罪し続ける羽目になったのだが、その恨みつらみを、全ての元凶である青年にぶつけていた。
結局
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます