第2話 レイプ魔の子供のくせに何言ってんだ

 市立船城中学校の3年C組の給食の時間。教室の真ん中に全裸で座らされている男子生徒がいる。

 彼の首には犬の首輪がはめられ、鎖で彼の机につながれていた。その机は「ぼくはレイプ魔の子供です」「お父さんたすけてー」などとマジックペンで落書きされ、黒く染まっていた。


黒鵜くろう、エサだ。食えよ」


 高身長、今すぐモデルになれるほどの顔や体つき、好成績の学業、野球部のエース、元生徒会所属、というスクールカースト1軍のジョック真田加まだか 瀬史琉せしる」は給食のクリームシチューを全裸のクラスメート「高見たかみ 黒鵜くろう」の身体にかけた。


「熱っ! テメェ辞めろ!」

「おい! せっかくのエサをこぼすんじゃねえよ! 言うこと聞かない悪い子にはお仕置きしねえとなぁ」


 そう言って瀬史琉せしるはその美形の顔を歪ませ、黒鵜くろうの身体を殴り始める。顔や手足を殴るとあざが目立ってしまうので身体を中心に何発も殴った。




「う、うう……」


 弱り切った黒鵜くろうの目の前に今度は瀬史琉せしるの恋人にして学園女王クイーンビーの「穂炊木ほだき 大愛だいあ」が立ち、カビの生えたパンを床に投げ捨てる。

 腐った酸味の強い悪臭と、カビによる腐敗臭という誰もが煙たがる酷い臭いが混ざる、まともな人間なら本能的に、あるいは直感的に避けるものだった。


黒鵜くろう、エサよ。今度は残さずに食べなさい」

「こんなもん食ったら病気になっちまうじゃねえか!」


 彼が逆らうと彼女はその愛らしい顔を歪ませスタンガンを取り出し、彼の身体に電流を流す。


「アガガガガ!!」


 電撃をまともに食らい身動きが取れない黒鵜くろうに対し大愛だいあはブタを見下すような視線を放ちながらドスを利かせた声で言う。


「テメェ、食え。つってんのがわかんねえのかよ」

「……」


 言葉を返す気力もない。それを見た瀬史琉せしるは鎖を机から外し、彼を廊下へと引っ張り出した。


「飯を食わねえのなら今度は散歩だ。来い」




 中学校の3年生が集められたフロアである4階を瀬史琉せしる黒鵜くろうを連れて練り歩く。


「皆さま、休憩中のところお騒がせします。レイプ魔、レイプ魔の息子の散歩タイムとなっております。

 この高見たかみ 黒鵜くろうの父親は5人組で母親を襲って妊娠させた男の1人です。今も行方をくらませて捕まっていません。野放し状態です」


 拡声器で宣伝しながら廊下を歩く。季節は真冬の寒い12月。身体にぶっかけられたシチューは急速に冷え、とろみもあってかまとわりつく冷たい液体となり黒鵜くろうの体温を容赦ようしゃなく奪う。

 歯をガチガチと言わせながら寒い廊下を全裸で四つん這いに歩かされた。冷え切った廊下の寒気は彼の心さえも凍てつかせていった。


「散歩して体力使ったんだ。今度こそ食うよな?」


 散歩が終わった後、瀬史琉せしるがそう言って黒鵜くろうに差し出した床に直置きされたスープにはチョークの粉、あるいは折って混ぜたチョークそのものが混ざっていた。


「食えと言ってるんだ。分からねえのか?」

「……」


 黒鵜くろうがスープを目の前にして黙っていると、瀬史琉せしるは罰を与えた。

 足で黒鵜くろうの頭を踏みつけ、床にぐりぐりと顔をこすりつけた。


「オレの命令が聞けねえのか? 『レイプ魔が父親』のテメェは本来なら登校する資格すらないんだぞ?

 それをオレ達のおもちゃにされる事で特別に許可されてるんだ、感謝しろよ感謝を。お前が足りないのはオレに対する感謝の心だ」


 周りのクラスメートは、全員黙っていた。誰も逆らえない空気がそこにあった。




 高見たかみ 黒鵜くろうの母親は中学2年生の時に5人組のレイプ魔に犯され、妊娠してしまった。

「通報したら撮影したレイプシーンをばらまく」と脅されていたため誰にも相談できず、妊娠が分かった時には中絶出来ない程子供、つまりは黒鵜くろうが成長していた。

 まだ中学校すら卒業していない幼い娘に子育てなんて到底無理だ。と判断されたのか、黒鵜くろうは出産後即座に施設に預けられ、そこで育てられることとなった。


 真田加まだか 瀬史琉せしるはその事情を知っていた。そこを突いて中学からの3年間はずっと彼をいじめ続けていた。

 スクールカースト最底辺の彼は全裸で無理やり歩かされるがそれを止めさせるものは1人もいない。それは教師も校長も同じだった。

 過去にいじめの内容を伝えると、放課後になって校長と教師、黒鵜くろうの3者面談が行われたことがあった。




「お前なんかのために瀬史琉せしる君や大愛だいあの人生をメチャクチャにするつもりなのかお前は!

 レイプ魔の子供なお前なんか死んだって別に何とも思わないんだぞ! 瀬史琉せしる君や大愛だいあの方が大事に決まってるじゃないか!」


 担任がそうブチ切れる。


「お前! 息子の瀬史琉せしる大愛だいあちゃんを犯罪者にするつもりなのか!? 彼らの人生をメチャクチャにするなんてオレは絶対許さんぞ!」


 さらに校長が追撃だ。


「俺は死んでもいいってわけか!? ええ!?」

「当たり前だ! レイプ魔の息子なお前の命なんて屁よりも軽いんだぞ!」

「当然だ! お前が死んだところでだれも迷惑しないんだ! レイプ魔の子供と息子の瀬史琉せしる大愛だいあちゃんの命が同じ価値だと!? 笑わせるな!」

「それに、おとなしくしてないと高校に行かせないからな」

「そうだ! 内申書はオレ達が作るんだぞ! どんな底辺高校でも行けない内容にしてもいいんだぞ!?」


 耳をおおいたくなる程の衝撃を受けながら、黒鵜くろうは教室を去った。




 船城市立船城中学校内では「神」である瀬史琉せしるの父親は学校の校長をやっており、さらにはクラスの担任が大愛だいあの父親と言うこともあり、学校ぐるみでいじめを隠ぺいしている。

 生徒たちも全員高校受験の内申書に傷をつけないため、あるいは自分がいじめのターゲットにならないために見て見ぬふり。学校内に黒鵜くろうの味方は誰もいなかった。

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