第6話
「さて、今回集まってもらったのは次の仕事に関してだ」
「分かってるわよ。何をすれば良いの?」
一晩たった午前8時。俺達第4部隊は第1会議室にて、天城少佐からの話を聞いていた。
「1週間後、お前達には海軍と共に石油リグの再稼働をしてもらう。場所はアメリカ合衆国メキシコ湾、ペトロニアス・プラットフォームだ」
やはり海上戦か。少し予想は外れたが、やる事は変わらない。
「手元のモニターを見ろ…… 先日無人偵察機にて撮影されたペトロニアスの様子だ」
目の前に付けられた小さめのモニターに映像が流れる。青い海にある巨大な建築物を写した映像だ。
「そして、これが魔力を観測した映像だ。見ての通り、石油リグ内部には侵食体がいない。勿論細部まで完璧では無いため、何処かしらには隠れて居るだろうと思われる」
「つまり、その内部の安全確保が仕事って事?」
「そうだ。それが第1フェーズ。その次第2フェーズは技術者を乗せた海軍の戦艦1、重巡洋艦2、軽巡洋艦1、輸送艦1、対空巡洋艦1の編成で降下する。お前達はその艦隊と協力して石油リグの防衛をしてもらう」
中々に豪華だな。そこまでしてそのメキシコ湾の石油リグを再稼働させたいのか。現在稼働している場所だけじゃ足りないって事だろうが……
「少々過剰すぎませんか?大型を想定しての編成なのは理解出来ますが、数が多い分集まりやすくなる。そのリスクを負うほどのリターンがその石油リグにあるのでしょうか」
「それは、知らんとしか言えん。少なくとも私は無いと思っている。今回のこの作戦はヴェルトの資源確保の為と聞いているが、正直怪しい。何かしら隠していると思われる」
「何それ、信用出来ない相手を守れって?何かしらの兵器を隠してるとして、後ろから撃たれるとか勘弁なんだけど」
「多分それは無いんじゃないかな?僕達を巻き込んでの兵器になると、艦隊にも被害が出るだろう。そうするとは考えにくい。軽巡や輸送艦はまだしも、戦艦と重巡を失うのは今の海軍にとって痛手すぎる」
「それは私も同意ですね。魔装を装備した皆さんに被害を出すとなると、少なくとも重巡級の火力が必要となります。魔力を使わない攻撃はフィールドで軽減出来ますし、魔力を使って来たとしても対魔力シールドで軽減できます。貫通せずとも、その威力となると確実に被害が大きくなるでしょう」
ニーナの予想は俺達を処分する前提みたいな感じだが、それこそ無いだろう。あり得るとしたら巻き込むのを前提の兵器だろうが、護衛が基本なら俺達は艦隊の周りを守る事になる。つまり、俺達を巻き込む程の威力だと、艦隊自体に影響が出る。そこまでするとは思えない。
まぁ天城少佐に詳細が来ない時点で何かしらは隠し事をしてるのは確定だ。警戒しておいた方が良いだろう。
「そういう事だ。取り敢えず海軍は今の所敵では無い。話を続けるぞ。第2フェーズは艦隊と共に人の気配に反応して襲ってくる侵食体からの防衛。その後第3フェーズは無人状態での稼働実験のテストだ。確認が終わり次第撤退。お前達には海軍が技術者達を回収し、上空の安全圏付近に行くまで海上と上空で侵食体を引き付けてもらう」
「質問を良いでしょうか」
「なんだ」
「内容からして、私たち第4部隊のみで足りるとは思えません。バッテリーや活性剤があれば魔装と魔力は問題ありませんが、体力的に休み無しは無理です。そこはどうお考えですか?」
作成内容は護衛と防衛。場合によっては大型の侵食体が絶えず襲ってくる可能性がある。そうなると、いくら海軍の援護があったとしても無理がある。しかも1日で終わるとは思えない。
「今回のこの作戦。第1フェーズから撤退までは3日間を想定している。石油リグの安全確保と技術者の作業開始が初日。無人状態のテストが2日目、3日目に撤退と言う予定だ。そしてお前達だが、大型侵食体が集まってくるのは早くて2日目の午後からだろう。中型までは海軍のみでの対応が可能なため、それまでは休息となる」
「周囲の索敵状況はどうでしょうか」
「今の所問題は無い。小型と中型はそこそこいるが、大型は殆ど確認出来ていない。その為お前達のみで問題ないと判断した」
周囲の大型の反応も少ないのか。ならまだ何とかなるか?2体以上来たとしても戦艦と重巡で抑え、その間に順番で討伐すればいい。問題があるとしたら、水上戦がやりにくい事と、侵食体が潜る可能性もある事か。そうなったらシリルの出番だな。
「了解しました」
「他に何かあるか」
「緊急事の優先順位は?見捨てていいのか死んでも守るのか、それで結構変わるんだけど」
「可能な限り守ってほしい。だが、そこは現地での判断に任せる。お前達をここで失うのは大きすぎる。自分の命優先で行動しろ。結果海軍や石油リグに被害が出ても良い。責任は私が持つ。クビにならない程度で手加減して欲しいがな」
「だってさ、アラン。責任重大だね」
シリルの言う通りだな。撤退の判断は隊長である俺にかかっている。下手な判断をしないように気を付けないとだ。
「他に何かあるか……ないなら次だ。今回の作戦は最低でも72時間の作戦になる。そのためバッテリーは予備も含めて一人30個となり、魔装には外付けのバッテリー交換をする機械を取り付ける。少し機動力が落ちるため注意しろ。それから活性剤は申し訳ないが一人40個となる。魔力も活性剤も計画的に使え」
かなりの大荷物だな。いつもの無人輸送機だと厳しいだろうから、おそらく中型魔装輸送機になるんだろう。あれなら機動力を落とさずに飛べるし、戦闘機動もとれる。もしかしたら戦闘機かもな。海上戦はいつもの靴だろう。なんだったか、小型のスクリューが両足についていて、その推進力で水上を進むらしい。方向転換用の舵も付いていてそれで進行方向を調節できる。原理は思考から魔装に伝わる電気信号を伝達しているらしい。浮かべる理由はわからん。魔力を使って何かしているらしい。
外付けの機械と靴はサラが要注意だな。下手に突っ込んで制御できないってことにならないといいんだが。
「了解」
「わかってるわ」
「はぁ……私が一番心配なのはサラなんだがな」
「なんでよ」
「サラがすぐに突っ込むからでしょ。閉所と海上での訓練しないとね」
閉所はともかくとして、問題は海上での訓練が基地じゃできないことだ。人工的なME細胞で浸食体や草木を作り出すことは出来るが、水はつくれない。専用のプールでもあると良いんだが、浸食体を制御できる施設は中々作れないらしい。
「そこまで馬鹿なイノシシ女だと思ってんの?」
「大差ないと思うけどなぁ」
「OKシリル。あんた喧嘩売ってんのね。後でぶっ飛ばしてあげる」
自業自得だな。シリルは胸ぐらを掴まれながら俺の方を向いて何やらウィンクして来るが、俺は当然無視する。何だろうか、助けろかサラをフォローしろって事か?なんにせよ無視だな。触らぬ神に祟りなしだ。
「あー、原因を作った私が言うのもなんだがサラ、その辺にしておけ。殴るなら会議が終わった後だ」
「ふん」
「殴られるのは確定なんですね……」
「今のはシリルさんが悪いですよ。ごめんなさいしないと」
ニーナの言う通りだな。例え事実でも、言っていいことと悪い事がある。まぁなんかわざと言った雰囲気だが、口に出したのが悪い。大人しくぶっ飛ばされてくれ。
「話を戻すぞ。これから5日間は閉所での戦闘訓練、水上機動訓練、空中戦闘訓練。この3つを主にしてもらう。時間が余れば、今まで通り殲滅戦の訓練もな。残り1日は海軍と技術者を交えた合同会議となる。その後準備し、ヴェルトから出撃。翌日現地時間0時きっかりに作戦開始だ」
「「了解」」
これから忙しくなるな。しばらく暇にしてたからそのしわ寄せか。
だがまぁ、仕方ない。ヴェルトは資源不足だからな。地上に降りないと確保出来ないため、回収ポイントは多ければ多い程良い。無人なら基本襲われる心配もない。
とにかく、死なない程度に頑張るか。
天城少佐から話を聞いてから一週間が経った。閉所での戦闘や空中戦、水上機動と順々に訓練したが、やはりサラが中々に苦戦した。完全な初めてでは無いが、機会が殆ど無いからな。目立ったのはサラだったが、俺とシリルも体が思い出すまでそこそこ手間取った。
だが必死に訓練したかいあって特に問題は無い。懸念点があるとするなら、水上戦闘だがこれに関してはどうしようも無い。実戦で慣れるしかないからな。
「アラン、もう少しで時間だよ」
「あぁ、分かってる」
俺達が今いるのは今回の艦隊の旗艦、モンタナ級戦艦「モンタナ」その甲板だ。既にヴェルトからは出発しており、今はメキシコ湾の石油リグ上空を目指して艦隊で暗い雲の上を飛行している。
「あと30分か…… 戦闘機の所に行こう」
「そうだね。サラはとっくに戦闘機に乗ってるよ」
今回はバッテリーに活性剤と中々に大荷物だ。そのためいつもの小型無人輸送機ではなく、中型に分類される「魔装戦闘機 試製YFM-27 ライトニングⅤ」に搭乗する。魔装専用の戦闘機として開発され、空中戦や移動、多少の物資輸送にも役に立つ優れた機体だ。いつもと違うのは俺たちが操縦しないといけないことだな。自動飛行もできるが、戦闘は俺達の手でやってやる必要がある。
兵装は25mmガトリング砲2門、空対空ミサイル4発、空対艦ミサイル2発となっている。本当なら爆弾とか積めるらしいが、今回はそのスペースをバッテリーが使っている。兵装だけ聞くと普通の戦闘機にも感じるが、この戦闘機は弾がなくなってからが本番だ。ガトリング砲の弾が無くなった場合、搭乗者の魔力を使って弾を作ることで戦闘を継続することが可能。勿論弾切れでなくても切り替え可能だ。まぁ基本は魔力を温存するため奥の手だな。後は魔装と同じように対物理フィールドと対魔力シールドを発生させることが可能となっている。弾切れの継続戦闘能力より、こっちのほうが正直ありがたい。
ちなみに降下の際はコックピットの床が開いてそのまま落下する仕組みになっている。そのため、降下時にすぐに体勢を整えられるように半座位のような姿勢で操縦する。
「そうか」
甲板を歩き、カタパルトに装着されている戦闘機を目指す。
「さてさて、どうなるかね」
「どうなるも何も、訓練通りやるしかない」
「それはそうだけどさぁ。艦隊司令官はいい人そうだったけど、何処まで信用していいのやら」
「信用するしかないだろう。何かあったら助けてくれるらしいしな」
海軍の艦隊司令官とは昨日と先程顔を合わせてある。話した印象は冷静で落ち着いた人。慎重に事を運ぶタイプに見えた。それから、軍のお偉いさんにしては珍しく俺達を人として扱っている。
そして助けてくれるというのは、どうも秘密兵器があるらしい。天城少佐とサラの感が当たったな。つまりなにか緊急事態、俺達魔兵や艦隊の通常兵器では太刀打ちできない相手が来た場合は使用するらしい。その時は俺達が確実に艦内に避難してからと約束もしてくれた。
と言っても、使用するスイッチは海軍がもっている。俺達が避難しなくても撃てるから、信用がどうこうとシリルは言っているのだろう。それに関してはどうしようもないから信用するしかない。一番はそんな状況にならないことだがな。
「よし、乗ろう」
「あぁ」
カタパルトにつき、自分の戦闘機に搭乗する。コックピットの中は普通の戦闘機と違い、かなり簡素になっている。魔装と接続することで戦闘機とリンクし、自動でいろいろとやってくれるからだ。というか、そうでないと俺達が訓練も勉強せずに飛ばせるわけがない。
『遅かったじゃない』
「すまん。甲板で外を見ていた」
戦闘機に乗り魔装と接続したことでエンジンが掛かり、通信機能なども起動したためサラから通信が入る。
『別に謝ることはないけど。それより、良かったわね。見たいって言ってた海じゃない。それに星空も見られるわよ』
「こういう状況では望んでなかったんだがな」
『贅沢言うんじゃないわよ。見られるときに楽しんでおきなさい』
『サラの言う通りだね。次いつこんな作戦があるかわからないんだ。堪能しておきな』
それもそうだな。今の時世、地上に降りられるだけ俺達は恵まれているといえる。普通の人はまず見られない景色だ。シリルとサラの言う通り贅沢言っても仕方ない。
──『皆さんの戦闘機への搭乗を確認、システムに問題はありません。通信環境はどうでしょうか』
『お疲れニーナ。私は問題ないわよ』
「俺も問題ない」
『僕も大丈夫だよ』
──『ありがとうございます。では続いて今回の作戦内容を振り返ります。まず第一フェーズにて──』
今回は天城少佐がこれなかったのか、ニーナが改めて作戦内容を言ってくれる。
──『以上が今回の作戦になります。また、魔装に装着できるバッテリーは4つが限度です。そのため、12時間に一度は戦闘機からバッテリーの補充を行ってください。何か質問はありますか?』
「目的地の状況はどうだ」
──『はい。今の所は特に異変ありません。と言っても、無人偵察機では浅い部分しかわかりません。詳細は艦隊が着水してからのソナー及び電探が正確かと思います』
ふむ…… 上空にいないならそれでいいか。石油リグに行くまでに襲撃されると面倒だからな。なるべく無駄な戦闘はしたくない。
自分が珍しく緊張しているのが分かる…… 慣れない環境での戦闘と初めての72時間以上の作戦。無理もないか。落ち着け、シリルの良く言う何とかなる。それを意識しろ。全員無事に帰れるように、俺がまず冷静にならなくては。
──『発艦ポイントまで残り5分です』
魔装兵器 エルピス わっさーび2世 @wasabi11221
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