第2話 転生

 ここは、、、どこだ?

 なにもない、ただただ白い空間。

 夢でも見ているのか?



 俺の名前は、、、そうだ富良津ふらつ築男ちくお25歳。

 確か、、推しのライブに参戦して、、、ウイニングソングの終盤で、、、

 ステージ天井に吊るされていた照明が突然落ちてきて、、、

 かぶりつきでオタ芸を打っていた俺は横にいた子供をかばって、、、

 直撃したんだった!


 そうか、、、俺は死んだんだな。


 メータルンバの活躍はこれからだって時になんてこった、、、、、、


 まあしかし、俺は全力で生きてきた。

 仕事はしがないサラリーマンでいまいちだったが、メータルンバと出会ってからは、彼女らを全力で推し、元気をもらって充実した人生だった。

 彼女らを目の前に、絶頂の瞬間に死ねたと思えばアリなのか?

 うん、死というものを受け入れようじゃないか。


 すると、どこからともなく声が聞こえてきた。


「私は神。そなたは横にいた子供を助けて命を落とした。その善行の褒美として何か要求があれば叶えてしんぜよう。さぁ転生の時だ」


 え?え?え?神?転生?異世界にでも行くの?、

 もしそうだとして、とりあえず最強になっておけば、困ることはないだろう。

 俺つえーして、飽きたら田舎町でスローライフやハーレムを築けば、きっとメータルンバとの別れの傷も癒えるだろう。


 ってことで、


「その世界で最強の存在にお願いします」


「よかろう。その願い聞き入れた」


 その瞬間、強い光に覆われ、目を閉じた。



・・・・・・・・・



 しばらくしてから、ゆっくりと目を開けてみると、、、


 薄暗い、

 黒い靄、、

 先を見渡すことができないくらい広い空間、、、


「ここは?」


「おおっ!よくぞお目覚めでっ!我らが大魔王。デールン・リ・ジュラゴンガ様!」


 だ、だ、大魔王?!俺、大魔王に転生しちゃったの???

 確かに最強とは言ったが、まさか悪の親玉に転生するとは想定外だ。

 いやまて、まだ悪者と決まったわけじゃない。大魔王であっても良い大魔王の可能性もある。

 目の前にいる話しかけてきた側近らしき者は、顔つきが怖く、いかにも魔族って風貌だが、悪い奴だと決めつけるのはまだ早い。


「千年の封印から解き放たれし大魔王様。実におめでたきや。早速、大魔王様復活の祝賀に町一つを消滅させ、そのお力を人種族どもに知らしめましょうぞ!」


 あちゃー!やっぱり悪い奴だったー!!

 わずかに期待していたが、ですよねー。大魔王といえば悪の総大将ですよねー。

 スローライフしたいとか言い出したら、きっと腰抜け認定されて部下全員に袋叩きにあっちゃうヤツですよねー。

 ここはひとまず、落ち着かせよう。


「まぁ待て。そう焦るでない。じわじわ行こう。じわじわと」


「さすが大魔王様。真綿で首を絞めるように、人々が苦しむ姿を楽しみながら、ゆっくりとなぶり殺していくのですね。御意」


 そういう意味ではなく。荒っぽいのが嫌いだから、やらない方法で時間稼ぎのつもりで言ったんだが、、、

 しかし、魔王となってしまった以上その役割を果たさないとこの世界にもいられなくなりそうだし、困ったなぁ。


「そ、そうだ。我が封印されていた間の状況を説明してくれ。えぇと、お主の名は確か、、」


「ビニルにございます。

 千年前のあの日、勇者パーティーが自らの命と引き換えに放った極大魔法で封印されてしまった大魔王様。

 それから世界は一旦平和となりましたが、魔族が減ったことにより次は、食料や資源をめぐり人種族同士で争いが始まりました。

 実に愚かな種族だとつくづく実感いたしました。

 僅かに生き残った我々魔族の魔物、魔獣、魔人は各地で細々と暮らし、何とか生き延びてまいりました。

 それもこれも、大魔王様が封印されてもなお、玉座に安置された封印玉から流れ出る闇の魔力があってこそでございました。

 ただ、、若干ではございますが、魔族の中でも不埒ふらちなものもおりまして、人種族と友好的に交流するような輩が現れ始めました。

 私の息子など、人種族と交わる始末。大魔王様にお詫びのしようもございません。

 だがしかし!大魔王様が復活なされた今、再びこの世界を魔族が支配し、混乱と恐怖に陥れましょうぞぉー!」


「そだねー」


 軽く相づちを打っておいたが、やはり恐ろしい集団だ。

 はたして俺の豆腐メンタルでどこまで持つのやら。

 

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