第5話 新たな波乱の幕開け
朝、ツリトはスマホの電話のコール音で目が覚めた。隣を見ると裸姿のキララが安らかに眠っていた。掛け布団から身を出すと何故か自分は裸で掛け布団を見ると少し赤く染まっていた。
カナのかな。
スマホを取ると電話の主はカナからだった。メッセージで「できた」と書いていた。
やっぱりか。というか、産婦人科に行って確実にしたんだな。
そういうシックスセンスの持ち主もいる。世の中には仕事のためのシックスセンスが目覚めている人はたくさんいる。ツリトはカナに電話を掛けた。
「もしもし。俺だ」
「もしもし。ツリト君。大事なことだからちゃんと伝えたくて。ホントにできちゃった。今朝はカナも帰ったら夢心地でしばらく動けなかった」
「俺も夢心地であの後のことはホントに記憶がない」
「え?それじゃあ、キララに何かされたかもしれないじゃん。大丈夫?」
「分からん。起きたら確認する。王都を見て回ったらそっちに行くよ」
「うん。ありがとう。これから毎日連絡取り合おうね」
「おう。じゃあな、カナ」
「うん。明日、そっちじゃ夜か。起きたら電話する。バイバイ」
「おう。バイバイ」
ツリトは風呂を沸かしに行った。冷蔵庫に入れてくれてあるアイスコーヒーを飲み意識を覚醒させて時計を見ると既に十時だった。風呂が沸いたことを音で確認すると風呂場に向かった。シャワーを浴びて冷静に覚えている限りで昨日のことを振り返った。後悔してはいけないと思いつつも後悔の念が出て来る。
「カナに相談したのって間違ってたんじゃないか。断らなかった俺も俺だけどやっぱり何だろう。うん。理由があれだよな。キララを二番目にするために作ったってなあ。これは生まれる子を思うと後悔の航海に出ている場合じゃないよな。とりあえず、カナを女王から引きずり降ろして一緒に旅できるようにしないとなあ。一緒にいたいし」
「じゃあ、その旅に一緒について行くよ、ダーリン。この子のためにも」
お腹をさすって少し俯き顔を朱色に染めて上目遣いでツリトを覗き込み、もう片方の手で肩に優しく触れた金色の角の生えた龍人の少女が衝撃な爆弾発言をぶち込んだ。
「マジ?」
「マジよ」
「はああああああああああああああ!」
ホテルのモーニングを二人で食べて広場に向かいキララはいつも通り大量のチップをゲットして一応、産婦人科に行くとそれはあり、それを確実に外に出せるようにシックスセンスで調整して貰った。病院を出てキララのお腹を見るとキララが嬉しそうにお腹をさする。一度、目を逸らしてもう一度キララのお腹に目を向ける。やはりお腹をさする。
この女のせいで、この女のせいで、
「俺の人生設計が大きく変わってしまったじゃないかああああああああああああああ」
周りの視線を集めることになると分かっていながらもツリトは叫ばずにはいられなかった。
これじゃあ気が収まらない。
大きく胸を開いて息をたくさん吸った。
この女のせいで、この女のせいで、
「俺の人生設計が大きく変わってしまったじゃないかああああああああああああああ」
まだ足りない。全然言い足りない。
大きく胸を開いて息をたくさん吸った。
この女のせいで、この女のせいで、
「俺のじ…って痛えよ!いきなり何するんだ!俺はまだまだ言い足りないんだ。すぅぅ、痛い痛い痛い痛い痛い!」
二度のチョップを食らわしたキララは顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。初めて見せる表情で様子だった。
「そんなに大声で周りにアピールしないで。恥ずかしい!」
周りの視線が気になってホテルで休むと先にキララは帰りツリトは自由になった。一緒にいる時も余り腕を組まないようになりカナの狙いは本当に当たっていた。当たっていたのだが、ツリトにはどうしても文句を言いたい薄情者がいる。電話をしても無視されている。
ホントにあのクソ野郎は!絶対に文句を永遠に言ってやる。
ツリトは今、街中をぐるぐると歩き回っている。巡回しているであろうサルシアを見つけるために。もちろん何の手掛かりもなしに探しているわけではない。サルシアは有名人だ。スマホがあれば目撃情報など簡単に集められる。そして、曲がり角を曲がったらいることは既に分かっている。曲がり角を曲がった。青髪の長身の後ろ姿が見えた。黒い騎士服を着ている。白ではないから近衛騎士の証だ。ツリトはサルシアの肩を掴んで決して放さなかった。
「おいっ、クソ野郎。俺はぜってえてめえを許さないからなっ!」
「いきなりどうしたんだ、ツリト?」
「仕事はいつ終わるんだ?」
「日が落ちるまでだけど」
「あと、一時間ちょっとか。分かった。一緒に歩いて待ってやる。今夜は絶対逃がさないからな。お前は絶対俺が呪ってやるから」
「呪う?怖いな。僕が何をやったと言うんだ」
「俺はお前を友達だと思っていたが友達のピンチを助けなかっただろうが!電話にも出ねえし」
「僕も友達だと思っているさ。でも、キララはおそらく僕でも止めれないほどの実力だ。殺そうとしない限りね」
「てめえの言い訳はちゃんと聞いてやるが今夜は俺が落ち着くまで付き合ってもらうぞ」
「分かった。だが、今は仕事中だ。この話しは一旦止めよう」
「分かった」
壁に囲まれている王都はデジタル化は進んでいるが壁で囲まれた街では車やバス、飛行機などは走っていないし飛んでいない。これは王様の安全のためだ。しかし、安全面で少し危険なところがある。壁に囲まれた街の中で三メートルほどの壁ができているのだ。壁の向こうには昆虫と人間の亜人が住んでいて一般的に貧民街と言われ危険地帯になっている。二人が歩いたのは貧民街だった。
「世界を旅するならこういう貧民街も見ておいた方がいい。彼らは長く先祖代々ここに住むことで間違った教育を受けている。王様がこんな風に差別しているんだ、と。実際は違う。王様と意見が合わなかった昆虫と人間の亜人の重鎮が怒って壁を作ったことが始まりなんだ。もちろん王様はすぐに壊したが何度も何度も壁は作られた。それを繰り返すうちに子供に間違った教育が施されて悪循環が起きているんだ。だから、彼らの生活はこんな風に貧しいんだ。デジタル化も進んでいないしね。それで、もし、この貧民街で黒が出て来たら王様の命が危うくなる。だから、僕はこうやって定期的に貧民街を散歩することにしているんだ。他の近衛騎士はこっそりと巡回している。どうだい、ツリト?」
ツリトとサルシアは堂々と二人並んで歩いている。当然、歓迎されていない。
「ここにいる亜人は全員目をギラギラさせて俺たちを睨んでいる。誰一人ここから出ようとする気概を感じない。ホントに間違った教育を施されているんだなあと思うよ。お前ら近衛騎士は正しい教育を施そうとしていないのか?」
「しているさ。だが、彼らはそれを聞こうとしない。自分たちの知識が正しいんだと思い込んでいる。まるで誰かに操られているんじゃないかと思うほどね。でも、彼らは実際に操られていない。正気なんだ。なあ、ツリト。君はこの状況はどうやったら解決できると思う?」
「そうだな。無理やり思想を変えてやったらいいんじゃないか?」
「ここにどれほどの人が住んでいるのか分かっているのか?それにそんなことしようとしたら内戦が起こってしまい、彼らの地位は今以上に酷くなってしまう」
「うーん。なるほどね。でも、俺の考えしかどうすることもできないと思う。おそらく全員が間違った知識を持っている訳じゃない。現に仕事から帰ってきている亜人はまあまあいる。そいつらがホントのことを訴えても聞いてくれてないんだと思うんだ。だから、一斉に皆の気持ちを変えるしかどうすることもできないさ」
「ツリト。自分ならできると言っているのか?」
「んや、さすがにこの広さは俺だけでは無理だな」
「そうか。ちょっと期待してしまった」
「まあ、今の俺には、だ。将来的にはできるようになるかもしれない。その時はまたここに来てやるよ。っていうかサルシアの力なら余裕でできるんじゃないか?」
「さすがに僕でも難しい。さてと、そろそろ帰るか」
「おう」
皆テントを張ったような家で強風が吹けばすぐに倒れてしまうんじゃないかと思うほどボロボロな家に住んでいる。中には本当に壊れている家もある。水が来ていないためか家の外にはタンクの水がたくさん見られる。昼間に川で取ってきているのだろう。
こういうことから悪循環が生まれるのだろう。いつか何とかしてやりたいな。
二人は警戒しながら壁にできた穴から出て行った。二人は王城に向かった。どうやら着替えは王城の横にある近衛騎士たちの訓練所でしているみたいだ。訓練所にはたくさんの近衛騎士たちが訓練しているのだろう。ドンという大きな足音やバンという木が打ち合うような音などが響いていた。近衛騎士はやはり騎士だから剣を主な武器にしているのだろう。おそらくシックスセンスを使えなくなった時のために鍛えているのだろう。訓練場の外の壁でもたれていると筋肉質のゴツイ体つきで顔は目元に堀がデカいタンクトップに長ズボンの赤髪赤目の男が通り掛かった。彼はツリトに気付くと握手をして来た。
「これはこれはツリト少年ではありませんか。私は近衛騎士団団長リザーリアだ。家名は近衛騎士団に所属している時は名乗らないようにしている。すまない」
「いえいえ。僕も短期決戦の燃える獅子と名が知れているリザーリアさんに会うことができて嬉しいです」
「はははっ。その二つ名は止めてくれ。君たち黒に通用するほどの実力はまだありませんからね。少し焦らせることはできるかもしれませんが」
「その自信が生まれるほど自身の実力を誇れるのは凄いことですよ」
「まあ、近距離限定ですがね」
「それでも連携する仲間がいたら黒も倒せる可能性があると思ってるんでしょ?」
「ええ。私たち相手と勝負して戴けませんか?」
「んん。いつまで握手してるんですか?」
「ははは。いつまででしょう」
「はあ、やってやりますよ。もしかして、サルシアに居場所聞いてました?」
「ええ」
「はあ。やっぱりあいつはクソ野郎だ」
訓練所の中は普通に木造建築だった。ツリトを含めて合計二十人が同じ部屋にいた。中ではサルシアが十七人の同僚に囲まれていた。どうやら俺のことを根掘り葉掘り聞かれていた。
今回は許してやるか。
「おい、お前ら、ツリト少年が相手になってくれるそうだ。私たちの実力を見せつけてやろう!」
全員が一斉に団長の方を見て自信に満ち溢れた笑顔をしていた。サルシアは悪い笑みをしていた。
「おいっ。どれだけ先延ばしにしたって俺がお前を呪うことは決定事項だからな」
「ツリト、あんまり舐めない方がいいよ。僕は未だに攻略できていない。団長は今年で四十歳になるがまだまだ成長している。僕のお勧めとしては団長を先に倒すことだね」
「へえ。お前はまだ攻略できていないのか?」
「うん。ここがもうちょっと広かった余裕で勝てるんだけどね。それに真剣を使えないからね。さすがに逃げ場がなくて団長の無双状態なんだよ。正直かなりビックリすると思うよ」
「お前、俺が気絶するのを狙ってるのか。その隙に逃げようと」
「ははは、どうかなあ」
「やっぱり、お前はクソ野郎だ」
「よしっ。準備完了。サルシア審判を頼む」
「はい。ではルールの確認をします。まず、お互いに全力を出してオーケイです。次に団長かツリトが気絶するまで試合は続けます」
「ツリト君、十対一だがよろしく頼むよ」
「構いませんよ」
「ありがとうございます。では最短で終わらせますよ」
「そうですね。最短で終わらせましょう」
「では、始め!」
十人はそれぞれオーラを纏った。団長は金色のオーラを纏って自分も含めて十人全員に顔まで隠した防具を着せた。丁寧に木刀まで被せている。そして残りの九人は紫のオーラを纏った。四人は団長のオーラを倍増させていた。残りの五人は三人が鉄砲を具現していて二人は木刀が紫に輝いていた。ちなみに残りの七人は紫のオーラを纏って結界を張っていて一人は笑顔で団長たちを見ていた。審判であるサルシアは彼ら八人守っている。全員、邪魔にならないようにして二階にいる。ツリトはというと引きつって笑った。
「はっはっはははは。これは反則だろう。でも、諦めないけど」
団長のリザーリアは半径二十メートルほどの球の金色のオーラを纏っている。ツリトは全オーラを纏ってこの訓練所の一階の結界の範囲内に無数の斬撃をオートで飛ばした。作戦は一つ、団長の心を凪ぐ。そのためにもこの戦いで勝ちたいという太い糸を斬るための隙を、余裕を自力で作らないといけない。
「今回はカナがいないからな」
団長であるリザーリアはツリトがオーラを纏って斬撃を飛ばしたことを確認すると防具を斬撃で揺らしながら足元に全体の四分の一ほどのオーラを集めて一直線にツリトに向かって跳んだ。
ここで金と黒のオーラの差を説明しよう。黒は金よりシックスセンスの効果を凄くできる。例えばツリトの、斬る、だが金だと精神面まで作用することはできなかっただろう。黒ではもっともっとできることがある。ツリトがまだ全部習得していない。それでオーラを纏うことによる身体能力の強化だが同じ量で黒は金の十倍ほどあると言われている。もちろん個人差がある。ツリトは黒の中でも、団長は金の中でも優れている。それで二人の実力差だが三十倍だ。だから実際は皆が思っているよりツリトは追い詰められていないのだ。だが、二人は、サルシア以外の全員はこのことを知らない。だから、ツリトは必要以上の力で真上に跳び結界に頭が当たった。
「いってえ」
「なっ、ポテンシャルはサルシアより上だと⁉」
サルシア以外の全員が唖然とした。ツリト以外は団長の驚きを心に抱いて、ツリトは初めてコントロールできないほどのオーラを纏って動いたことによる衝撃で。一番早く、正気に戻ったのはツリトだった。この一瞬が勝敗を分けたと言っても過言ではない。ツリトは先日の戦いで学んだ。心を凪ぐには時間を掛けてゆっくりと目的の糸を探すより相手の心を変化させて太くなる糸を見つけて斬る方が断然早いのだと。
「あれえ、こんなので王様の護衛が務まるのかなあ⁉ここで勝てないと俺ほどの実力者が攻めて来た時、王様が簡単に殺されちゃうよ」
ツリトは地面に落下しながら近衛騎士全員を煽った。そして、一番激怒したのが最年長の団長リザーリアである。
「あぁ!お前なんぞ俺たちで余裕で勝ってやるさ。今度は全力で行くぞ!」
「思ったより単純だな。ジ・エンドだ」
ツリトは団長のこの戦いに勝ちたいという思いを凪いだ。急速に太くなった糸を細かく切ってやった。そして、団長のリザーリアはツリトを見て宣言した。
「私たちの負けだ。この勝負はどうでも良くなった」
この戦いで勝ちたいという思いが消えた団長は戦う気概がなくなってしまったのだ。こんな心では大けがを負ってしまうと確信して降参した。
「俺のシックスセンスは詳しく話さないから。じゃあ、そういうことでサルシアを貰ってくぜ」
ツリトはようやくサルシアに呪いを掛ける機会が巡って来たのだ。時刻は九時を過ぎている。
「ということで僕も失礼します」
「ああ、ツリト少年には天晴れだ」
二人は訓練所を後にした。王城の門を出たら電話が掛かって来た。
「サルシア、個室がある店を探していてくれ。ちょっと電話出る」
「分かった」
ツリトはサルシアから離れると電話に出た。
「もしもし。カナだよっ」
「もしもし。カナ。もしかして早から疲れが出て来てる?」
「うん。ちょっとだけ。それでキララはどうなった?」
「できてた」
「マジ?」
「ああ、マジみたい。でも距離感はマシになった」
「はあ。そう。あのね、公に発表したいんだけどいいかな?」
「いいけど、いつぐらいに?」
「お腹が膨らむ前に。だからそれまでにこっちに来て欲しいの」
「分かった。こっちでちょっとやりたいことができたからそれを片付けたらすぐに行く」
「やりたいことって?」
「そうだね。カナの旦那さんになるための実績づくりかな」
「ふーん。今、王都にいるんだよね。なんとなく分かったわ。でも、できるの?」
「考えがある」
「そう。頑張ってね。期待してる」
「ああ、期待しててくれ」
「じゃあ、寝る前にまた、電話するね」
「おう。体に気をつけてな」
「うん。ありがとう。バイバイ」
「バイバイ」
電話を切った。振り返るとサルシアも電話していた。サルシアは何やら険しそうな顔をしていたが電話を終えると笑顔を作って案内をした。
今日の晩御飯は焼き肉だった。肉を焼き始めるとツリトは本題に切り出した。
「おいっ、何で昨日俺を助けなかった」
「僕が昨日、君にスマホを届けに行った時、もうカナさんに頼っていることは分かっていたからね。それにカナさんから連絡を貰っていた。ちょっとそっちに違法入国するけど許して頂戴って」
「じゃあ、カナが何をするつもりか分かっていたか?」
「カナ?カナさんじゃないんだね。正確には分からなかった。僕も何をするのか分からなかったからね」
「じゃあ、何をするつもりか予想はしていたか?」
「なんとなくはね。電話が来た時少し様子が変だったからね。おそらくツリトといちゃついてキララの心を挫いたんだろう」
「正解ではある。もっと具体的に予想してたろ?」
「うーん。そこからは余り考えてなかったかな」
「ホントか?」
「はあ。しつこいな。白状するよ。僕はカナさんはおそらくキララの動きを封じて君と子供を作るギリギリまでヤっていちゃつくと予想した。子供は女王だから簡単には作れないだろうからね。ここまで予想して僕はツリトを助けなかった」
「なるほど。じゃあ、今日の俺の目撃情報知ってる?」
「知らない。ちょっと待って。確認しよう。王立病院の産婦人科にいた⁉」
「じゃあ、カナさんは俺に何をして、キララは俺に何をしたか分かるね?」
「はははははははははははははははははは。笑えない冗談だな。もしかしてドッキリかけてる。いつの間に三人は仲良くなったんだい?」
「サルシア、お前の判断ミスで俺の人生が変わったんだ。お前が火中の栗を拾わずに逃げたから俺の人生が変わったんだ。つまり、お前のせいで俺はクソ男と罵られるんだ」
「いや、待て。仮に僕の読みが間違っていたとしても君が抵抗すれば済む話しじゃないのか?」
「じゃあ、お前なら抵抗するか?」
「するね。僕ならする。それにキララからは逃げれたんじゃないか?」
「俺はカナといた時からちょっとボーとしてた。おそらくキララはその時に」
「じゃあ、カナさんの時は抵抗できたんじゃないか?」
「じゃあ、聞くけど、体を何回も斬られたり、引っ掛かれたりした相手を一瞬で倒してくれた女に惚れない奴なんているのか?それにカナとの記憶もあんまりない」
「む。でも、僕は体に何回も穴を開けられた」
「それはサルシア、お前が俺を何回も斬るからだ」
「そりゃ、斬るだろう。僕を負かしたんだから。それにツリトは黒シリーズのリストバンドを持っていたし」
「はあ。こりゃダメだな。一つ、お前は重大な罪を犯している」
「何だい?」
「他国の女王の不法侵入を許し、おまけに子供を作らすのを協力した。おまけに黒だ。俺がこの事実を報告したらいくら黒とはいえお前は牢屋行きなんじゃないか?」
「クッ。それで僕を脅したつもりかい?何が望みなんだ?」
「脅されてるじゃないか。正直できちまったもんは仕方ない。責任を持つさ。だが、お前の罪は許すつもりはない。だから、黒シリーズの扇子をよこせ」
「なっ!あれは五百億はくだらないぞ。それに王国保有の黒シリーズだ」
「じゃあ、王様に直接交渉しよう」
「止めてくれ。これ以上悩みの種を与えたくない」
「じゃあ、よこせ」
「無理だ。これから大きな内戦が控えているかもしれないんだから」
「どういうことだ?」
「実はさっき団長から電話があった」
「呼び出してすまないね。リザーリア」
「いえ、ジン王。それで内密なご用件とは?」
「毎晩行っている確認で危険に気付いた。余の命を狙っているものがいる」
「なっ何と⁉」
「バカ。声がデカい」
「ハッ。失礼しました。それで敵は分かっておられるのですか?」
「それも確認した。これは余の感だが、バウバウ家が関わっている」
「バウバウ家。ふむ。それで私たちはどうしましょう?」
「サルシアに任せる」
「ハッ。増援はいらないのでしょうか?」
「必要に応じてサルシアに全て任せる。以上だ」
「ハッ。明日から調査させます」
「ということで明日からツリトに構っている暇はない」
「ほう。で、どうするつもりなんだ?」
「外からじっくり観察する。僕が近づくといきなり王様を殺そうとするかもしれない」
「なるほど。どれぐらい掛かりそうなんだ?」
「分からん。バウバウ家が抱える亜人の数がどれぐらいいて彼らが何色なのか一人一人確かめないといけないし、バウバウ家がどのように関わって実行犯が誰になるのかも掴まないといけない。正直長期戦になる」
「ふーん。扇子をくれるなら一気に解決してやるよ?」
「何か策があるのか?」
「実はキララがバウバウ家からラブコールを貰ってるんだ」
「なるほど。確かにバウバウ家のものが来てたね。確かに二人は適任だろう。だが、扇子はダメだ。代わりに他の黒シリーズじゃダメなのか?」
「ダメだ。俺は扇子を使ってちょっと企みを考えてるから」
「…確認しても構わないかい?」
「ああ。扇子をくれるならお前の罪は俺は黙っててやるよ」
「はあ。話すべきじゃなかったかもしれない。だが、黒二人の協力は魅力的だ。敵の規模が分からない以上仕方ないか。ちょっと席を外す」
「ああ、よろしく頼む。はあ。何か話を逸らされた気がするなあ。まあ、食べるか」
話していて皿に溜まった焼き肉を処理することにした。冷めても油がきつくなかった。さすが高い店の高い肉だ。
「美味しいな。おっ、このタレもなかなかいいな。どんどん食うか」
十分ぐらいしてサルシアは戻って来た。ツリトは追加の注文をするためにメニューを見ている時だった。
「ツリト。オーケイだ。王様は追加で五百億渡してもいいと仰った。ただし、報酬は後払いだそうだ」
「オーケイ、オーケイ。構わないよ、それで。契約成立だ。ちゃんと細目に連絡するよ。と言っても一週間以内に終わらすけど」
「頼もしい限りだ。場合によってはジェノサイドは構わないそうだ」
「そうか。そんなことは一切しないし、誰一人血は流させないよ」
「ホントに頼もしいよ。さてと、この話はこれでお仕舞いだ。僕も食べるよ」
日付が変わった頃に解散してホテルに帰ったのは零時半。部屋に入るとキララは頬を膨らまして抱き着いて来た。
「遅い!どこ行ってたの!」
「だから、サルシアに会いに行くって言ってたじゃん。それで明日からキララに手伝って欲しいことがあるんだ」
「何?実は、……。手伝ってくれるか?」
「条件がある。毎日キララにキスをすること。それができないなら手伝ってあげない」
「他に条件はないのか?」
「じゃあ、毎日交わる!」
「はあ。分かった。仕方ない。解決したら無しでいいよな?」
「え?何言ってるの?ダメに決まってるじゃん。毎日だよ。毎日」
「………………たーもう、分かったよ。それでいい!」
「良かった。じゃあ、誓いのキスね」
「は?」
「は?じゃないよ。いざ、実際にやってそんなことあったっけ?ってとぼけられたら困るから」
キララは目を瞑って唇を実際に指で指している。
「俺はそんなことをしないから」
「ほらっ」
ちゅっ。
「これで、いいか?」
「そんなに顔を真っ赤にしちゃって。ツリト、風呂に入って来なよ。煙の臭いがする」
「おっ、おう。キララも先に寝な。明日、モーニングを食べに行こう」
「うん。絶対連れてってね。風呂は沸いてるから」
キララは昨日と同じ下着とキャミソールだけしか着ていなかった。ホントに入っているのだろう。
「分かった。ありがとう。これからあんまり夜更かしするなよ」
「分かってるよ。ツリトのそういうところ好きだよ。ちゅっ」
「おいっ」
「へへへ」
「はあ。お休み」
「実は帰ってからいっぱい寝ちゃったんだよね。一緒に入ろっ。ダメ?」
「どうせダメって言っても入って来るんだろう?」
「分かってるじゃん、キララのこと」
「はあ。キララに会ってから振り回されてばっかだよ」
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