第14話 狩る側から、狩られる側へ

「お早う」

「……」


 ゴールデンウィークが明けた市立船城高校の教室。1週間の停学が終わった瀬史琉せしるがあいさつするが、誰も返事をしない。室内にいる者たちは意図的に視線をそらし、無視をする。

 彼はその行為に腹が立つ一方だったがそれを隠して、クラスメートの中でも比較的仲の良い花音かのんに話しかけた。




花音かのん、お早う」

「……」


 彼女もまた瀬史琉せしるのあいさつを無視する。しびれを切らした彼は彼女の腕をつかんで問いかける。


花音かのん! あいさつ位してくれよ!」

瀬史琉せしる君、ごめん。もう私に話しかけてこないで……私、瀬史琉せしる君の事嫌いになっちゃったし、いじめのターゲットにもされたくないから。

 こうやって瀬史琉せしる君と仲良さそうに話してるだけでも、巻き込まれると思うから絶対に関わらないで」

「!? いじめだと!?」


 いじめだと……? オレと仲良くしたらいじめられる、だと?




花音かのん! 瀬史琉せしるがいじめのターゲットってどういう事!?」


 瀬史琉せしるより少しだけ遅れて教室へとやって来た大愛だいあが、花音かのんの「いじめのターゲットにされたくないから無視しなくてはいけない」

 という意味のセリフに食いついてくる。


「言葉通りよ。私、平凡な高校生活を送りたいから、いじめに巻き込まれるだなんて絶対嫌。

 だからこれ以上私に関わらないで。瀬史琉せしる君だけじゃなくて、大愛だいあちゃんも同じだからね。2人とも絶対に私に話しかけてこないでね」

花音かのん! それってどういう事……」



キーンコーンカーンコーン……



 大愛だいあが詰め寄ろうとした瞬間、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴った。


「席に着け。ホームルームを始めるぞ」


 先生が教壇に立ち、ホームルームが始まった。

 ゴールデンウィークが明けた市立船城高校、この日から瀬史琉せしる大愛だいあの受難の日々が始まった。




「……」


 授業中、瀬史琉せしるの席の1つ後ろにいる生徒がシャープペンの先端で彼の背中をつついていた。

 最初こそ我慢していたが「瞬間湯沸かし器」と言える程沸点が低い彼の事だ。すぐにキレた。


「テメェ! いい加減にしろ!」

「おい! 真田加まだか! 何をやってるんだ!?」


 瀬史琉せしるの怒号を聞いて教師が授業を中断し、彼らの元へと寄ってくる。




「何があったんだ!?」

「先生! コイツがオレの背中をシャープペンでつついてくるから怒っただけですよ。俺は悪くないです」


 瀬史琉せしるはあくまで後ろの席の生徒が先にちょっかいを出してきたと話すが……。


真田加まだかはそう言っているらしいが、本当の所はどうなんだ?」

「えー? 俺そんな事やってないですよ。真面目に授業受けてたのにいきなり真田加まだかの奴がキレて……」


 相手はウソをつく。しかしウソである事を証明できるものは何一つ無い。




「クラスメートの連中が総出でオレの事をいじめてるんですよ! これはもう犯罪行為ですって!」

「証拠はあるのか?」

「だからホントにコイツがオレの背中をシャープペンでつついてきたんですよ!」


 瀬史琉せしるはあくまで自分が被害を受けたと訴えるが……。


「俺はそんなこと絶対にやってないですよ! 誓ってでも言える。だったら周りのみんなに聞いてくださいよ! もし俺が本当にやってるのなら誰か見てるはずでしょ!?」


 ウソつきが周りの人間に証人になってくれと言い出す。すると……。




「そんなことやってませんよ」

「見てないです。もしやってたらすぐバレますって」


 彼らはウソつきに同調する。


「テメェら……」

真田加まだか。お前1週間の停学が終わったばかりだろ? また暴力沙汰を起こしたらそれこそ留年や退学だってあるんだぞ?

 3年間無事に過ごしたければこれ以上事件を起こさないでくれよな」

「……」




 前回の停学以降、瀬史琉せしるは学校側の人間からすれば「厳重注意の問題児」という不名誉な称号が与えられていた。

 その「色メガネ」をかけた状態で校内で起こった事を見られるのだから、当然彼が不利に映る。

 高校では校長という親の保護が無い場所だ。中学時代に「ツケ払いしていたモノ」を「利子がタップリと乗った状態で」返す時が来ていた。

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