第4話 再会
大魔王としての役割を果たすべきかどうかを決めるため、人種族の生活をこの目で確かめることとした俺は、街の手前まで来た。
俺は、王都ファクトリオスの中へと通じる大きな門の手前で足を止め、大きく深呼吸をした。
そして、商人の姿に変身してもなお溢れ出る闇の魔力を、意識してゼロにまで落とした。
そうしなければ町中に張られた結界でこの身を焼かれてしまうからだ。
完全に魔力を抑えた俺は、意を決し恐る恐る門をくぐり、街の中へと足を踏み入れた。そして、自分の手のひらを見つめながら、体が熱くならないことを確認した。
大丈夫。
一安心し、ふと我に返ってあたりを見渡すと、そこには活気で満ちた街並みが広がっていた。
すると、護衛として付き添っていたポームが、俺に話しかけてきた。
「なんと賑やかな街並みですこと。人種族はこれほどまでに豊かな生活をしているのですね、兄上!」
「ポームはここへは初めて来たのか?」
「ハイッ!街どころか、物心ついた時から魔王城周辺から一度も外へ出たことが無いものでして。人種族の街の景色はとても興味深いものです」
目を見開いてキョロキョロするポーム。
俺も奈良の田舎から出て、初めて東京の地に足を踏み入れた時はそうだった。あの時の高揚感と似たようなものを感じているのだろう。それに、彼女は魔人と人種族とのハーフ。もしかしたら彼女も俺と同じように、魔族として生きるのか、人種族として生きられるのか、それを探っているのかもしれない。
「いずれはこの地も、兄上のお力で滅ぼされる事になるというのに、呑気な人種族どもですね。苦しみもがく姿が楽しみですわ。うふふ」
ち、違ったー。前言撤回。完全に魔族として英才教育を受けておられるのですね。そりゃあそうでしょう。あの出陣好きな側近ビニルのお孫様ですものね。はい。
俺とポームは武器屋、雑貨屋、花屋、菓子屋などを回り、人々と会話をしながら彼らの生活様式や価値観を見聞きして回った。
結果、一人一人が目的や生きがいをもって行動し、活力を感じる。
その反面、暗い影も感じた。
魔王が封印されたこの世界は今、7つに分断され、資源や食料をめぐる戦争が起きている。
おそらく、大魔王が封印され、人種族が一丸となる機会がなくなったことによるものだろう。
様々な職業や立場で意見が割れ、戦争や貧富の差による差別もあるようだ。
豊かになりすぎた今、人々が持つ底なしの「欲」ってやつがそうさせているのか?
ビニルが言っていた、愚かな種族だという意味がわかるような気がする。
やはり俺は、魔王として生きていくのがいいのかもしれない、、、
グゥゥー
「す、すみません兄上。はしたない音を立ててしまいました」
「俺も腹が減ってきたから、昼飯でも食べようか?」
「はい!」
ちょうど近くにあった定食屋へ入ると、大柄で
どうやら一人できりもりしているようだ。
「らっしゃい!空いてる席に座ってよ。ここじゃ見ない顔だね。その姿を見ると、旅の商人さんかい?」
「あっ、はい。メニュー表はありますか?」
「申し訳ないが日替わり定食一つしかないんだ。今はほら、隣国と戦争中ってんでロクな食材が入手できない事に加えて、干ばつで農作物が少ないんだ」
「わかりました。では日替わり定食2つください」
「あいよ!」
女将さんが厨房へ入ると、調理を始めた。
トントントントントントントントン
包丁で何かを切る音だろうか、小刻みで心地よいリズムの音が聞こえてくる。
しばらくして、テーブルに運ばれてきた食事は、海鮮丼で、磯のいい香りがした。
「この街は港があるから新鮮な魚介類が手に入るんだ。横にあるこのナメロウはうちの名物だよ。召し上がれ」
はたして異世界の魚介類とはどのようなものなのか。ナメロウとして、元の姿が見えないのはいいことなのかもしれない。俺は目の前のそれを恐る恐る口へ運んだ。
うまい!
限られた食材で作ると言っていたから期待はしていなかったが、ここまでおいしいとなると、色々な食材が流通していれば他にもおいしいものがたくさんあるってことか?この世界の楽しみができたぞ。
「兄上、モグ、これは実に、モグ、美味でございますな、モグ いくらでも食べられそうです。モグ。魔王城で毎日食べていた、継ぎ足し昆虫煮込みリゾットよりも美味でございます」
魔王城、あそこはそれしか食べられないのか?絶対無理だ。人種族のコックに求人出して、高待遇で働いてもらおうか。
俺たちがちょうど食べ終わった頃、甲高い罵声が店内を響かせた。
「おいコラ!メシの中に髪の毛が入っているじゃねーか!どーなってんだ?!」
隣の席に座っていた二人組の男の片方が、奥の女性店員に聞こえるよう大声で叫んだ。
どこの世界にもいるんだな。こういうヤカラ。お代無料が目的か?地上げが目的か?
女性店員が怪訝な顔で奥から出てくると、眉間にしわを寄せて言い返した。
「アタイは帽子をかぶってんだから、そんなはずはないよ。それにアタイの髪は赤毛だけど、その手に持っている髪は白じゃないか」
「うっ、うるせー!とにかく、髪が入ってんだ!詫びろー!俺は商店組合長の息子だぞー!こんな店、潰しててもいいんだぞ!」
「そうだ!ペイパぼっちゃんは今、
ただの憂さ晴らしか。この世界最強の俺ならすぐに助けられるだろうが、闇の魔力を使ってしまうと焼き殺されてしまう。
「ポーム。女将さんを助けてあげられるか?」
「え?恐れながら申し上げます兄上、本気ですか?私がやつらを蹴散らすのは造作もないことですが、人種族ごときのいざこざに介入するのですか?」
確かに、ここであまり目立つのはよくない。それに、俺は魔王として生きていこうとしている。
俺の中の善悪の判断や道徳心を変える必要があるのかもしれない。
、、、、、、、、、
ここはお代を机に置いて立ち去ろう。
「店を出よう、ポーム」
「はい、それが良きかと」
傍若無人な男たちに必死で言い返す女将さんの声を背中で聞きながら店を出た。
なぜか心が晴れない。しこりが残る形で店を出た俺は、まだ日没まで時間はあったが、魔王城へ戻ることとした。
♪キッチリ カッチリ 細かい性格なわけじゃない♪
幻聴か?
前の世界で推していたアイドルの歌が聞こえてくる。
落ち込んだ時はよく聞いて、元気もらってたっけ。
前世にまだ未練があるのかもしれない。
♪そんな私の描いた図面♪
そうそう、この曲はAメロからBメロへ移る時のメロディーが奇麗なんだよな~。
っていや!はっきりと聞こえるぞ!?どういうことだ!?
あたりを見渡し歌声の聞こえる方向へと駆けていくと、、、
あ、あ、あ、アルミルッ!!??
そこにはなんと、俺が前の世界で推していた『メータルンバ』のメンバーであるアルミルこと、
=========
~公差ゼロの夢~
歌:メータルンバ
キッチリ カッチリ 細かい性格なわけじゃない
ムッチリ モッチリ パンケーキが好き
そんな私の描いた図面 誰にも 手直し させやしない
決まった画角はみ出して 決まったルール取っ払って
あみ出した記号をちりばめ これが私の描いた夢よ
百万分の1ミリだって 譲ったりなんかするもんか
かたくななワケじゃない これは信念
描いた夢をスイスイ推進する つまづいたってそれも描いてますから
偽りなく自分を信じて 公差ゼロの夢
クッキリ ポッキリ 折れた心
ガッツリ グッスリ 食って寝りゃ解決
単純明快 座右の銘です 雨がやんだら作図再開
空にかかる虹 図面に落とし込んで
億千星にたった一つ 私にしか描けないの創れないの
百万分の1ミリだって 譲ったりなんかするもんか
特採なんて認めない そうよ即答
難しい図面を生み出しちゃったけれど やる気が出るのはどうしてなんだろ
鍛えて磨いてそこに行くの 公差ゼロの夢
推しと共に異世界転生。俺が魔王で推しが勇者!?立場がアレでも推し続けたい。 団田図 @dandenzu
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