第16話 復讐心は幸運さえも引き寄せる
「……」
フクシュウ狂ヒは珍しく悩んでいた。施設で母親代わりをしている先生は「
自分をここまで育ててくれた恩や感謝の念は大いにあるし、彼女を巻き込んだ闘争にはしたくない。しかしこのままでは本当に施設を追い出されてしまうだろう。
普段からウソを何よりも嫌っていて、正直者でいつづける先生の事だ……「やる」と言ったら「やる」タイプだ。
どうやら先生は本気で
恐らく彼女は自分よりも2人の事が好きなのだろう……こうなると何言っても無駄だ。怪しい宗教に「ガッチリ」とハマった信者と同じで、強固な洗脳を施されているレベルだ。
「……」
サイフにおよそ3千円程の金を入れて、フクシュウ狂ヒはあてもなく町中をさ迷っていた。
どうしたものか……たまに先生と一緒に食料や日用品の買い出しをしているスーパーの一角で、それを見た。宝くじ売り場である。
招き猫やら、売り場から出た大当たり情報で何とか目立とうとしているが、普段だったら視界には入っても注視して見ようともしないその場所。
だがその日に限って言えば「売り場からオーラが出ていた」とでも言えばいいのだろうか……「ココへ来い」という「とてつもなく強い圧」を放っていた。
強烈な磁石に引き寄せられるかのようにフラフラと宝くじ売り場に吸い寄せられ、その場のノリで2000円を払い、スクラッチくじを10枚買ってしまった。
普段だったらまず買わないし、そもそも近寄ろうともしない。それなのにその日は何故か、不思議とくじを買ってしまったのだ。
右手に10円玉を持ち、左手でスクラッチくじを押さえ、削り始めた……3枚目、6枚目、8枚目、削っていくが全部ハズレだった。
そして9枚目。指示に従って削っていくと……何かがおかしい。見た感じ、ハズレではなさそうだ。
疑問に思って売り場の人に見せると……明らかに動揺していた。
「こ、これは……!」
売り場の人は目をこれ以上は出来ない位に大きく目を見開いて、宣言する。
「おめでとうございます! 一等1000万円、大当たりでーす!」
「!? ナニィ!?」
1000万円の大当たり。フクシュウ狂ヒは奇跡のような確立を引き当てたのだ。
「シカシ……1000万トナルト『はいどうぞ』トハ出セナイダロ?」
「ええ。銀行口座に振り込む形になると思いますので詳しい話は銀行と話をしてください」
「ワ、ワカリマシタ」
後日、フクシュウ狂ヒは失敬したマイナンバーカードと100円ショップで買った印鑑を持って銀行へと向かい、賞金1000万円を受け取った。
通帳を見てその数字に満足した彼はその夕方、意を決して先生と話をした。
「先生、
「そ、そう。
「イイエ、ソレハ止メマセン」
嫌がらせは止めない。その言葉に彼を育てた先生は一気に表情を曇らせる。
「バカなこと言わないで。言ったよね? 嫌がらせを止めないのなら出て行きなさいって。そんなの嫌でしょ?」
「全然嫌デハアリマセンネ。ソンナニ言ウノナラ、リクエスト通リ出テ行キマスヨ」
「なっ……!
「エエソウデス。コノ施設カラ出テ行キマス。止メヨウトシテモ無駄デスヨ?」
「施設を出て行け」という脅しは、全く効いていなかった。彼は本気で出て行く決意をしていた。
「
「先生、アナタガ言ッタンデショ? 『続けるのならこの施設から出て行きなさい』ッテ。 俺ハ続ケルカラ出テ行ク。タダソレダケノ事デスヨ」
「
「コノ際ダカラ言ッテオク! 間違ッテイルノハ先生、アナタダ! 優等生気取リノ2人ニ騙サレテイルンダヨ!」
「ああそうですか! そんなにもあの子たちを責めるつもりなのね! 分かりました! そんなに出て行きたいのなら出て行きなさい! もう知りません!」
結局、
正直、ここまで育ててくれた先生に恩を仇で返すようで、実に気が滅入る事であった。表情は暗くなり、胸の痛い思いもする。
いつでも自分の味方をしてくれると思っていたのに、実際には「倒すべき敵」とまでは行かないが「敵の味方」となり果てていたのはショックだった。
それでも、あの「邪知暴君2名」を懲らしめるのを止めるつもりは一切無かった。結局こういう形で出て行くしか無いだろうとは予測していた。
寂しい気持ちはあったが、こうするしかなかったのだ。
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