第3話 偵察

 どんな世界かもわからないところで、大魔王として転生してしまった俺。

 とにかく今は情報が必要だ。側近のビニルとやらに話を聞こう。


「と、ところで、現在、我らの戦力構成はいかようだ?」


「はっ。現在生き残っている魔族についてご報告いたします。

 大魔王様が産み出された魔物が約30万体。そこからレベルアップし進化した魔獣が約6千体。さらにそこから超進化し、言葉を扱い意志を持つ魔人が私を含め13人。

 以上にございますれば、各地で息をひそめて大魔王様の復活をお待ちしておりました。いつでも攻撃命令をお出しください」


 多っ!案外多いな。本当に魔族は弱っていたのか?いや、それだけこの世界が広いってことか?それにこのビニルって側近は隙あらば攻撃命令を出したがりやがる。油断できんぞ。

 ただ、、、人類全員が同じ目標がないと人同士で争いが起きてしまうのはこの世界でも同じか。

 前世では推しにすべてを捧げてきたが、この世界では悪役の大魔王としてその役割を果たす人生ってのもアリか?


「さぁ!大魔王様の魔物をクリエイトするお力で魔族を増やし、人種族へ攻め入りましょうぞ!!」


 えっ?魔物って俺が産み出すの?どれ、ちょっと試しに、よっと。


 俺は体の前に人差し指を立て、その先に集中した、指の先端に黒く光る球体ができた。

 これが魔力?

 集まった魔力の球体を目の前の広い空間に投げた。


 ん?


 薄暗くてよく見えないけど今ので魔物が産まれた、のか?


「おおっ!!大魔王様!今しがた5万体の魔物が産まれ、各地へ駆けていきました」


 ご、5万?!1体のつもりっだったけど、魔族を12%も増やしちゃったの?恐るべし、俺。


「魔物の増員をすることで各地の魔族に大魔王様の復活が伝わり、士気が高まったはずです。さすが大魔王様」


 だから、そんなつもりは無いんだって。

 このままではビニルに言いくるめられ、大魔王として悪の道に進み続けてしまわないか。

 それに、今はビニルの一方的な意見しか聞いてないから、敵である人種族のことも知りたいが、どうしようか。


「ビニルよ、我は今の世界をもっとよく知りたい」


「では、各地におります魔人を集め、ブリーフィングを開きましょう。その後は大魔王様復活の祝賀会も盛大に行いましょうぞ。」


「いい、いい、いい、そういうのはいいから、我は自分の目で見たいのだ。素性を隠してこの世界で一番大きな街へ行ってくるぞ」


「それはなりませぬ大魔王様。

西の王都ファクトリオスは古代賢者の強力な結界魔法と聖女オイリーの加護で守られ、闇の魔力を感知すると対象者を聖なる光で焼き殺すよう仕組まれております」


「では、闇の魔力を抑えればよいのだな?それに、いずれはその王都も破壊せねばなるまい。結界魔法を破るための調査もしてまいるぞ」


「た、確かにそうですがそのお姿では、たちまち大魔王様だとバレてしまわれますぞ」


 ん?そういえば自分の容姿をまだ見てなかったな。


 横に置いてある鏡をのぞいてみるか、、、


 ぎゃーー!!お、恐ろしい。おぞましい。おどろおどろしい。ザッツ大魔王。そして巨体。

 こんな姿で街中をふらつけるわけがない。どうしたものか。


「大魔王様のお望みは全て叶えるのが側近である私の役目。どうしてもと仰られるのでございましたら、こちらの変転ゲートで人種族の姿に変身されてはいかがでしょう」


 おおっ!そんないいものがあったのね。もう少し小柄で周りから接しやすいって言われるような姿になろう。これで今後も自分自身に怯えず生活できそうだ。

 ひょっとして今の恐ろしい姿って、前任者の大魔王がこの変転ゲートを使って、望んでなった姿かもしれないしね。


「よし。それを使おう」


「御意。しかしながら、こちらの効力は日が昇っている間のみ。陽が沈みますと元のお姿に戻ってしまわれますのでご注意を」


 やっぱ違ったー。デフォルトでこの怖い姿だったー。ですよねー。

 でもありがたい。陽が沈むまでにお家に帰ればいいだな。。。小学生かよ俺は。


「では早速、、、」


「お待ちください。闇の魔力を抑え込んだまま人種族の街へ行かれ、大魔王様の御身に万が一のことがあってはなりませぬ。どうか、護衛に私の孫娘を付き添わせてくださいませ」


「ん?魔族が闇の魔力を使ったら、その孫娘も結界に焼かれ死んでしまうんじゃないのか?」


「それが、魔人同士が結ばれて排出された子は産まれながらにして魔人であるのですが、魔人であるせがれが、あろうことか人種族にたぶらかされ、禁断の恋をした結果、魔人と人種族との間で子を産み落としたのでございました。

 人種族の母親は元々体が弱く、魔人との子を産んだ衝撃で他界しましたが、父親のせがれはその悲しみを乗り越えられず、後を追い、、、ウッ。

 すみません、我が子を愛しておりましたので、つい感情的になってしまいました。

 そして、産まれたハーフの孫娘を私が引き取り、魔人として育ててきたのですが、どうやら闇の魔力を抑えたまま魔人の能力を持つ特異体質であったのであります。

 入って参れ。ポーム!」


 カツカツと足音を立てながら人影が近寄って来くると、数メートル先に片膝を立て、頭を下げた。


「お初にお目にかかります。大魔王デールン・リ・ジュラゴンガ様。私めはビニルが孫娘のポームにござりまする。

 人種族の血が混じっているとはいえ、大魔王様のため、たとえ光の中、聖水の中、この身を捧げる所存にござりますることを申し上げ奉り候」


 人間に近い容姿で、端正でキリっとした美しい顔立ちで強そうには見えないけど、数少ない魔人を名乗るってことは強いんだろう。


 ただなー、、、


「ポームよ。堅苦しいぞ。これから街へ偵察に行くだけだ。そうだなぁ、、、我は旅の商人で、我とソチは兄妹の設定で行くぞ」


「かしこまりました。デールン・リ・ジュラゴンガ兄上様」

「固い」

「はっ。兄上様」

「まだ固い」

「あ、兄上」

お兄ちゃんでいいんだけど、、、まあいいや。


 俺は早速、変転ゲートをくぐり商人の姿に変身すると、ビニルの転移魔法で王都ファクトリオスの近くまでワープした。

 心配をぬぐえないビニルは俺たちに路銀の100万ゴールドを手渡しながら、見送りの言葉をかけてきた。


「大魔王様、どうかご無事で。くれぐれも闇の魔力を開放なされてはならぬ事、日没までにはお帰りになられます事、ゆめゆめお忘れなきようお願い申し上げます。

 それからポームよ、大魔王様にもしもの時あらば、その身を挺してお守りするのだぞ」


「承知いたしましたおじい様」


 こうして俺は、この世界で自分自身が大魔王としての役割を果たすべきかどうかを決めるため、人種族の生活をこの目で確かめることとした。

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