第3話 波乱1
雲の遥か遥か上からその少女は舞い降りて来た。親、兄、姉、仲間を欺き、何度も欺いてようやく地上に降りることができた。長かった。ちょっとずつちょっとずつ欺き、当たり前にしてようやくだ。
やっと、外の世界に出れた。
少女の視界には大きな宝石がたくさん使われた豪華な城が目立っているが、闘技場、民家、ビル、電波塔、水道橋、とにかく今までに見たことがないものがいっぱいに広がっていた。そして、森の中に落ちた。
「ふう、上陸、上陸。さてと、とりあえず、さっき見た豪華な城に行きますか」
「はあ。疲れた。まあ、でも行くか」
ツリトは家に帰り風呂で一時間ほど眠り、用意してあったリュックを背負い、家から出た。
「ふう、やっぱりこの時間帯は皆いねえよな」
漁師町の朝は早い。普通の仕事と昼夜逆転だ。昨日の送別会の主役が欠席したことに皆怒っているに違いないから顔を合わせたくなかったのだ。本当はもっと寝たかったが敢えてこの時間に出ることにした。ツリトは王都に向かってゆっくりと足を踏み出した。
バス停に行ったり電車に乗ったりなどそんなことはしない。どこにあるか分からないからな。エージソンの残したお宝が。
ツリトは敢えて均されていない土地を進んでゆっくりと王都に向かった。そのお宝はオーラで守られて保存されているはずだから。
少女には角が生えている。この二本の角はどうやら他の生物を威嚇しているみたいだ。皆ビビッているし掛かっているみたいだ。中には襲って来る獣もいた。今、亡骸の獣に座ってため息を吐いている。
「はあ。こんなに皆ビビるとは。人に会う時は気を付けないと。面倒だけど欺くしかないかな」
視界の先には城の尖がっている三角錐のものが高い壁の上から微妙に見えている。
「とりあえず。獣たちを解体してお金になりそうなものは手に入れないと。無一文だと何も楽しめないだろうから」
少女が殺した獣の中には何やら綺麗に輝いている宝石のような角が生えている如何にも金になりそうな奴がいた。
「えへへへへへ…」
一通り解体して金になりそうなものは木で作った箱に入れて両手で抱えている少女は大行列に並んでいた。検問所だ。亜人もたくさんいて、皆、城や闘技場に行くのを楽しみにしているようだった。今、角は生えている。生やさないようにすることはできない。完全な人の血が入っていない亜人だから。では、どうしてるか。オーラを見えないようにしてシックスセンスを使って欺いている。とうとう、少女の検問の番になった。
「では、スマホを出してください。行動履歴を見せてください。それとどこ出身なのかお教えください」
えっ?すまほ?仕方ない。更に欺くか。
「えっと近くの村から。スマホは途中で失くしちゃって」
「そうですか。王都はタッチ決済しかしていませんからこのスマホをどうぞ。IDを入力したら落としたスマホのデータが戻ってきますから」
「すみません。IDも忘れちゃってて」
「はあ。仕方ないですね。では、このスマホで一緒に新規登録しましょう。ついて来てください」
「はっはい」
横の長椅子に座らされた。
「あの、くれるんですか?」
「ええ。もし、犯罪が起こった時に必要になりますから。分かっているとは思いますが、スマホを持たずに事件に巻き込まれたら罰金と長時間拘束されますからね」
「はあ、なるほど」
「後は名前を入力すると終わりです。お名前は?」
「キララです」
「家名は?」
「ありません」
「そうですか。これで大丈夫ですよ。充電がなくなったら太陽光に十分ほど当ててください。すぐに使えるようになります。もういいですよ。どうぞ中にお入りください」
「あっ、あの、これを売れるところってありますか?」
キララは箱を開けた。中にはキラキラに光る角や皮、歯、そして、一番輝いていたのはあの獣の胃の中にあった太陽の光に当てると色が変わる宝石である。
「これは!うーん、見た感じキララさんは都会のこともこの宝石のカラットカウのことも知らない様子だ。イキシチ王国が買い取ってあげよう。キララさんは騙されそうだから」
「いやあ、やはり二百億ほど行きましたか。綺麗で欠けていませんでしたからね」
「良かったです。こんなに価値があるものだと知らなかったので、ありがとうござます」
「いやあ、キララさんが物の相場を全然知っていなかったのはビックリしましたよ」
「ははははは。お恥ずかしい。それにしても視線を感じるんだけど」
「それは、すまない。僕のせいだ。もし、これから旅をするなら覚えておいた方がいい。各国の有名人は。それに、僕クラスになるとキララさんのシックスセンスやオーラの色などはお見通しだよ。もちろん角が生えていることも」
「ははははは。バレてたか。なら、私の存在は忘れる。今日は、色々とありがとうございました」
「あっ、ええ、こちらこそ。では」
お互いに頭を下げて別れた。
「あれっ?僕はどうして、こんなところに…。とりあえず、検問所に戻るか」
青髪で蒼い目をした容姿端麗で高身長のイケメンことサルシア・サキューバスは瞬間移動で検問所に戻った。キララのことを忘れて。正確には思い出せずに。
サルシアと別れたキララは驚いていた。
「まさか、キララのシックスセンスに気付ける人間がいるなんて。ツリト以外で。こんなことできるなんて黒かしら。まあ、そんなことはどうでもいいや。観光、観光」
一通り観光し終えたキララはベンチに座って休憩していた。目の前にはオーラを使わずに手先で他人を騙して超常現象を起こしているように見せている顔を塗った男がいた。そして、騙し終えると観客からチップを貰っていた。
へえ。こんなことでお金貰えるんだ。暇だしやって見ようかなあ。次の街に行くまでの余興として。それに今日みたいにキララの正体に気付く黒がいるかもしれないし。何よりツリトに会うことができるかもしれないし。
キララはショッピングに出かけて騙すための道具を買い揃えた。
ツリトは王都に検問所の前に到着した。何の手掛かりなしに一ヵ月は過ぎてしまった。検問所には私服姿のイケメン、サルシアが待っていた。検問を終えて王都に入った。
「じゃあ、スマホの位置情報は確認したから観光しようか」
「ああ、ずっと楽しみにしてたからなあ」
サルシアに観光案内を昨日、お願いをしたところ二つ返事で承諾された。ツリトはサルシアは有休をとってくれているのだと思っているがサルシアは王様からの命令でツリトを見張っている。いや、見張っているが遊んで楽しんでもいる。
「いやあ、疲れた。でも、いいのか?こんな高級料理店で奢ってもらって。この前、十億失ったところだろう?」
今、サルシアは仕事上接待している。王様からの命令だ。人柄は分かっているためそんな必要はないと分かっている。だが、それを王様に言っていないのはサルシアが仕事という名目で存分に遊ぶためである。王様がツリトを危険と全く認識していないのもあるのだが、実際に言っていないためサルシアは中々の悪である。
「構わないよ。この前の事情を話したら家からお金をくれたからね」
まあ、嘘だけど。このお金は国から出てる。それに家に馬鹿正直に話したら今頃、修業させられている。例え条件付きとはいえ、負けたことは事実なのだから。そんなのはごめんだね。
「そうか。じゃあ、遠慮なく頂くよ」
「ああ、本当に遠慮しなくていい。どんどん頼もう。今日は値段を気にしない」
ツリトは本当に遠慮なくどんどん頼んだ。
この領収書を見た、王様がどんな顔をするか楽しみだな。
と思いながら人の悪い笑みをサルシアは浮かべていた。
「本当は、僕の家に招待しても良いんだが、緊張するだろう?」
「まあな。緊張するだろうよ。でも、このホテルも緊張してしまうし気が引けるわ。ホントにいいのか?ずっと代金を払ってもらって」
「ああ、構わない。国から出るし、監視の意味もある」
「そうかよ。じゃあ、遠慮なく楽しむよ」
「ああ、楽しんでくれ。バイバイ」
サルシアは瞬間移動で消えた。
「んと、ちゃんと聞いて良かったな。サルシアが奢ったとなるとさすがに俺も心が痛んじまう」
食事がある程度進み酒も入れたところでツリトは聞き出した。シックスセンスを使ったら無理やり聞けるが。
「まあ、行く先行く先、皆、ちょっと様子が静かだったからな。俺はそこそこ有名人だし、サルシアといるとなると通行人のようにもっと騒がないと。分かりやすすぎ。ふう、楽しむか」
ツリトは超高層ホテルの中に入っていった。
ホテルの設備はやはり凄かった。娯楽のスペース、飲食店の数、ジム、マッサージ、偉人のサイン、などなどたくさんあった。とりあえず最上階の広々とした一室に案内されたツリトは中に入ると案内をしたスーツをビシッと着て白髪を七三分けにした老紳士からボタンを渡された。ボタンを押すとスクリーンに人懐っこい笑顔を向けた茶髪に白髪が少しメッシュのように掛かった中年のおっさんが映しらされた。服装はチェック柄のパジャマを着ている。これだけだとただのおっさんだが、部屋にあるものが違った。後ろに大きな絵画と大きなベッドがあり壁には宝石が埋め込まれている。ベッドに足を組んで座っているのだが絨毯も宝石が埋め込まれているのも見える。要するにただの中年のおっさんではない。
「やあ、黒のツリト君。余はジン・イキシチ。イキシチ王国の王様さ。先日、君の元に近衛騎士団所属のこの国唯一の黒でありサキュバース家のシックスセンスを受け継いだサルシア・サキューバスを君の最後の解体ショーと握手会に派遣したのは余だ。君が危険な存在かどうかを確認してっもらった。まあ、と言っても余の感は君は全然、他人を殺すような危険な存在じゃなかったんだけどね。サルシアの報告でも君は全然危険じゃなかった。が、一応、君を監視させないと五月蠅い重鎮が多くてね。だから、せめて君には旅を楽しんでもらいたいと思って色々と豪華に招待している。君のために色々と用意している。抱き枕が欲しかったり、一人じゃ寂しかったりしたら何なりと言ってくれ。ちゃんと用意している。いつまでここにいるのか分からないが存分に王都を楽しんでくれ」
おっさん、イキシチ王国の王様ジンからのメッセージだった。
何だ、サルシアは言っていないのか。俺ら黒と遊んだことを。じゃあ、あいつは仕事で遊んでることになるじゃないか。
「はははっ」
「ツリト殿、何か用意するものはありますか?」
「一応、抱き枕と寂しい時に来る人見せて」
「データを送ります。データに連絡先が載っているので必要な時はお掛けください。では失礼します」
「はい。お疲れさん」
椅子に座るとさっき渡された二種類のボタンのうち抱き枕の方を押した。スクリーンに抱き枕が映し出された。そして、スクロールして行くとやはりあった。
「おっ、やっぱりか。ここに出てる顔と名前、聞いたり見たりしたことがあるな。それなりに金持ちの家庭で紫以上だな。しかもメッセージ付き。やっぱ優れた遺伝子は欲しいんだな。こんなに個人情報や家の財産明かしてでも」
一通り家の情報を見てから、ほとんどがお金持ちの家の女の子だった、寂しい時に来てくれる子のリストをスクリーンに映した。
「なるほど。こっちの方が安全な感じだな。男や子供までいる。皆たくさん情報が書いてあるけど、この新規登録の少女、オーラの色が青って書いてるけどマジックで稼いでるチップの量が多いな。自己申告だけど。何々、明日は広場でマジックショーをすると、行ってみるか」
一通り情報を見終わったツリトは風呂に入って寝た。
「さて、ツリト。今日はどこに行って遊ぶ?」
「何でお前がこの部屋に入れてるんだよ?」
「そりゃあ、僕は監視として君を見ていないといけないからね」
「はあ、そうかよ。とりあえず、ゆっくりモーニングだ。昼にちょっと行きたいところがある」
「どこに行くんだい?」
「何か、最近話題になってるみたいじゃないか。マジックショーが」
「ああ、なるほど。確かに話題になっているみたいだね。僕も見てみたかったいと思っていたんだ。そうと決まれば着替えてくれ」
「はいよ」
「はむ。確かに美味しいな、このホットケーキ」
「だろっ。僕も非番の日はよく来てるんだ。気に入ってもらって良かったよ」
それぞれホットケーキを食べ終えてアイスコーヒーをゆっくりと飲み始めた。
「そういえば、昨日、ジン王様からメッセージを貰った」
「え⁉」
口に含んだコーヒーを吐き出すようなはしたないことはさすがにしなかった。
吐き出すことはしないと思っていたが、チッ。
「知らなかったんだな。王様のシックスセンスで大丈夫だって分かっていたみたいだ」
「はあ。つまり五月蠅い重鎮がこの状況を作っているんだね」
「ん。そういうこと」
カラン。アイスコーヒーを口に含んでサルシアは自分の心を落ち着かせた。どうやら重鎮のことが余り好きじゃないみたいだ。
「それで、どうやってマジックショーのことを知ったんだ?」
「えっとねえ。サルシアって王国以外で接待されたことある?」
「ないけど、どうしたんだい?」
「王国だけかもしれないけど、女を差し出しますよってデーターを渡してきた。そこで情報を掴んだ」
「なるほど。それも、おそらく重鎮たちが提案したんだろう。黒相手に夜這いなんてできないからね」
「まさか、色々と情報を渡して来るとは思わんかったよ」
「はははっ。でも、おそらく本当に王国にとって重要な情報は渡してないだろう。例えばだけど、僕の家から紹介された子はいないだろう?」
「あっ、うん。確かになかったわ。そういえば妹や姉っているの?サキュバース家ってそんな情報がないから知らないわ」
「さすがにキモいかな。まさか狙ってるのかい?」
「んや、今、狙ってる人はいないよ」
「カナさんはどうなんだい?」
「っ」
「まさか、ホントに…」
「吊り橋効果なのかもしれない。お前ら野郎どもにボコボコにされてその時にペアを組んだ時どれほどかっこよく思ったか。おまけにあの優しさに包まれたらなあ」
「あれに関しては僕にも感謝して欲しいんだけどな。ぼくが治癒できると言ったことで君も遠慮する必用は無くなったんだから」
「お前があんな提案しなければルールはかすり傷程度であのままできてたんだよっ!」
「確かに、毎回刺されたり、斬られたり、引っ掛かれたりしてたけど、君も毎回相打ちには持ち込んでいたじゃないか」
「戦い素人にすることじゃないんだよ。それに、お前は結構ひどいからな。俺に傷つけて縛りを作って動かさないようにして別の奴に大ダメージを与えさせてやるあのスタイル、俺はぜってえ忘れないからなっ!」
「確かにツリトをたくさん傷つけたけど、カナさんが長距離になった途端に無双して、僕たちも体にたくさん穴を開けたじゃないか」
「その腹いせに俺にしたことがひでえって言ってるんだよっ」
「仕方ないじゃないか。ツリトに戦意を凪がされる前に傷つけないとカナさんへの精神的な腹いせができなくなるんだから」
「それだよっ」
その後も、恨みを言い続けているとマジックショーの時間はあっという間だった。
広場に向かっていると皆、同じ方向に歩いていた。中には店の従業員までも。そう。店を閉じてまで皆行っているのだ。
「サルシア、これってどう思う?」
「うーん。相当な才能がある。オーラに。まさか、黒だとは思わないが」
「ふむふむ。ちょっと見てみていい?」
「構わないよ」
ツリトはオーラを纏った。
この原因を作っているものを斬りたい。
ツリトの視界にはオーラの幕が掛かっていた。丁度、目の前に手を伸ばすと届く距離にオーラの壁がある。
「ほう。中々面白いな。ちょっと真上に跳ぶわ」
垂直飛びで真上に跳んだ。一番高いビルまで跳んだ。一瞬だけ宙に浮いて様子を見た。幕は直方体で高さは高いビル、平面は丁度、川になっていたり、商店街の入り口だったり、学校だったりとしているところで途切れていた。
「これは、中々に凄いぞ。これだけの規模、黒だな」
「そうか。僕は今まで見えていなかったよ。それにしても、ツリト。練度がかなり上がってないかい?」
「ああ、この一ヵ月間、毎日、ずっとオーラを纏っていたからな。それに、五人で戦って以来、成長速度が速い気がする」
「もしかして、ツリトはエージソンが最後に作ったと言われている黒シリーズを探していたんだね。旅のついでに」
「おう。未だに見つかっていないし、気になるだろう。まあ、他にも未確認の黒を見つけることも目的だったけど」
「それは、いいねえ。僕は何のサポートもしないよ。というか、幕が見えないんだ」
「オーケイ。じゃあ、俺が見えにくいようにオーラを纏って行くよ」
広場に着くと凄い人だかりで前が見えなかった。
「なるほど。これでオーラが青だって設定しているのか」
「どこからその情報が?それとどういうことだい?」
「情報は昨日ホテルで。それで青に設定している理由だけどおそらくシックスセンスをただの浮遊と思わせるためだと思う。丁度、終わるタイミングでスタミナ切れを狙ってるんじゃないか」
「なるほど。でも、他に仲間がいる可能性もちゃんと考慮しなよ」
「そうだな」
うぉっ、わあああああああああああ!
「凄い歓声だなあ」
「だね。とりあえず僕は楽しんでおくよ」
空中に浮かんだキララは観客を見回した。空中に浮かんだのは龍人だからだ。今キララはオーラを青に見えるように欺いている。他にもこれだけの客を集めるのに結界を引いてここに来るように欺いた。後は角が見えないように欺いた。キララにとって欺くというのは意識をキララの都合通りに変えるということだ。そして、見回した観客の中にサルシアを見つけた。
わっ、あの人、黒の人だ。でも、国に仕えている人には興味ないのよねえ。それに…。
「さてと。ようこそお越しくださいました。見ての通りオーラが青色で時間も余りありませんのでどんどんマジックしていきますね。まずはこちらのペットボトルの水。ひっくり返しますね。はい。見ての通り零れます。が、今から私が念じるだけで水が零れなくなります。でも、皆さんの応援が欲しいなあ」
「「「「「頑張れえーーー」」」」
地面が揺れた。サルシアも叫んでいた。
ツリトは黙ってその様子を見ていた。ツリトはキララが欺いている全てを自分だけ対象外になるように糸を斬っていた。そのため、ツリトの見ている景色は違っている。
あの女、角が生えてやがる。浮いていることから考えて龍人か。そんでオーラは黒だ。綺麗に流れて纏っている。今も蓋を閉じてやがる。でも、こんなに大量の糸がたくさんの人と繋がっているのは凄いな。それも太すぎず細すぎず。いいバランスを取ってやがる。
人と繋がる糸はシックスセンスの影響も見える。
「応援ありがとう。じゃあ、行っくよー。三、二、一、じゃじゃーん」
「「「「うぉーーーーーーーー」」」」
「じゃあ、どんどん行っくよーーー。次はこのペットボトル。今、半分しか入ってないよねえ。それを蓋も開けずにこの水を入れるよお。しかも混ざらないから見ててねえ。また皆の応援が……」
一人、欺けていないわね。後でゆっくり話そう。顔は悪くはない。少々、いや、かなり目つきが悪いけど実力は確かなはずだから。ん?あの目つき、最近見たような…。あっ!最近、旅に出た黒のツリト。兄さんが度々見に行ってた。そっか。ようやく。うん。これから絶対一緒にいよっ!
キララはその後、五個ぐらいマジックをして、体力切れを演じた。
「良かったらチップくださあい」
続々とチップをお互いのスマホを触れあって貰って行った。今日もたくさんゲットしている。次々にゲットしていきスーツ姿の男がまた来た。
チッ、またか。すぐ後ろにツリトがいるのに。
「今日も良かったよ」
「ありがとうございます」
「で、どうだね、考えてくれたかい?バウバウ家に来ないかい」
「何度も申し上げましたがそのつもりは全くありません。後ろが控えていますので」
「分かった。また来るよ」
「あの凄かったです」
「ありがとうございます。わっ十万も!ありがとうございます。えっと二人分ですか?」
「いえ、これは僕の気持ちです。隣の彼はまた別で払いますよ」
「そうですか。ねえ、キララのショー、良くなかった?」
ツリトはキララの角に触れた。
「キャッ。頭に触れようとしましたね。残っててください」
「はあ?」
「すみません。僕が責任持って説教しますから勘弁してください」
「いいえ、いくらあなたがあのサルシアでも、キララは許しません。次がまだ控えているので後ろで待っていてください」
「はい、ほらっ行くよ。ツリト」
ふふう。これでゆっくり話す口実ができた。向こうから仕掛けてくれるなんて。
「大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」
チップをゲットし終えるとキララは結界を解いた。そして、後ろで二人仲良く悪い笑みでキララを見ていた。
「あの時はどうも。スマホの調子はどうだい?」
「なるほど。ツリトが解いたのね」
「おう。それでキララ、どうして、こんな詐欺をやってるんだ?」
「詐欺?何を持って詐欺と?キララはちゃんと持てる力を使って観客を楽しませてるよ。チップは無理やり払わしていないしね。現にチップを払わずに帰った人もまあまあいたでしょ?」
「確かに素晴らしいものは見せているからいいか」
「僕もツリトに賛成かな。それでキララ、どうして僕を欺いたんだい?」
「それは、いくら黒でも国に仕えている男には興味がないのよ。その点、ツリトは好きだよお」
キララはツリトの腕に抱き着いた。そして、今まで気付いていなかったことに気付くことになった。
うわっ、胸デカっ。角に、顔に目が行って下を見てなかった。
実は昨日、情報を見ていた時に写真があって顔も見ていたのだ。顔は相当な美少女で可愛い系だ。ツリトがここに来る一つの理由にもなっていた。
「おいっ、ツリト。君にはカナさんがいるだろう。今すぐ離れるんだ」
「カナさん?もしかして、カナ・カナヤのこと⁉付き合ってるの?」
「なあ、何か面倒臭い展開になってない?サルシア、逃げようぜ」
ツリトはキララから離れようとしながらサルシアに話しかけた。が、キララの腕から逃げ切ることはできなかった。
「さすが龍人だ。しかも黒か。これは僕でもどうすることはできないかな。キララ、これからどうしたいの?」
「キララはこのままツリトとずっと一緒にいるよ。黒で自由な男ってツリトぐらいしかいないでしょ」
「それはつまり?」
「ツリトはキララのフィアンセになってもらう。ツリトは旅をしているからすぐにハネムーンができるね。あっツリト。キララのシックスセンスを破った方法でキララから放れようとしたらツリトの気持ちを欺かせるよっ。もちろん、サルシアが何かしてもダメだからね」
「ツリト、写真を撮ってグループに流す?」
「カナさんに見せてどうするんだ」
「きっとツリトを殺しに来てくれるよ」
「俺が死ぬんじゃ意味ないだろうが!」
「はははっ。さてどうしたものか。今のところ犠牲になるのはツリトだけだし何もしないでおくか。ちょっとごめんね」
サルシアは白色のオーラを纏ってキララの気持ちを確かめた。
好き、大好き。絶対に放さない。
マジか。本気で言ってる。
「はあ。とりあえず、王様に伝えて来るよ。二人でラブラブしていてくれ」
「逃げるなあ!逃げるな薄情者!逃げるなあ!いつだって騎士は困ってる人を助けるんじゃないのかっ!」
「バイバイ」
「てめえ」
サルシアは消えた。瞬間移動したのだろう。
「諦めてキララの旦那さんになりな」
「いや、そもそも何で俺が好きなのさ?」
「乙女に聞くう?いいよっ。教えてあげるっ。キララは龍人でしょっ。最近まで天空にいたんだけどいっつも兄さんしか地上に降りてなくてさ。持って帰って来る情報はいつもツリトって少年はヤバいって言うの。兄さんのシックスセンスはポテンシャルとか可能性を見る力だからホントにそうなんだろうなあって思ってさ。ずっと気になってたんだよね。兄さんが認めるその才能を。それがツリトを知っていた背景。で、好きな理由は顔が思っていたよりタイプだったことと乙女の心として自分より強い人と結ばれたいから。乙女にこんだけ言わせたんだからツリトもキララの好きなところを言ってね」
「マジか。思っていたより理由がちゃんとあった。もしかして欺いてる?」
「もう、次疑ったらキスするよっ」
「ゲッ。はあ、好きなところ?それはないか…、痛い痛い痛い。えっとねえ」
頬を膨らませているキララの顔を見た。髪は水色っぽい銀髪で肩まで生えている。目は大きくて透明な茶色だ。顔が丸っこいのが子供っぽさを出している。そして、角は二本、顔の大きさほど生えていて金色だった。体つきは余り見えないが引き締まっていて筋肉もあるように見える。が、密着している体からは柔らかさを感じるし胸がデカい。
「うん。普通に可愛い。でも、何歳?」
「二十歳だけど?」
「そうかあ。逃げ道がない」
「何言ってるの?これからキララたちはずっと一緒だよっ」
「はあ、これは中々に厄介だ。とりあえず昼ご飯食べる?二時だけど」
「うんっ!」
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