推しと共に異世界転生。俺が魔王で推しが勇者!?立場がアレでも推し続けたい。

団田図

第1話 はじまり

わかっている。いずれ誰かと恋に落ちるであろう事は。

わかっている。いずれ引退するであろう事は。

わかっている。偶像を追いかけている事を。


でも今この瞬間、俺は生きている!!

この身が朽ちるまで、我が人生、推しに捧げる!!


「ヨーイヨイ!ヨーイヨイ!

チントンシャン!チントンシャン!ヨーイヨイ!」


 新人アイドルの登竜門ともいわれる、奥日光アイドルフェスで悲願の優勝を果たした『メータルンバ』。

 メタルとルンバを融合した世界観で脚光を浴び、北関東ではそこそこ有名になりつつある3人組みアイドルグループ。

 俺は今、彼女たちのウイニングランならぬウイニングソングで、全力のオタ芸を打っている。

 3年前の路上ライブで彼女たちを見かけたときから今まで、支えてきた甲斐があったってもんだ。


 泣くな俺!

 泣くんじゃない!!

 ここはゴールじゃないんだ!!!

 そうだ!スタート地点なんだ!!!!

 伝説の始まりなんなだぁー!!!!!!!




 というのが、つい先日までの俺。


 それが今はというと、、、


「わー。またレベルアップしてしまいました!強くなってる実感があります!」


 俺の目の前で無邪気にはしゃぎ、満面の笑みを見せる女冒険者。

 そんな彼女に気づかれないよう、俺は人差し指を立て、木陰へ向けて魔力を込めた球体を放つ。

 やがてその球体は魔物へと変化し、木陰から突如現れたというていで彼女へ襲い掛からせる。


「あー。またまた、経験値の多いレアモンスターをみつけちゃったわ。私ってホントラッキー。えい!」


 女冒険者はまだ狩に慣れていないため、両手で持った短剣をゆっくりと魔物の胸へと突き刺し、倒した。


「またまたまたレベルアップしてしまいました。すごく弱いのに、たくさんの経験値をくれるなんて、異世界って案外楽勝かもです。えへへ」


 またしてもはしゃぎ、俺に笑顔を見せてくれる彼女。俺は『すごいじゃないか』という表情で答える。


 そんな俺こと、富良ふらつ津築男ちくお25歳は、推しのライブ中に起きた照明落下事故で死んでしまい、ファンタジーな異世界に転生してしまった。

 だが、共にいる女冒険者の彼女は知らない。


 魔物は俺が産み出しているという事を。

 通常はとてもすばしっこく、高レベル冒険者であっても狩ることが困難なDDダッシュデスラビットに超鈍足の呪いをかけているという事を。

 異世界転生したのが自分以外にもいるという事を。


 そして、行商人に変身したこの俺が異世界最強の大魔王だという事も。


 なぜこんなことをしてるのかって?

 彼女はここ異世界へ転生しても、アイドルであり続けたいと言ったからなのだ。

そして何より、この女冒険者こそが『メータルンバ』のメンバーであったアルミルこと、望木もちき彩都さいつちゃんであり、この俺の推しであるからなのだ!

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