第15話 お部屋へGO

「大きな声が聞こえたし、大丈夫かなって」


「あ、あの、その……」リガッタはなんといっていいやら、ふわふわと言葉を口の中で吸っては吐いた。


「でも、よかった。とりあえず元気そうで。ブギー先輩にはあれ以上、ひどいことはされてない?」


「だ、大丈夫です。それより、先輩は……」


「おれは平気。慣れてるからね」そう言って彼は笑顔を作る。


「そんなことより、君は大丈夫? 実は管理人さんから面倒を見てやってくれ、って言われてね。おれに出来ることがあったら言ってほしい」


 この学園は地獄であったが、それでもいい人はいる。そう思った。主に寮の管理人さんであるが。


 リガッタは返事に迷っていた。そもそも、カナンに対しては大変世話になっている。加えて、今の自分の現状をどう伝えればいいのか。


「確か、シャワーが壊れてるんだよね。よかったら、一緒に大浴場に行こうか」


「え? いいんですか」


 リガッタは思わず顔を上げた。見上げた先、威張るでもなく蔑むわけでもなく、ただ当然といった表情でいるカナンがいた。


「一人じゃ行きずらいでしょ。特に初めてだと。案内するよ」


 そういって、彼は自然にリガッタの肩を叩き、廊下に出るよう促した。有り難い申し出。自分が本当に男だったら、この先輩にずっとついて行ってしまったかもしれない。


「で、でも! 大丈夫です! お気になさらず!」


 リガッタは大声を出し、部屋に戻った。そして、ドアを閉める。だが、ごん、と鈍い音がした。振り見ると、ドアに靴が挟まっている。当然、カナンのものだ。


「でも、心配だから。不安そうな顔をした誰かを見捨てるわけにはいかない」


 なんというお節介な男か。リガッタは眉間に皺を寄せる。


「大丈夫ですから!」ついリガッタは大声を上げる。


「じゃあ、もしも、そのシャワーがすぐに直ったら?」


 すると、急に耳寄り情報がリガッタに飛び込んできた。


「直るんですか?」そう言って、つい振り返ってしまった。ドアの隙間から目が合う。


「うん、何とかなると思う。だってシャワー使えないの辛いでしょ。この学校、やたらと汗かく機会多いし。この先も困るだろうから」


 なんとなく枯れたような笑顔を浮かべ、カナンは頭を掻いて目を反らす。


「はい。もう今日だって汗だくで大変でした」リガッタはついつい、カナンの言葉に同意した。すると、にゅっとドアの向こうからカナンの手が伸び、リガッタを掴んだ。


「じゃあ、僕の部屋に来なよ。シャワーぐらい貸してあげるからさ」


「え、そういうこと?」


 リガッタが目を丸くしている隙に、彼はぐいぐいと手を引き、リガッタを自分の部屋、即ちリガッタの隣のドアを開けて中に引き入れた。

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