第3話 トドメの一撃

黒鵜くろう、2000円貸してくれる?」

「貸してくれ、だと? 返さないんだから『くれ』って言ってるようなものじゃないか? カツアゲかよ」

「ちょっと! バカな事言わないでよ! 友達からカツアゲだなんて出来るわけないじゃない! ただ「御初穂料おはつほりょうをお納めください」って言っただけだよ」

「結局カツアゲじゃないか!」


 黒鵜くろうがそこまで言うと、大愛だいあはスタンガンを「友達」相手に使った。




「あがががががががっ!」

「テメェ、オレを友達からカツアゲする奴、なんていう犯罪者にしたいの? 御初穂料おはつほりょうよこせって言ってんのが分かんないの?」

「結局やってる事は……」


バチバチバチバチッ!


「あがががががががっ!」


 大愛だいあはスタンガンを使い続けた。


「そんなもん使う相手が友達か!?」

「うるさいわね。アンタが何と言おうとオレが友達だって言えば友達なのよ。その友達がお金で困ってるんだから、もちろん出すよね?」

「勝手な事を……」

「ごちゃごちゃ言わないで。オレ達はクラスメートという友達でしょ? 友達のピンチに手を貸すのは当然の事でしょ? よこしなさい」


 結局大愛だいあ黒鵜くろうがカネを出すまでスタンガンを使い続けた。




「……」


 1月上旬。黒鵜くろうはまるで「糸が切れたあやつり人形のように」ベッドの中から起き上がることができなかった。

 トイレや水飲みでさえ「ありったけの気力体力を振り絞って」やっとできるほどに衰弱しきっていた。


黒鵜くろう君、どうしたの? 学校行かなきゃダメじゃない」

「……学校行ったら殺される」

「? どういう事?」




 黒鵜くろうは施設で自分の世話をしてくれる、事実上の保護者である孤児院の先生にすべてを告げた。

 学校で瀬史琉せしる大愛だいあにどんな仕打ちを受けているのか、それを包み隠さず一切の誇張無しに伝えたのだ。

 今まで自分を育ててきた「お母さん」に相当する人物だから分かってくれる、そう思っていた。

 だが「事実は小説よりも奇なり」と言ったもので、現実は残酷である。


 そう……『現実』は『残酷』である。




黒鵜くろう君、またそうやってウソつくのね!? あの子たちがそんな事するわけないじゃない!」

「ウソ……?」


 意味が分からなかった。お互いに日本語を使っているはずなのに、その言葉の意味を理解することが出来なかった。




「さっき言ったことは全部真実だよ! 俺は……」

友達クラスメートとは仲良くしなきゃダメでしょ? 瀬史琉せしる君や大愛だいあちゃんを、そうやってウソついてまで非難するだなんてダメでしょ?」


 裸にして首輪をつけてスープをぶっかけるような奴が友達だと?

「こいつはレイプ魔の息子です」と拡声器で宣伝しながら廊下をねり歩かせるような奴が友達だと?

 チョーク入りのスープを無理やり食わせる奴が友達だと?

御初穂料おはつほりょう」を納めろと言ってカツアゲする奴が友達だと?




 こ ん な 奴 と 仲 良 く し な い と ダ メ だ と ?




「……俺が悪いっていうのか?」

黒鵜くろう君を責めるつもりは一切ないわよ。

 でも、瀬史琉せしる君や大愛だいあちゃんがそんな酷い事をしているのを想像することなんてとても出来ない。私には信じられない。

 特に瀬史琉せしる君は勉強も運動も出来て、友達にも優しくて、将来は警察官になってみんなの笑顔を守りたい。って言ってる子よ? 悪い子じゃないわ」


 孤児院の先生は「瀬史琉せしる君や大愛だいあちゃん」の味方だった。黒鵜くろうは必死で相手の所業を語るが……。




「先生! 俺はあの2人にいじめられたんだぞ!? それを……」

黒鵜くろう君! いい加減2人を悪く言うのはもうやめて! 瀬史琉せしる君や大愛だいあちゃんがそんな事しているだなんて、想像したくもないし聞きたくもない!!」

「!!!!!」


 事実上の保護者である孤児院の先生からそう言われると、黒鵜くろうは重い足取りで1歩、また1歩、死に近づいていった。 




 人は「強敵からの攻撃」には耐えられる。だが「味方からの攻撃」特に「自分の身を守ってくれる保護者からの攻撃」にはどうしても耐えられない。

 保護者からの不意の一撃は、敵からの攻撃ならかすり傷程度で済む所を、致命傷に変える。100%純白な純粋無垢の発言なら特にそうだ。

「真に恐れるべきは有能な敵ではなく、無能な味方である」という意味の言葉が時代を問わずに残っているほど、普遍ふへん的な話だ。




 そして「結果的に保護者から見捨てられたと感じた、いじめ被害者」は「真の意味での孤立無援」である事に絶望し、自ら命を絶つのが「いじめあるある」だ。

「人の命が失われる」という取り返しのつかない事態になっても「私はあの子にもっと生きていて欲しかったのに」と、

 保護者は『自らが決定打となるトドメの一撃を食らわせた』ことを『本気で理解できずに』残念がるものだ。




 一方でいじめ加害者は「友達が死んで悲しいなぁ」等ときれいごとを吐いたうえで「舌を出す」そして

「オ、オレ様は……オレ様は!! 人を殺した事すらあるんだぜぇ!!!!!」という「激烈」いや「超級怒烈」と言ってもいい『とにかく驚異的なまでの悪の自己肯定感』を手に入れて、

「女にフられたごときでギャーギャー言うな! オレ様はきちんと人を殺した事さえあるんだぞ!」という鋼のメンタルを手に入れて一流大学を出て一流企業に就職し出世コースを猛進する。

 までが「いじめテンプレ」だ。




 その「いじめあるある」や「いじめテンプレ」の例にもれず、黒鵜くろうもまたそうした……飛び込みである。

 孤児院の先生からそう言われた後に施設を出て、近くの幹線道路を走っている大型トラックに向かって身を投げ出したのだ。

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2024年12月1日 17:00
2024年12月2日 17:00
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フクシュウ狂ヒ あがつま ゆい @agatuma-yui

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