第6話 瀬史琉(せしる)のスマホ

 4月中旬の日曜日。原宿にあるカフェの1つで、真田加まだか 瀬史琉せしるは飲み物の画像を撮っていたところ、偶然、高見たかみ 黒鵜くろうと再会する。


「オイ、何の用だ?」


 いじっていたスマホをテーブルに置き、汚物まみれのブタを見るような目線とマフィアのようなドスを利かせた声で瀬史琉せしるはかつてのクラスメートに突っかかる。

 それらは彼の端正な顔立ちからは到底考えられないような、どぎつい物だった。




「特ニ用ナンテ無イノダガ?」

「不愉快なんだよテメェの存在自体が。失せろ。オレの視界に入ってくるんじゃねぇ。消えろよ」


(ねぇ、彼もしかして瀬史琉せしる君じゃない? 声かけてみようか)


 ちょうどそのころ、瀬史琉せしるを見かけた彼の通う高校のクラスメートが彼に声をかけた。


瀬史琉せしるくーん!」

「あ、花音かのん!」


 友人、それも中学の頃は見なかった同級生を見ると芸歴30年以上の名俳優が「役に乗り移った」のを思わせるような変わりぶりを見せる。席を立って女友達の元へと駆けて行った。




「……」


 フクシュウ狂ヒはついさっきまで瀬史琉せしるが座っていたテーブルを見る……視線の先にあったのはついさっきまで彼がいじっていた置き忘れのスマホ。

 おそらく高校生になってから出来た女友達との偶然の再会で、ついうっかり頭からすっぽ抜けたのだろう。

 スマホは一般人が普段持ち歩いている物の中では他の物とは比較にならないほど個人情報がみっしりと詰まっている。

 これを使わない手などありえない! フクシュウ狂ヒは何のためらいもなくそれに手を伸ばし、家に持ち帰った。




 翌日の高校にて……




「お早う、花音かのん


 瀬史琉せしるは高校に通うようになってからできた友人である花音かのんに声をかけるが、相手の顔は重い。


「ねぇ瀬史琉せしる君、これ何?」


 花音かのんは引きつった顔をしながら自分のスマホを見せる。とあるSNSの画面が映っていた。




「私、真田加まだか 瀬史琉せしる穂炊木ほだき 大愛だいあハ、中学生ノ頃イジメヲシテイマシタ。

 クラスメートヲ裸ニシテ給食ノシチューヲブッカケテアソンダリ、首輪ヲツケテ校内ヲ散歩サセテイマシタ。

 私ノ父親ハ通ッテタ中学ノ校長デ、大愛だいあノ父親ハ中学クラスノ担任ダッタノデ隠ペイハカンペキダッタノデ、バレル事ハアリマセンデシタ。

 弱イ奴ヲイジメルノガ大好キナダニデス。人様ノ人生ヲネジ曲ゲルノガ楽シクテタマリマセン」


 フォローしている友達全員に同じメッセージが送信されていた。


瀬史琉せしる君、一体どういう事? いじめをしてたって何? 私、瀬史琉せしる君がそんなことするとは思ってなかったよ。

 せっかく良い友達になれると思ってたのに……なんていうか、裏切られたって感じする。もう話しかけないでね。フォロー外したから」




 その日の夕方、瀬史琉せしる黒鵜くろうが住んでいる施設に突撃してきた。

 瀬史琉せしるは自室にいた黒鵜くろうの姿を見るなりいきなり髪の毛をつかんで脅しを入れた。


「オイ黒鵜くろう! オレのスマホはどうした!? テメェだろあの時持ってったのは!?」

「アア、アレカ? 返シテヤルヨ。モウ用済ミダカラナ」


 フクシュウ狂ヒが昨日拾った彼のスマホを差し出すと、奪い取るように彼の手から取った。


「あーあ、気持ちわりぃ。スマホ買いなおすとカネがかかるから我慢してやるけどガチでキモイなお前」

「ウンウン。オ前ノ友達ヲヤルノハ大変ダカラナァ」

「オメェ調子こいてんじゃねえぞ。ここで仕置きは辞めとくが今度は許さねえからな」


 瀬史琉せしるは自分のスマホを取り返すと中学時代のクラスメートの部屋から出て行った。




(ククク……明日アイツガドンナ顔ヲスルノカ。考エタダケデモユカイダナ)


 フクシュウ狂ヒがスリープ状態にしていたパソコンを開くと、全裸の大愛だいあの画像があった。

 瀬史琉せしるのスマホに刺さっていたマイクロSDカードの中から見つけたものだった。


(サーテ、ショータイムノ幕開ケダ)


 ニンマリとした「いびつな」笑顔で彼は笑っていた。これからあの2人にどんなことが起きるのか? それを想像するだけでも心がおどり、最高にワクワクできた。

 それこそ小学生の遠足前日の夜に「早く明日が来ないかなぁ?」と眠れなくなる位の「はち切れそうなほどのワクワク」が出来た。

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