第11話 学校ぐるみのいじめ隠蔽

キーンコーンカーンコーン……


 穂炊木ほだき先生への誹謗中傷が書かれたチラシがクラス内に配られた日の夕方。

 市立船城中学校は帰りのホームルームを終えて生徒たちが自宅へと帰る、あるいは部活動を始める時間となった。




 1年A組の生徒である健二けんじは気づいていた。

 穂炊木ほだき先生は何かを「わざと」隠している……あのチラシを見た瞬間、彼は明らかにうろたえていたし目も泳いでいた。

 何か自分たち生徒には絶対に言えそうにない訳があるようだった。

 そう言えば3月に中学を卒業した3つ上の兄の担任も3年間ずっと穂炊木ほだき先生だった。ひょっとしたら、何か聞けるかもしれない。




 健二けんじも兄も特に部活を行っているわけでは無いので、午後4時になる頃には2人とも自宅へと帰って来た。帰って来て荷物を整理すると彼は兄の部屋へとやって来た。


「兄さん、中学生だった頃の話を聞きたいんだけど、いいかな? 穂炊木ほだき先生がクラスメートのいじめに加担していたって話を聞いたんだけど。

 確か兄さんも中学の3年間は穂炊木ほだき先生が担任だったんだよね? その辺聞かせてよ」

「……」


 弟からの願い出に、兄は表情を曇らせ固まる。


健二けんじ。これから俺の言う事は絶対に秘密にする、誰にも言わない。と誓えるか?」

「? 兄さん? どうしたんだよ急に?」

「男と男の約束だ。守り通せるか? って聞いてるんだよ。まずは守れるか守れないかを聞きたい」

「わ、分かったよ……誰にも言わない約束だよ。守るよ」


 弟、健二けんじの言う事を聞いた兄は重い口を開いた。




穂炊木ほだき先生は、俺が中学にいた3年間、自分の娘がやったいじめをずっともみ消し続けていたんだ」

「!! 何だって!? あ、いや。続けてくれ」


 兄は話を続ける。


「俺の居たクラスでは『真田加まだか 瀬史琉せしる』っていう真田加まだか校長の息子と、

穂炊木ほだき 大愛だいあ』っていう穂炊木ほだき先生の娘が中心になって、クラスメートを散々いじめ続けていたんだ。

 相手は「母親が14歳の時に強姦されて産まれた子供」っていう出目で散々いびられ続けていたんだよ」

「……何で黙ってたんだよ兄さん!」




 正義感の強い弟、健二けんじは兄を責めるような口調で強い言葉をぶつける。


「……怖かったんだ。下手に助けたら俺までいじめられるかもしれない。って思ったら、怖くて動けなかったんだ。

 ただでさえ相手は親や教師受けがいい上に親が校長や担任なんだぜ? いじめの証拠は全部握りつぶされて勝ち目がなくて、ただ見ているだけしかできなかったんだ。

 だからだよ。だから誰にも打ち明けることなく胸の中にしまい続けていたんだ。俺も共犯なんだよ……健二けんじ、弟であるお前だからこそ言える事なんだ」

「……」


 弟は黙ったままだ。兄はさらに話を続ける。




「結局そいつは3年の3学期になると学校にはほとんど来なくなったよ。

 精神を病んで自殺未遂をやったそうだけど、それすらネタにしていじめられていたんだ。誰だって精神がやられるよ。

 何せ給食の時間に全裸にしてシチューを身体にかけて遊んだり、12月の寒さの中で4階の廊下を歩かされたりして、酷いもんだったよ。俺がいじめを黙認するなんて幻滅しただろ?」

「……酷い話だ。兄さんもいじめをやった奴もみんなそうだ」


 健二けんじはしばらく黙った後、うつむきながら吐き出すように言葉を紡いだ。

 兄といじめの中心人物、そしていじめっ子の親たちに対する侮辱だ。




「そう思われても仕方ないな。俺だって本当は助けたかったけど、そうしたら俺もいじめられるかもしれないって思って怖くて動けなかったんだ。

 何せ相手のバックには校長や担任教師がいたから誰も逆らえなかったんだ」

「……もういい。聞きたいことは全部聞いたよ。ありがとう」


 健二けんじは形式ばった「ありがとう」で話をさえぎって終わらせた。




『うちの学校、少なくても去年からいじめがあったらしい。いじめっ子の親が校長やクラス担任で、全部もみ消していたらしい。酷い話だ』


 健二けんじは中学の進学祝いで買ってもらったスマホでSNSをしていた。内容は兄から聞いた学校で起きたいじめの話。

 この何気ない一言が真田加まだか校長と穂炊木ほだき先生を追い込むことになるのだが、この時の彼は全く気づいていなかった。

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