クロスロード~未来のオレ、学年一美少女の彼氏
わら けんたろう
第1話 オカシな神様
さっきから、世界の様子がおかしい。
秋晴れの空の下、オレは学校の帰りに、いつもの通学路をいつものように歩いていた。
今日は午前中で授業も終わり、寄り道して銀行でバイト代を引き出そうと思ったけれど、面倒だから後でいいやと真っ直ぐ家へと戻ることにした。
「あぶないよー! どいてぇっ!」って声がして、オレは振り返った。
ばあさんの乗った赤い電動自転車がこちらに向かって突っ込んで来る。
ちょ、なんだそりゃ!? ブレーキ掛けろよ!
と思ったその瞬間。
あれ? なんだか様子がおかしい。
時間が止まった? うん、止まっている。
さっきまで街は雑音に満ちていた。今は何の音も聞こえない。
人の声も足音も、自動車の走行音やバイクのエンジン音も、小鳥の囀りやカラスの鳴く声も、犬の吠える声もまったく無い。
突っ込んできた自転車の前カゴが、オレのケツ側面に接触する寸前。
ばあさんは目と口を大きく開けたまま。
その後ろにいるガチムキのお兄さんは、暴走自転車を避けたのか片足を上げて仰け反ったような状態だ。あの態勢を保つのは大変だろう。
もちろんオレの身体も動きを止めたまま。どういうワケか、思考はできる。
やっぱ、世界の様子がおかしい。
オレはそう結論付けた。
『十文字……、
そして、どこからか誰かがオレの名を呼んでいる。
すこし幼いカンジの中性的な声。
『聞こえていますか? ワタシ、ワタシ、ワタシですよ』
オレオレ詐欺か。いったい誰だ?
『ワタシは神。名前はまだありません。どこで生まれたのかもさっぱりです』
あ?
神様の存在を信じるかどうかで言えば、オレは信じる方が良いと考えている。哲学者ブレーズ・パスカルもそう言ってた。「パスカルの賭け」ってヤツだ。
とは言ってもな。名前が無いだと?
そんな神様聞いたこと無ぇ。
生誕の地までわからんとか怪しすぎる。
『薄暗いジメジメした場所で、ニィニィ鳴いていたのは覚えています』
「ネコかっ!」
『そんなワタシの話を聞いてください。なに、お時間はかかりません』
まぁ、時間止まってるしな。
名もなき神様は嘆き、そして憤っていた。
この美しくロクでもない世界を生きる人間たちに。
愚かな選択をする人間に。平穏な日常を破壊する人間に。
『まったく愚か、ゴミの極み。せっかくワタシたちの姿に似せて創ったというのに』
この神様、人型ではあるらしい。
どうでもいいが、オレはいつまでこの態勢?
今現在オレの関心は、世の中の愚かな人間どもにはない。
どうすれば自分のケツを救えるか? それだけだ。
そうだ、時間が動き出した瞬間に自転車の進行方向へ跳べばどうだ?
ワンチャン、ダメージキャンセルできるんじゃね?
オレがそんなことを考えている間も、名もなき神様の話は続いていた。
『10万円の賞金目当てに100時間以上も費やして短編小説コンテストに応募する物語を書くとか、愚かの極み。だってそうでしょう? 現在、この街の最低賃金は1077円。100時間働けば10万円を超えますよ。そして落選した挙句、逆ギレしてサイト運営会社の会社建物へ車で突っ込むのです』
ネットニュースで大炎上したヤツだ。
犯人は、オレと同じN市在住の男性。35歳独身、職業フリーター。
40歳の背中が見えてくると色々大変なんだな。
オレは17歳の高校生なんで、よくわからんが。
どうせなら、原稿を片手に編集者へ凸すればいいのにとは思う。
結果はどうあれ、会社に車で突っ込むよりはマシだろう。
『そこで、アナタに素敵な力を貸してあげましょう』
素敵な力? なんだソレ? そして貸与なのか。
次の更新予定
クロスロード~未来のオレ、学年一美少女の彼氏 わら けんたろう @waraken
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クロスロード~未来のオレ、学年一美少女の彼氏の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます