第36話 ついに弁当へ

 三十一日目。

 開店前に、昨晩変更したレイアウトの再確認。

 新たにサラダを販売するにあたり冷蔵ショーケースを購入したので、久しぶりにレイアウトを変更したわけだ。

 特別な想いのあるレジ脇のタツルが使っていたペットスペースはそのままにして、ショーケース類は販売カウンター側に移動させ見えやすくした。


 この移動に伴い、とりの唐揚げは串タイプも販売を始める。値段とかは一緒なんだけど、串焼きっぽくなってこっちの人達にはなじみ深くなったと思う。「コレください」で注文し易くなったのも、良い改良点だと思いたい。


 肝心のポテトサラダの値段は、一カップ二百五十ウィッチ。

 メシポイント二消費で五カップ分とれる割に少し高めなのだけれど、それには理由がある。カップ代が二十、竹フォーク代が二十五と、この部分を合わせただけで四十五ウィッチもかかってしまうのだ。

 更に盛り付けの手間を考えると、むしろこのくらいが適正価格かなと思っている。

 あとは、マヨネーズの美味しさへの自信。是非とも異世界の皆様には、マヨネーズ大好きになってもらって儲けさせていただきたい。


 

 店の雰囲気が変わったことで、気持ちを新たに開店。

 今日はジョーさん達の予約もないので、当然朝一はいつもの子の相手となる。

 一応、ポテトサラダについても説明をしてみたのだが、やはりこの子は肉派のようで唐揚げを選んだ。

 最近の選び方を見ていると、お腹を満たしたいときだけおにぎり類にするみたい。


 次は、もちろんトリスさん。

 朝から「また新しいのが増えて変わったな」なんて言われつつ、ポテトサラダについて説明する。


「じゃがいもっていう芋なんですが、えーっと、野菜ですね。それを潰して、特殊なマヨネーズっていうソースを絡めたものです。他の野菜もいくつか入ってますので、色も鮮やかで美味しいですよ」

「ほーん。じゃあ今日は、塩が二つに特別セットとポテトサラダってのを頼む」


 いつものように、トリスさん用の鮭と昆布が入った特別セットに、おそらく焼きおにぎり研究用の塩おにぎりが二つと、ポテトサラダの注文。

 やり取りを終え、セットの紙容器と紙コップに入ったサラダを手にして帰るトリスさんの姿は、なんとなく弁当屋に来る労働者に見え、日本の風景を思い出させてくれた。



 三十二日目。

 昼過ぎになり、今回も新商品発売開始の翌日に眼鏡のイケオジが来店。

 さすがに毎回こうもタイミング良く来られると、魔女の店の特殊性も踏まえて、この人はこの地域の領主もしくは為政者から依頼されて、この店の調査及び監視を行っている人ではないかと感じ始めている。

 ただ、そういった立場の人であっても何か言ってくるわけでもなく、来ると大量に買ってくれるしで、個人的には大歓迎。

 今回も試食の後、セットを複数とポテトサラダも大量に注文してくれた。マヨネーズはやはり好評で、作り方を聞かれたけれど「わかりません」と答えておいた。よく卵の菌の話なんかを聞くし、いい加減な知識で答えて問題になっても困るのでね。


 しかしここで、別のちょっとした問題が発覚。

 ポテトサラダを大量に購入された場合、紙袋にカップを詰めることになるのだが、俺としては蓋がないので衛生的に非常に気になってしまう。

 急いで何かないかと探していると、大量に積み上げられた葉っぱが目に入った。「とりあえず」ということで葉っぱをいい感じのサイズに切り、竹フォークの柄の上からブッ刺して強引にそれっぽく体裁を保っておいた。

 なんとなく、ファストフードの飲み物っぽさもあるので、たぶんセーフ!


 イケオジが帰ったあとに、端末で蓋がないか見てみたが新着は無し。

 恐らく汁物か、飲み物がトリガーとなっているのだろう。しばらくは、葉っぱで代用するしかなさそう。



 閉店間際には、昆布おにぎりが早くも累計売上百個を達成し、レベルアップ。

 具入りおにぎりでのレベルアップなので、もちろん惣菜メニューの追加。

 唐揚げを選択する時には、コロッケが第二候補のような扱いだったが、続けて揚げ物ってのもどうなのだろうと思い、一旦保留。

 やっと定着してきたセットに選択肢を増やしてしまうと、レベルアップが遠のいてしまうという思いもある。

 一先ず、どれかセットが累計売上数を達成し、レベルが上がるまで様子をみることにした。



 三十三日目、三十四日目と特に出来事も無く営業を終えた。



 そして迎えた三十五日目。

 ついに鮭セットの累計売上が百個を達成した。

 当然レベルアップとなり、端末のアプリには新着マークが付く。

 確認してみると、思っていた通り『弁当』を設定出来るようになっている!


 自然と「ヨシッ!」と声が出て、ガッツポーズをしてしまった。


 気持ち的には今すぐに色々と設定したいところなのだが、鮭おにぎりと昆布おにぎりがそろそろレベルアップラインに達成しそうなので、それを待ってからにしようと思う。おそらく今日中に達成できるはず。


 逸る気持ちを抑えながら、せめて弁当の容器にどんなものがあるのか見ておこうとアプリでみてみると、そこには三仕切りの紙の弁当箱と、四仕切りになっている木製の弁当箱が表示されていた。

 紙製の方は、セット用の容器から若干サイズアップして、サラダを入れるスペースが追加されている。

 木製の方は、お約束の劣化軽減がついていて、仕切りも多く高級感がある。

 

 それぞれに食べ物が入った状態を想像すると、何だかにやけてしまう。怪しい人に見えるだろうが、今日ぐらいはいいだろう。



 昼過ぎ、閉店前と想定通り具入りおにぎりでのレベルアップを迎え閉店の時間となった。これで、惣菜というかおかずが二種類増やせる状態となり、とりの唐揚げと保留分を含めて四種類。


 いつもの様に片づけを行い、部屋へと戻る。

 気分が高揚しているので少しばかり散財したくなったけれど、タツルの事を思い出して思いとどまる。このペースならあと一か月くらいがんばれば、タツルとずっと一緒にいることが出来るようになるからね。


 でも、せめてもということで夕食は中華の単品メニューからエビチリを選択。

 プリっとした鮮やかな色のエビはとても美味しく、チリソースは最初甘いのかと思えば少し後から辛みが来て、食べる者を夢中にさせる。咀嚼し飲み込んだ後、またすぐに箸がエビチリへと向かってしまい、あっという間に食べ切ってしまった。

 更に残ったソースが勿体なく感じ、唐揚げを召喚して付けてみたところ、とても美味しく何だか得をした気分にさせてくれた。

 二倍楽しめるので、また何か嬉しいことがあった時にエビチリを選択しようかな。


 食後の風呂では、久しぶりにゆっくりと今までのことを思い返す時間となった。

 この一か月と少し、長かったような、短かったような……。

 

 風呂を出ると、ここのところ売り上げも増えて以前より忙しくなり、なんだかんだ疲れていたのか、すぐに眠くなってしまった。

 ついに弁当まで辿り着いたことで、少し緊張が解けてしまったのかもしれない。

 たまにはゆっくりしようと思い、明日は朝一に子供とトリスさんとのやり取りをして、後は休みにしてメニューの設定に時間を使うことに決める。


 明日の事を考え早めに布団に入ると、睡魔はしっかりと仕事をしてくれたようで、すぐに夢の世界へと意識を連れ去ってくれた。

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