第7話 力
「……ル! ……ウェイテル!!」
「…………セラン?」
「身体は!なんともないか?」
「…………ああ……」
人型のセランに頬を軽く叩かれて意識がはっきりしてくる。
「ローレンス王と話した……」
「ラリーと? 愛し子の置き土産はどうなった?」
「……分からない。けど、もう目眩はしない」
「風魔法は!」
俺の両肩を強く掴み、セランが風魔法を発動してみろと言う。
言われた通りに体内の魔力を巡らせて風魔法を試みる。
「スキュード・ヴィーテ〈蔓の盾〉」
「うおっ!」
風属性の防御魔法を使うと、セランが壁に吹っ飛んで行った。
周りのみんなもセランほどではないが元に居た位置から吹き飛ばされてしまったようだ。
「セラン!大丈夫か!」
「やりやがったなぁ……」
「ごめん、いつも通りの防御魔法の筈だったのに」
「なるほどな……」
セランに駆け寄って身体を支え、立ち上がるのを手伝う。
「……どういうことだ?」
「それがお前に与えられた“土産”ってわけだ」
「ローレンス王からの、置き土産……」
「恐らく、魔法の威力が強化されたのだろう。風属性以外も強化されているかは分からないが」
「そうか……でも、よかった」
「ああ、魔法の威力が上がるのはなかなか良い」
「そうじゃなくて。……セランとまた一緒に空を翔べるだろ」
セランは俺の言葉に目を丸くして、細めた。そうだな、と言ってはにかみながら俺の頭を掻き回すように撫でる。
そうだ、他の二人は大丈夫だろうか?
二人は父さんとイーゼンに身体を見てもらっているようなので、駆け寄る。
「みんな、ごめん!風が強すぎた」
「いやー、びっくりしたぞ?」
「本当よ。今度からはちゃんと加減してよね」
イーゼンはハッハッハ!と豪快に笑って俺の背を強く叩いた。レイルは乱れた髪を纏めながら俺に釘を刺してくる。
「レイル!古語は?」
「読めるようになったわ」
「よかったぁ……」
「ふふ、お互いにね」
レイルが再び古語を読めるようになって心底安心した。
レイルの横で父さんがさっきから泣きっぱなしだ。
「父さん……」
「ごめんなぁ……っ、二人が心配で心配で……」
「もう、大袈裟なんだから」
「アーティルは二人のこととなるとだめなんだよな」
人型のディアノが父さんの後ろから頭を撫でている。こんなふうに心配してくれる人がいるのは、嬉しい。心配ばかりかけていてはだめだけれど。
「ウェイテル〜!」
「フェンデ!よかった!声が!」
「すっかり元通りだよ〜」
「うわ〜んっ、フェンデの声が戻ったよぉ、よかったぁ」
「トゥーリも心配させてごめんよ」
トゥーリに思い切り抱きつかれ、フェンデが黄色の羽根に埋もれている。えぐえぐ、と泣きじゃくるトゥーリを身体全体を使って慰めている。
これで三人とも失ったものを取り戻すことができた。まだ俺以外の二人はどんな能力に目覚めたのか分からないが、今は元に戻れたことが幸いだ。
ほっとした俺は、もう一度ローレンス王の寝台の前に進み、跪いた。
「…………ローレンス王。約束は果たします」
「どうか、ゆっくりお休みください」
俺の横にレイルが来て、ともに別れの言葉をかける。まだ王の死を知らぬ民たちは、これから失意の底に沈むだろう。力のない俺にできることなんてたかが知れている。けれど、できることを増やす努力を惜しまないと王に誓う。
きっとそれは、母さんからの言葉にも通じるものだろう。
「お三方とも、無事に力を取り戻すことができたようですね」
「本当に、協力してくれてありがとう、ジェライド」
「ありがとうございました」
ジェライドさんも安堵しているようだ。父さんが改めてお礼を伝えると、ゆるく首を左右に振った。
「これも、王の御意志なのだと思います。本当に、尊いお方です」
優しい言葉と裏腹に、眉間の皺は深く刻まれている。
「……目的の一つは果たせた訳だが、二人とこれからの動きを相談したい。もちろん王子達とも」
「…………」
「どうした?」
イーゼンの問いかけに、口を開いて、また閉じるジェライドさん。まさか、と最悪の事態を想定したブレアニエの面々の背中が凍る。
「ブレアニエにはありのままを話した方がいいだろ」
「何があった、ホルスト」
ホルストさんがジェラルドさんの肩に手を置く。イーゼンは焦ったように事情を問う。
「……第一王子は王の死と同時に、病に臥せたのだ」
「なっ……!」
「第二王子は!?」
「幸いご無事だ。今も第一王子のそばについていらっしゃるだろう」
「そんなことになっていたのか」
第一王子、フォスナー・ヴァケル様。第二王子、ロレイグ・ヴァケル様。直接お会いしたことは数回ある、と言っても遠目からお見掛けしただけだ。
特にフォスナー様は文武両道、家臣や民からの信頼も厚く、ローレンス王からも次期国王としてすでに指名されていた。ブレアニエでもその人徳や人柄が有名だ。そんなお方がなぜ…………。
「……病と言っても、薬が効く類のものではないようなのです」
「なるほど、呪いか?」
「ハーツ?」
「城に近づくにつれて感じておったが、まさか第一王子だったとはな」
バサバサッと羽根を羽ばたかせ、ハーツはイーゼンの肩に止まった。それにしても、呪いってどういうことだ?
「呪いであれば薬が効かぬのも頷けるじゃろうて」
「……おっしゃる通りです。国家魔術師たちも血眼になって解術方法を調べておりますが…………」
「現状、手立ては見つかっていないんだね」
「…………はい」
ジェライドさんの顔色の悪さは、王の崩御だけでなく、フォスナー様を助ける方法を寝る間を惜しんで調べていたことも影響しているようだ。このままだとジェライドさんまで倒れてしまいそうだ。
「わしに第一王子の容体を診させてもらえぬか」
「貴殿は……」
「こいつはハーツ。郷でも年長の類で、治癒魔法が得意なんだ」
「ざっくりとした説明じゃのう……わしの能力はそれだけじゃないんだが……」
「……是非とも……っ」
イーゼンのざっくばらんな説明にハーツが目を細めた。ジェラルドさんは藁にもすがると言った様子で、俺たちを第一王子の寝室へ案内してくれた。
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