第35話 一か月
三十日目。
こちらの世界に来てから、およそ一か月が経過した。
ここ数日の出来事としては、ジョーさん達からとりの唐揚げの調査結果を聞くことが出来た。
報告内容としては、主に近接攻撃をする人に影響があるようで、おにぎりの様な単純な特攻ではなく自らの技術が向上したような感覚らしい。
空いた時間に一人で理由を考えてみたが「おそらくコレ」という物は思いつくことが出来た。それは『斬る技術の向上』だ。
たしか北海道の方では「ザンギ」と呼ばれる唐揚げがあったことを思い出した。要するに「ザンギ=斬技」ということ。
ザンギと唐揚げの細かい部分の違いまでは把握できていないが、おにぎりのことから考えて食事した際の効果に関してはかなりこじつけ感が強いし、たぶん合っていると思う。
セットについては「単体より少し良さそう」というふんわりとした感想を頂いた。何か食品が追加されたわけでもないので、こちらもおそらく合っていると思われる。
一応、今後も何か気付いたことがあれば報告してくれるという話にはなっているので、現時点ではこれで良い。
あとは、おにぎりのメニューに昆布が追加された当日、宣言通りにトリスさんがガンテさんに宣伝してくれたのだが、その効果に大興奮。翌日から仕事仲間の分も買うようになった。
最初、自分の分だけ唐揚げが付いたセットにしていたようだが、仲間に何か言われたのかいくつかはセットを選ぶようになった。偉い人だけセットなのかもしれない。
更には噂を聞きつけた同業者も買いに来るようになり、昆布おにぎりの売り上げは、数日後には鮭おにぎりの累計売上を超えそうな勢いとなっている。
主だった出来事としては、そんなところか。
今日は節目の日ということで、夕食は久しぶりに豪華にしようかと考えながら営業していると、突然のレベルアップに驚くこととなった。
慌てて端末で確認すると、とりの唐揚げの累計販売数が五百を突破している。
ここのところ昆布ばかり意識していたので、三桁になりあまり変わり映えのしない唐揚げの数字を流し見して気付くのが遅れてしまったようだ。
気を取り直して、何が追加されたのかとワクワクしながら召喚の項目を確認すると『サラダ』が増えていた。といっても種類は一つで『ポテトサラダ』のみ。今回は選択式ではないみたい。
とにかく、個人的にはとても嬉しい。
で、肝心の召喚単位はグラム。消費二で五百グラム。多いな……。
これで自分の想像するお弁当に一気に近づいたと感じつつ、早速セットに追加しようとしてみたが、どうやら今の時点では選択不可らしい。
不満に感じながら理由を考えてみたが、コレというものは思い浮かばない。ただ、順を追って成長すると考えるならば弁当の解放条件は、セット商品の累計売上達成時なのかもしれないという気はする。
上がったテンションが急降下してしまったが、一先ず店舗アプリにも新着があるので開いてみると、こちらはいくつか増えていた。
まず、冷蔵ショーケース。
弁当屋によくある小さ目の物から、ケーキ屋にあるような上に物を置くことも可能な大きな物まで数種類。
いずれは必要となってくるのだろうが、ポテトサラダ一つのために購入するのは少々気が引ける。安い物ではないしさ。
他には、サラダ用と思われる紙のカップ。
スープカップとよくある飲料用の一般的な物とがあり、サイズはジュース等で使う飲料用の方が大きいのに若干安い謎。耐熱など強度の問題、もしくは純粋に需要の関係で大量生産されるから単価が低いのか、理由としてはそのあたりかな。
今のところ、サラダならどっちでもいい気はするので安い方を選ぼうと思う。ロゴを入れた物が百個入りで二千ウィッチ。
さて、試してみるかと思ったところで止まる。ポテトサラダを入れるバットもしくはボールと、盛り付ける道具がない。
すぐにマジジャンで探してみると、なんだかたくさん種類が存在する。
今までバットといえば、深さ三センチメートルほどの浅く平べったい物を想像していたのだが、浅い物から深い物まで物凄い数がありビックリ。
そういえばファミレスなんかのサラダバーを想像すると、店により様々なタイプが存在していたことを思い出した。あれも全部バットの仲間だったと知り、どうでもいいことだが少し賢くなってしまった。
深めで蓋の付いた物を選択し、カートに入れる。大きめなので十リットルくらい入るようだ。
続いて、盛り付け用にアイスを掬うアレを探す。
ほうほう。君は「アイスクリームディッシャー」という名だったか。
こちらもサイズがいくつかあり悩む。
少し大き目でいいかとも思ったのだが、よく見てみるとサイズが大きくて紙コップにちゃんと入らなそう。仕方なくやや小さ目でサイズが合いそうな物を選び、これでカップに二回掬うことに決めた。小さ目と言っても普通のアイス用くらいだけどさ。
手間ではあるが、二回入れるというパフォーマンスは同じ量でも相手に満足感を与えることが出来るかもしれないし、丁度良かったかもしれない。
他に必要な物がないかと考えたが、すぐには浮かばずお会計。
二つ合わせて七千五百ウィッチの出費。
ようやく道具が揃ったので試そうと思ったが、バットをそのまま使うのに少々抵抗を感じ、初回は皿の上にポテトサラダを出すことにした。バットは洗って干しておく。
アイスクリームディッシャーの方は、洗ったあとすぐに振って水をとばしそのまま利用。カシャカシャと何度か動かして遊んだ後、ポテトサラダを掬い紙カップに入れてみる。
うん。バッチリ二回入れることが出来た。
実食! というところで、カトラリーが無いことに気付き、何度目かの躓き。「だー!」と軽く呻きながら買っておいた竹フォークを使うことにして、ついに口に入れることが出来た。
さすがに若干イライラしていたので、これ以上何かあると直接指で食べる所だった。あぶないあぶない。
味の方は、美味しいけれど様々な物を食べ慣れている俺にとっては普通。
完全にペースト状ではなく、ゴロっとした塊が残っているのは評価できる。あと、マヨネーズの割合と酸味もいい感じ。
残ったポテトサラダは、単体で五百グラムも食べる気にはならないので一旦冷蔵庫に入れておいた。
販売スペースに戻り、ポテトサラダを販売するシミュレーションをしてみたが、毎回冷蔵庫にとりに行くのが少々面倒。
ただ、カップに入れた状態でも置いておけることは良い部分かもしれない。急いでいる人にはそれで対応できる。
なんにせよ、すぐには必要ないだろうと思った冷蔵ショーケースが楽をするためには必要だとわかり、ため息が漏れる。
ここに来た当初、塩おにぎりしかメニューが無かったことを思えば、店として随分とマシになったけれど、未だに弁当らしい商品を売ることが出来ていない。
メニューも増え嬉しいはずの節目の日は、なぜかテンションが下がるという悲しい一日になってしまった。
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